派遣法と雇用規制強化の行方

製造業派遣や登録型派遣の原則禁止を骨子とする労働者派遣法改正案が、この通常国会に提出される運びとなっている。元々は厚労省の公労使で構成する労働政策審議会において、日雇い派遣の原則禁止を中心とする改正案が打ち出され、事実、08年11月に国会に提出された経緯がある。 ところが民主党政権に交代後、長妻昭厚労相が労働政策審議会に改めて改正を諮問し、結果的に民主党がマニフェストに掲げた内容通りの改正案になった。政権が代われば厚労省の役人の考えはもちろん、公労使3者の審議会の結論まで逆転する現実をまざまざと見せつけた。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

派遣先との雇用契約が成立するケースが拡大

今回の改正案のポイントは主に次の4つである。

 ①日々または2カ月以内の日雇い派遣の原則禁止
 ②登録型派遣の原則禁止(専門26業務などは例外)
 ③常用型派遣を除く製造業派遣の原則禁止
 ④違法派遣の直接雇用みなし規定の創設

直接雇用みなし規定は、登録型・製造業派遣の禁止に劣らず重要である。これは偽装請負などの違法派遣であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合は「違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設ける」(労政審報告書)としている。

つまり派遣元ではなく、派遣先の労働者と見なすというものだ。すぐに思いつくのが、昨年12月のパナソニック(旧松下)プラズマディスプレイ事件の最高裁判決である。

偽装請負状態で働いていた派遣労働者が派遣先の労働者であることを求めて争い、「黙示の労働契約」があったとして派遣先との雇用契約が成立するとした高裁判決を破棄したものだ。

最高裁は労働者派遣法の規定に違反していても「特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべき」(判決文)として、派遣先との雇用契約関係を認めなかった。だが、今回の改正法案が成立すれば、今後は派遣先の労働者と見なされることになる。

改正案では、偽装請負だけではなく、禁止業務への派遣受入れ、無許可・無届の派遣元からの派遣受入れ、期間制限を超えての派遣受入れの場合なども直接雇用と見なすことにしている。

さらに履行を確保するために、通常の民事訴訟などに加え、直接雇用者として就労させない派遣先に対する行政の勧告制度を設けることにしている。

中小の派遣事業者との間で行政に気づかれずに違法派遣状態を続けている派遣先は現状でも少なくないと聞く。放置しておけば、訴訟沙汰に発展する可能性が高い。

登録型・製造業派遣禁止の影響も少なくない。派遣労働者数は約200万人。このうち26業務に携わる派遣労働者は100万人。直接影響を受けるのは常用雇用以外の製造業派遣を含む44万人である。リクルートワークス研究所の試算によると、製造業派遣と登録型派遣が同時禁止となれば、約18万人が失職すると予測している。

また、派遣先への影響も大きい。大企業では総人件費の上昇を招き、生産拠点の海外移転に拍車がかかるとの懸念も指摘されている。とりわけ経営体力や人材採用力に乏しい中小企業の人材不足が深刻化する可能性もある。

今回の改正案ではこの点を踏まえ、激変緩和措置として、登録型派遣と製造業派遣の禁止の施行日を公布日から3年以内とし、登録型派遣の禁止はさらに2年の猶予期間を設けることにしている。だが、社民党の福島瑞穂党首は猶予期間が長いと主張しており、与党内で揉める可能性もある。

すでに派遣規制の流れを受けた動きが始まる

自動車や電機メーカーでは派遣労働者ではなく、業務請負や期間従業員などの直接雇用に切り替える企業が増えている。たとえば系列企業や下請企業からの「出向」の形で工場人員を補充している自動車メーカーもある。

派遣会社の経営も深刻だ。法改正による影響で倒産や淘汰が進む一方、請負業や人材紹介業に転換する動きも出ており「すでに大手製造業や銀行、商社ではグループ企業の派遣会社を閉める動きも出ている」(人材派遣会社役員)という。

いうまでもなく今回の法改正は、製造業を含めて常用雇用以外の労働者派遣を禁止し、雇用の安定を目的にしている。ただし、常用雇用といっても有期契約労働者も含まれる。半年や1年間の有期雇用契約を結び、その後雇い止めされるのでは安定雇用とはいえない。

じつは今年は雇用規制に向けたもう一段の動きが始まる可能性もある。契約社員など有期雇用労働者の保護を目的とする労働契約法の改正である。民主党は「09政策集」で非正規労働者の労働条件確保を掲げ、期間の定めのある雇用契約についての締結事由や雇い止めの制限を行うとしている。

すでに厚労省は「有期契約労働者の雇用管理の改善に関する研究会」で検討を進めている。一方、日本労働弁護団は有期労働契約者の契約解除を厳しく制限する独自の労働契約改正案を公表している。

また、民主党の最大の支持母体であり、労働政策にも強い影響力を持つ連合は、今年からパートなど非正規労働者の組織化を強力に推進することにしており、非正規労働者の保護を強く求めてくることは間違いない。

雇用規制の強化が安定雇用につながるとしても、必ずしも雇用創出にはつながらない。逆に行き過ぎると失業者の増大をもたらす可能性もある。とくに不況を脱していない現状では規制強化は諸刃の剣にもなりかねない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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