日本人材ニュース
溝上 憲文 編集委員・ジャーナリスト
この20年の間にサラリーマンを取り巻く人事環境がどう変わったのかを検証したいと思ったのが執筆の動機だ。“失われた20年”と言われる経済停滞の裏で、日本的経営の美点とされた「長期雇用」と「年功的処遇」、そして何より、ロイヤルティーで結びついた会社と社員の関係がどのように変質したかを知りたいと思ったからだ。
採用、給与、昇進、雇用の4つを切り口に改めて過去の資料や取材記録を渉猟し、近年の動きと将来像について人事部長諸氏の本音の声を取材した。
そして辿り着いた結論のイメージは「選別主義」の強化である。採用選別に始まり、入社後の給与、昇進、そして早期のリストラに至るまで、恩恵に浴する一部の人を含めて企業内の処遇の階層化が拡大している。
昨年、韓国サムスン電子の人材育成について取材する機会を得た。その人材投資は日本企業を凌駕するものであったが、根底にあるは2代目オーナーのイ・ゴンヒ会長の「1人の天才が1万人を食べさせる」という言葉に象徴される「コア人材主義」である。
韓国は1997年の通貨危機を経て、生き残りをかけてグローバル企業への脱皮を図った。通貨危機以前は終身雇用を標榜していたサムスンだが、この20年間に半数以上が退職している。
サムスンを見ていて、日本企業の選別主義の流れは止まるどころかますます加速していくのでないかという予感を抱いた。音を立てて崩れ始めている長期雇用や年功的処遇、そして社員の会社に対するロイヤルティーの溶融が始まっている。
サムスンは強力な権限と高い報酬主義で社員の心を揺さぶる経営にシフトしているが、果たして日本企業はどのようにして社員との紐帯を築いていこうとしているのか。
本書は選別主義の実態について詳述するとともに、かつて世界に誇った日本企業の“伝統的価値”を経営者たちがなぜ、かなぐり捨ててしまったのか、人事部の声を通じて探っている。ぜひ、多くの人事関係者に読んでもらい、所見を賜れば幸いである。
溝上憲文 著
文藝春秋、809円