管理職研修は、管理職が抱える課題について、解決する力を身に着けるための研修である。管理者には自分の仕事に関することだけでなく、チーム全体を見て上手く管理することが求められる。この記事では、管理職研修の実施を検討している担当者の方のために、管理職研修について解説する。

管理職研修が必要とされる背景

管理職になれば管理職に求められる能力が身に付く訳ではない。また、必ずしもプレイヤーとして優秀な社員が良い管理職になれる訳でもない。本章では、管理職になるとぶつかる課題および求められる能力を詳しく解説する。
管理職が抱える4つの課題
会社において、プレイヤーから管理職になった際にぶつかる課題は4つある。
- 組織との課題
- 関係者との課題
- 部下との課題
- 自分との課題
上記の課題に悩む管理職は多く、事前に管理職を受け入れる側の体制を整えるための研修が必要とされている。
組織との課題
組織との課題としては、組織の方針やルールに従いながら、限られた予算やリソースの中で最大限の成果を出すために、効率的な運営を行うことが挙げられる。
具体的な課題例: ・経営層の戦略を現場レベルに翻訳して伝達する難しさ ・予算制約の中での目標達成プレッシャー ・組織改編や制度変更への適応と部下への説明責任 ・コンプライアンス遵守と業務効率のバランス調整 |
関係者との課題
関係者との課題として、他部署の社員など社内外関係者と多方面の調整・連携をしながら、その要求に応えつつ、問題を解決していくことが挙げられる。
関係者調整で重要なポイント: ・部門間の利害対立を調整する交渉スキル ・社外パートナーとの関係構築と維持 ・上司への報告と提案のタイミング判断 ・横断的プロジェクトでのリーダーシップ発揮 |
部下との課題
部下のモチベーションや成長を促進するため、スキルに合わせたアサインやサポート、フィードバックを行うことが部下との課題として挙げられる。
部下育成における重要な要素: ・個人の特性やキャリア志向を理解した育成計画 ・世代間ギャップを考慮したコミュニケーション ・適切な権限委譲と責任の明確化 ・成果評価と改善指導のバランス |
自分との課題
自分に関する課題として、自分の業務と全体のマネジメントのバランスの良い配分が挙げられる。管理職は一般社員と異なり職域が広いため、セルフコントロールができていないと過重労働になりやすく注意が必要である。
セルフマネジメントの重要性: ・プレイヤー業務からマネジャー業務への時間配分転換 ・意思決定の迅速性と慎重性のバランス ・ストレス管理と精神的な負荷への対処 ・継続的な自己啓発と学習習慣の確立 |
管理職に求められる3つの能力
管理職に求められる能力は以下の3つである。
- コンセプチュアルスキル
- ヒューマンスキル
- テクニカルスキル
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルは、情報や知識を照らし合わせて理論的・創造的に考え、問題の本質を把握する能力である。管理職には、複雑な状況や課題を冷静に分析し、重要な要素を抽出した上で、戦略や方針を決定することが求められる。
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルは、対人関係能力とも呼ばれる円滑な人間関係を築くためのスキルである。管理職は部下や経営層、他部署など多様な接点を持ち、意思決定や調整、育成などを円滑に進めることを求められている。
テクニカルスキル
テクニカルスキルは、業務遂行能力とも呼ばれ、業務を遂行するために必要となる知識や技術に関するスキルである。具体的には、会社や自部門の業務に関する基礎知識や技術、商品・サービスに関する知識、業界知識などがある。業務は部署によって異なることから必要なテクニカルスキルは部署によって異なる。
管理職研修の4つの種類と目的

管理職研修には、目的や対象者などに合わせてさまざまな種類がある。ここでは、管理職研修の4つの種類と目的について解説する。
- 新任管理職研修
- チームビルディング研修
- 中級管理職研修
- 上級管理職研修
新任管理職研修
新任管理職研修は、新たに管理職へ昇進した人に対して行う研修である。管理職とプレイヤーでは、求められる役割は大きく異なる。新任管理職研修を受けることで管理職の役割を理解し、組織の成果最大化に貢献するために必要なスキルや知識を身につけることにつながる。新任管理職研修の目的は、管理職として意識転換をすることまた、業務遂行に必要なスキルを身につけることといえるであろう。
チームビルディング研修
管理職にはチーム力のアップに取り組むことも求められる。チームビルディング研修は、ゲームやワークを通してチームで協力し、目標達成するための考え方や行動を学ぶ研修である。チームビルディング研修は、組織の成果を最大化するために必要となるスキルや知識を学ぶことを目的として行われる。
中級管理職研修
中級管理職研修は、管理職へ昇進してからある程度期間が経過している、新任管理職と上級管理職の間に位置する管理職に対して行う研修である。マネジメント能力の向上、チームビルディング、コンプライアンスなど多岐にわたる能力の育成を図る。この研修の目的として、マネジメントスキルを補強し、さらに応用力をつけることや次期上級管理職として意識を高めていくことが挙げられる。
上級管理職研修
管理職の中でも、部長以上など組織の経営者的ポジションを担う管理職に対して行う研修である。上級管理職の大きな役割は、組織の戦略立案とリスクマネジメントといえる。これまでの求められてきた役割と今後の役割の違いを認識し、より経営層に近い位置づけを認識してもらうことが、上級管理職研修の目的である。
管理職研修の主な内容・プログラム

