組織・人事

2017年 人事動向の振り返り

2017年は良い意味でも悪い意味でも人事部が振り回された1年だったのかもしれない。本記事で2017年の人事まわりの動きを振り返る。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

2018年卒採用ではインターンシップが主流

2018年卒採用でも売り手市場の中で選考活動が大きく変わった。経団連の指針では3月1日広報活動、6月1日選考活動解禁となっているが、実質的に会社説明会と変わらない「1dayインターンシップ」を含む「採用直結型インターンシップ」が流行し、経団連のルールも完全に形骸化してしまった。

大学3年生の8月の夏休みに始まるインターンシップを皮切りに就活が始まり、運良く翌年6月に内定を取れればよいが、取れない学生は1年以上も続けることになる。就活の長期化は企業も同じだ。

大手食品会社の採用担当者はこう嘆く。「当社だけではなく同業他社も前年の6月1日に始まる就職情報会社のインターンシップサイトのオープンでエントリーを受付し、その後面接して可否を判断する。インターンシップ終了後は参加者のフォロー活動として工場見学や職場見学会の開催や大学訪問による学内セミナーの開催もある。翌年3月には企業説明会が始まるが、インターンシップ選考と並行して一般選考も始まり、終わるのは6月末。その後は来期のインターンシップの準備が始まり、ほぼ一年中採用活動に費やしている」

特に中小企業は採用活動が長期化

それでも大手企業はまだいいほうだ。中小企業の場合は大手と同じように前年の夏にインターンシップを開始しても、採用活動が終わるのは翌年の12月どころか越年するところも珍しくない。費やす人手も資金もばかにならない。

マイナビの調査では、採用費の中で就職サイトなどの広告費のウエイトが40%を超えている。中小企業を中心に就活サイト離れも進行しており、就活戦線が長期化する中で、大企業、中小企業に限らず、今後の採用戦略が大きく見直されてくる可能性もある。

働き方改革 同一労働同一賃金

政府主導の「働き方改革」にも振り回された。

前年の2016年12月末に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が出され、今年の臨時国会で法案審議の予定が組まれていた。そのため慌てて、正社員と非正社員の処遇格差の検証や見直しに着手する企業もあった。ところが政府与党の突然の解散で法案審議は越年になった。

働き方改革 時間外労働上限規制

もう1つの「時間外労働の罰則付き上限規制」も驚きをもって迎えられた。

時間外労働時間年間720時間(月平均60時間)を上回る特別条項付き36協定を結んでいた大手企業も多い。加えて電通の女性新入社員の過労自殺が明るみになり、電通に対する厳しい捜査が連日のように報じられた。さらに労働基準監督署も大手企業を中心に臨検の枠を拡大し、有名企業も是正勧告を受ける事態になった。各社の人事担当者は、いかに残業時間を減らしていくのか、今まで以上に必死の対策に追われた。

プレミアムフライデーの実施

政府主導のイベントも実施された。強制力はないが、今年2月に始まったプレミアムフライデー(PF)もその1つだ。

経団連と経済産業省の旗振りで始まった月末最終金曜日の午後3時の早帰りを促すイベントは、商機にあやかりたいロゴマーク使用申請企業は8000社を超えた(2017年10月20日現在)。だが、肝心の早帰りを実施している企業や社員は、各種調査を見ても非常に少なく、実質的に失敗に終わったといえるだろう。

失敗の最大の原因は消費喚起策と働き方改革を一緒にしたことではないか。企業にとって忙しい月末金曜日を主導したのは経産省と商品・サービスの供給側である流通・サービス業界であり、給料日後の金曜日が売上げも大きいという都合で決まった。

しかし、政府の働き方改革や休み方改革の一環として取り組むとなると、労働者に公正・公平に休みが享受されることが原則だ。しかし、消費イベントに関係のない需要サイドの労働者が早帰りできたとしても、供給サイドの労働者はPFイベントに合わせて仕事が忙しくなり、早帰りどころか残業せざるをえない。仮にサービス業の会社でPFを実施するとしても、早帰りできるのは一部の社員であり、社員間に不公平が発生する。

食品加工販売業の人事部長は「当社は工場と小売店舗を展開していますが、工場は金曜日を含めてフル稼働なので難しい。また逆に小売店舗はPFに合わせて販売が忙しくなる。やろうと思えば本社などの事務方の社員は早帰りできるでしょうが、営業や販売部門から『早帰りするなんてふざけている』という批判が飛び出すのは必至。それこそ3時に帰るなら店舗の手伝いに来いといわれかねない。社員の公平性の観点からやらないことにしました」と語る。

経団連や業界団体の同調圧力に弱い経営者の中には「うちもやれ」と指示した人もいたが、人事部長の説得で断念した企業もある。

働き方の本質を理解しないままに、消費喚起策にかこつけてキャンペーンを張る政府の姿勢は逆に企業を混乱させることになりかねない。

テレワークの推進

じつはそれと似たようなイベントもあった。7月24日に実施された「テレワーク・デイ」である。本来は働き方改革の一環であるが、実際の目的は2020年の東京オリンピックの開会式当日の交通機関の混雑緩和を図ることにある。しかも来年以降も実施する予定だ。

当日は922の企業・団体が参加し、事務局はテレワーク・デイについてオリンピックを契機に全国的にテレワークの普及と働き方改革のレガシーにすると謳う。だが、参加企業を見ると情報通信会社やサテライトオフィスを提供する不動産関連会社などテレワーク関連サービス業が目立った。このイベントも失敗したプレミアムフライデーの印象と重なる。

働き方改革の推進自体は結構なのだが、政府主導の玉石混淆の政策はちゃんと吟味して実施してほしいものだ。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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