組織・人事

最新のテレワーク事情

11月は政府と産業界が後押しする「テレワーク月間」であったが、知らない人も多いのではないか。そもそもテレワーク自体を知らない人も少なくない。今回はテレワークの最新事情を解説する。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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働き方改革の一環として推奨

テレワークとは、情報通信技術(ICT)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことだが、働く場所による区分で①在宅勤務、②移動中などのモバイルワーク、③サテライトオフィス勤務――の3つを指す。

政府は働き方改革の一環として時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力開発発揮が可能になると言って推奨している。

テレワーク制度の知名度は低く、導入にも消極的

2020年にテレワーク制度導入企業34.5%、雇用型テレワーカー15.4%の達成を政府は目指しているが、政府のかけ声とは反対に導入企業や利用者は少ない。

エン・ジャパンの「テレワーク実態調査」(2018年6月18日、8341人)によると、「テレワークという働き方を知っている人」は40%と半分もいない。20代は31%にすぎない。また、勤務先にテレワーク制度があると答えた人は17%、テレワーク制度を使って働いたことがある人は4%にすぎない。

なぜ会社はテレワークの導入に消極的なのか。大手医療機器メーカーの人事担当役員は時期尚早だと語る。

「テレワークの目的は生産性の向上にあります。だが多くは育児中の社員のためのベネフィットになりがち。そうなると生産性は置いていかれる。もう1つはテレワークする社員の成果をちゃんと評価してあげることが肝になります。成果を出すにあたって部署のメンバーとの協働しているプロセスも含めて評価してあげることが需要ですが、目の前にいる部下の成果をちゃんと評価できないような上司も多く、目の前にいない人の評価をちゃんとできるとは思えません。もちろんいろんなツールを使ってテレワークでマネジメントをやれないことはないと思いますが、現状では評価がまともにできない上司がいる限り、導入は時期尚早と考えています」

テレワークの目的が両立支援か生産性の向上かによって達成すべきアウトプットも違う。両立支援が目的であれば個々の社員の生産性向上につながることはないかもしれない。

利用者が少ないのは上司が原因

制度を導入しても利用者が少ないのはなぜか。在宅勤務制度を導入しているIT企業では実際に利用が進んでいない。同社の人事課長はその理由についてこう語る。

「利用が進まないのは本人より上司が積極的に認めようとしないからです。上司にとっては部下が見えないところで仕事をしているのが不安なのです。つまりフェイスツーフェイスのコミュニケーションがなくなることが不安でしょうがない。在宅で仕事ができるのはわかっていても自分の視野から消えるのが怖いと感じている上司が多いのが実態です」

多くの職場では常に部下の仕事ぶりを観察し、何かあれば報・連・相を通じてコミュニケーションをとることになっている。テレワークを機能させるには上司のマネジメントスタイルの変革が問われる。

テレワーク経験者からは高評価

一方、テレワーク経験者の評価は高い。先のエン・ジャパンの調査によると「今後もテレワークで働きたいと思うか」という質問に77%が働きたいと答えている。その理由で多いのが「時間が有効活用できる」(83%)、続いて「通勤ストレスがない」(59%)、「仕事の効率化のため」(45%)の順となっている。

回答者の中には「遠くまで電車通勤していた頃は満員電車で体力や精神力を削られていましたが、テレワークを使った勤務になるとストレスなく仕事ができました」(21歳女性)という声もある。あるいは「台風などの影響による交通機関の乱れも関係なくなったのが良かった」(25歳男性)という声も。昨今の異常気象による電車の遅延に巻き込まれることもないことは大きなメリットだ。

また、夏の気温が35度を超えることが予想される場合は在宅勤務ができる「猛暑テレワーク」を実施している企業もある。

テレワークを行う上での会社側のメリット

もちろんテレワークは会社にとってもメリットがある。

富士ゼロックスは営業部門の働き方変革を目的に国内営業・SE(システムエンジニア)を対象にフリーアドレスによるモバイルワークとサテライトオフィス勤務を実施。それに伴い、営業社員の顧客との打ち合わせ資料や提案書の作成など、従来はいったん会社に戻ってこなしていた付帯業務を担う部隊を新たに設置し、営業社員が外から指示を出し、外出先で仕事が完結できる体制を整えた。

その結果、従来の「付帯業務時間」を39%に縮小。その分を顧客対応に注ぎ、顧客との面談時間も従来の1.7倍に増加した。総労働時間も10%減少するという効果を生んでいる(日本テレワーク協会「第15回テレワーク推進事例集」2015年2月)。

企業の中には食わず嫌いのところも多いが、テレワークをうまく使いこなすと仕事の効率化だけではなく、人材の採用と定着にもつながる事例もある。

テレワークにより部下が社内にいない状態が増えると会議の設定など、業務の調整をいかに工夫するのか、個々の管理職が工夫しなければならない。生産性向上や個人の成果を促すのであれば在宅で行う仕事の切り出しや進捗状況をチェックし、組織全体のパフォーマンスを上げることも必要になる。定着させるには社員と会社の双方が地道に実績を積み重ねていくことが大事だ。

政府の実施するテレワーク・デイの意味

ところで気になるのはテレワークに便乗した動きだ。オリンピックに関係するイベントとして毎年、開会式当日の7月24日に政府主催の「テレワーク・デイ」が開催されている。目的は2020年の東京オリンピックの開会式当日の交通機関の混雑緩和を図ることにある。

今年も7月24日から「2018テレワーク・デイズ」という名前で実施された。参加企業は始業から10時30分まで一斉にテレワーク(在宅勤務、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務)を実施した。始業時間の9時から10時半までのわずか1時間30分だけテレワークを行う。

しかし、本来のテレワークは生産性の向上や個人の成果を促すのが目的だ。10時30分を過ぎたら会社に出勤しなさいと言っても、皆が一斉に出勤したら通勤の混雑も変わらなければ、生産性が上がるとは思えないのだが。テレワークの定着に向けて取り組む企業にとってプラスとはならないだろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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