管理職研修では、研修を受ける管理職の状況や身につけて欲しい知識、スキルが各企業により異なるため、最適な内容・プログラムも企業によってそれぞれである。代表的なものとしては、次のものが挙げられる。
代表的な管理職研修プログラム: ・基礎研修 ・フィードバック研修 ・チームマネジメント研修 ・リスクマネジメント研修 ・組織マネジメント研修 ・コンプライアンス研修 など |
実際の内容・プログラムを決定する際は、自社の管理職の育成状況や経営戦略を把握しながら、現状や現場に必要な内容・プログラムを選定することが、効果的な研修を行うための重要なポイントである。
実施者視点の管理職研修におけるレポートの書き方・例文
管理職研修は開催したら終わり、という訳ではない。今後に向けた実施レポートを作成し、実践につなげることが重要である。レポートの項目としては「研修テーマ」「研修の目的・内容」「研修企画の背景」「達成したい目標」「研修参加者の声」「今後に向けた改善点」などが挙げられる。
「研修参加者の声」や「今後に向けた改善点」は、今後の研修を改善するために重要な項目である。開催にあたってかかったコストや開催中のトラブル(トラブルが発生した場合には、その対応方法)を振り返りながら、今後どうすればよいかを具体的に記載するとよいであろう。
また、レポートを作成したことがわかるようにしておくのも重要である。現在の関係者だけでなく、今後の関係者のことも見据え、データの保存媒体・場所についても考える必要がある。
実施者レポートのテンプレート・例文
下記は研修を実施したあとに実施者が記入しておくレポートのテンプレートである。合わせて、「研修で達成したい目標」や「今後に向けた改善点」の例文も紹介する。
研修テーマ | ― |
開催日時 | ― |
会場 | ― |
講師名 | ― |
受講料 | ― |
研修の目的・内容 | ― |
研修企画の背景 | ― |
研修で達成したい目標 | 【例文】 ・チーム、メンバー個人の目標設定の方法と、達成にいたるために検討すべき項目を学んでもらう。 ・現状の課題を洗い出し、研修で得た知識をもとに実際に改善するための方策を出してもらう。 |
今後に向けた改善点 | 【例文】 ・講師と打ち合せする時間が足りなかったため、次回はもっと長めに期間を取って研修の計画を立てる。 ・研修時間が長すぎて、後半は受講者の集中力が切れていたように思う。次回は短めに時間を取る、または数日に分けて開催するなど工夫するべきだと感じた。 |
受講者レポートのテンプレート・例文
次に、研修を受講した人に書いてもらうレポートのテンプレートを紹介する。「成果や学び」「感想・意見」については、何を書けば良いのかわからない受講者も多いため、レポートの余白に例として記載しておくとよいであろう。
研修テーマ | ― |
開催日時 | ― |
会場 | ― |
講師名 | ― |
受講料 | ― |
研修の目的・内容 | ― |
達成したい目標 | ― |
研修で得た成果や学び | 【例文】 ・チームマネジメントにおけるメンバーの強みの見極め方や効果的なアサインの仕方を学んだ。 ・コンプライアンス違反のリスクヘッジについて実践的なやり方を学べた。 |
感想・意見 | 【例文】 ・着任したばかりで不安が大きかったが、今回の研修でかなり払拭できた。 ・知識を入れるだけで終わってしまったので次の研修ではロールプレイングを入れてほしい。 |
管理職研修を成功させるポイント

管理職研修を成功させるためには、開催方法や時期などの工夫が必要である。ここでは、管理職研修を成功に導くためのポイントを詳しく解説する。
5月・6月に実施する
管理職研修を開催するのに効果的な時期は5、6月である。新年度から管理職になった人にとってはやっと実務に慣れ始める時期で、管理職として求められる知識やスキルを実務と並行して修得するのに最適といえる。また、この時期は管理職して過ごす中で、悩みや課題も感じ始めるタイミングである。管理職研修によって、悩みや課題を解決する学びを得ることにつながる。
管理職研修では、講師が一方的に教えるだけでなく、部署を超えた関係性の構築や新たな気づきを期待し、管理職同士で話し合う場を設けるとよいであろう。
明確な目標を設定する
管理職研修を成功させるためには、研修受講後のゴールイメージを明確にする必要がある。管理職には経営者・メンバー双方の視点を持ち、経営者が示した経営理念や戦略を理解した上で、メンバーに自らの言葉で伝えることが求められる。そして、メンバーのスキルアップに取り組みながら、組織の成果を最大化するために努めなければならない。
効果的な管理職研修を企画するには、現場の課題感や管理職の抱える悩みを把握しておくことも重要な観点のひとつといえるであろう。
研修サービスを提供する企業にコンサルティングを依頼する
管理職研修の実施には、人材育成に関する幅広い知識とノウハウが求められる。効果的な研修のカリキュラムを自社の力だけでくみ上げるのは、とても難しいといえる。
そこで、研修サービスの専門企業や外部企業へ依頼することが有効な選択である。研修サービスを強みとする企業に依頼すれば、研修テーマに精通した講師を呼び、スキルや知識を学ぶ機会を作ることができる。
効果的な管理者研修を実現しよう
管理職には多種多様な課題があり、解決のための効果的な知識を学べるのが管理職研修である。管理職研修は新たに管理職になる人に対してはもちろん、新人管理職を受け入れる側である管理職に対しても行うことが重要である。また、管理職の段階によって求められる能力は異なるため、それぞれのステップにあった数種類の管理職研修を行うことが重要である。
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