組織・人事

BCP(事業継続計画)策定と実行の重要性【新型コロナウイルスによる企業活動への影響】

新型コロナウイルスの感染拡大が企業活動に深刻な影響を与えている。今回、災害時に会社としていかに事業を継続するかを決めるBCP(事業継続計画)は有効に機能するだろうか。2009年の新型インフルエンザが流行した際の対応例を踏まえ、実行事例を紹介する。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

上場企業151社が業績へのマイナスの影響をすでに情報開示

東京商工リサーチの上場企業調査(3月19日発表)によると、新型コロナウイルス関連で情報開示した422社のうち151社(35.7%)が、売上高や利益の減少などの業績などへのマイナス要因、業績予想の修正要因として新型コロナウイルスの影響を挙げている。

また3月2~8日に実施した企業調査(有効回答1万6327社)では、「すでに影響が出ている」と回答した割合が高いのは道路旅客運送業(100%)、宿泊業(96.5%)、飲食店(91.7%)、旅行業・葬祭業・結婚式場業などの生活関連サービス業(90.0%)で高い比率を示している。

企業にとっては従業員の感染防止を行いつつ、いかに事業を継続していくかが問われるが、すでにさまざまな対策を講じている企業も多い。

国や自治体の方針を待っていては遅すぎる。企業は自主的な対応に追われる

マーサー・ジャパンの調査(2020年3月3日~6日、244社)では、全社共通の対応として「緊急性の低い国内外の出張を中止・延期」(91%)、「時差出勤の許可・奨励」(84%)、「集合型社内研修の中止・延期」(71%)、「在宅勤務・テレワークの許可・奨励」(69%)、「職場での懇親会等の中止・延期」(59%)、「採用関連イベントの中止・延期」が上位に挙がっている。

実際に一部上場企業の建設関連業の人事担当者は対策についてこう語る。
「個室に50人以上が集まる集会や宴会、またそのような場所への参加は原則自粛を要請している。全社レベルの会議やイベントも中止し、PCや幹部のみの会議に限定することにしている。さらに、社員には時差通勤や在宅勤務を奨励し、国内外の出張も規制している。国や自治体の指導方針に頼っていては遅すぎるし、今後も状況に応じて独自の対策を検討し、発信していく」

また海外からの帰国者については14日間の健康チェックが済むまで出社を禁止している。現地法人などへの海外出張も禁止しているが、すでに事業にも深刻な影響を与えている。

人事担当者は「クライアントなどとの打ち合わせが制限され、すでに受注している仕事の納期が遅れている。継続してきた在宅勤務での事業継続も限界があり、大打撃を受けつつある」と語る。

BCPを策定し、独自対応を行う企業も多い

災害時に会社としていかに事業を継続するかを決めるのがBCP(事業継続計画)だ。日本では阪神淡路大震災を契機に策定が進み、これまで大きく2009年の新型インフルエンザと11年の東日本大震災で実効性が試された。

新型インフルエンザでは、連休前の4月25日には、WHOがメキシコで新型インフルエンザがパンデミックにつながる可能性があると示唆し、日本でも大騒ぎとなった。また、日本政府が09年2月に強毒性のH5N1型鳥インフルエンザを想定したガイドラインを公表し、企業もそれに向けた準備をしていたこともあり、弱毒性のH1N1型であることが判明してからも対応をめぐって混乱が続いた。

弱毒性とわかって以降も、5月8日に国内感染者が発生した大阪地区では、マスクを必死になって買い求める人々の姿がテレビでも映し出され、マスクを求める人々が日本中に広がった。

当時も情報が乏しい中でBCPを策定し、独自の対応を行った企業も少なくなかった。

大手IT企業は米国CDCの情報をベースに致死率は1%以下と判断し、通常の季節性インフルエンザ並みの軽度被害として対応した。一方で、どう変異するかわからないので、予防策として業務出張や個人旅行はできるだけ見合わせることにした。

また、海外帰国者は人事部に連絡し、3日間は特別休暇による自宅待機とし、発症しないことを確認した後に出社することにし、海外出張や個人旅行も極力禁止、セミナー・研修などのイベントも見合わせることにした。

BCPに沿った対応で感染から社員を守る一方、風評被害が起こることも

大手製薬会社はBCPに則り、派遣社員を含めた全従業員の健康と安全を守るための冊子を作成し、全員に配布するとともに、サージカルマスクや手洗い用アルコール、食料などの備蓄品の購入を進めてきた。

新型インフルエンザ発生時には、感染が確認された国への業務出張の禁止、個人の海外旅行については自粛を要請。また、感染国から帰国した社員は10日間の出社停止の措置をとった。

同時に国内で感染者の発生が確認された地区での病院の訪問などのMRの営業活動は中止することにし、実際に神戸で感染者が発生した直後に、神戸、大阪地区での営業活動を中止。従業員には会社から支給されたサージカルマスクの着用と外出から戻った際の手洗いをするように求めた。また、毎朝、検温することとし、37.5℃以上の熱があった場合は自宅待機扱いとした。

ただし、会社としては適切に対処していても、世間との認識のギャップによる風評被害もある。

当時、同社の総務課長は「感染そのものよりも風評被害も大きい。弱毒ではあっても社員が感染した場合、事業所を閉鎖しないと世間から非難を浴びるのではないかという懸念も拭えなかった。世間が見てどう思うのかという観点と、事業を継続していくことの難しさを痛感した」と語っていた。

今回の新型コロナウイルスではこの時の教訓が生きているのか、56社の上場企業が従業員に感染者が出たことを公表し、濃厚接触者などの自宅待機を命じている(3月19日時点)。

人事・労務上の課題も浮上した。帰国後の一定期間の出社停止や一定の熱のある社員の自宅待機措置にした企業も少なくなかった。その間の賃金は帰国後の出社停止は特別休暇とし、熱のある社員の自宅待機措置は私病ということで年休扱いとなるが、年休がなく欠勤の場合の休業補償は、共済会などの制度での対応をした企業もあった。

感染拡大による企業活動の影響を最小限に抑えるため、BCPの策定は必須

2009年の新型インフルエンザは弱毒性であることが分かり次第に沈静化していったが、新型コロナウイルスは今後感染爆発も懸念されている。

09年当時は、仮に強毒性のウィルスだった場合、事業の継続をどうするべきなのかも議論された。

前出の大手IT企業のCSR部長は「パンデミック対策は電気やガス、鉄道や通信などの社会機能が維持されるという前提で企業の対応を議論した。具体的には発生を機に社会機能維持のために必要な業務と要員の確認を実施し、協力会社の社員を含む対応社員候補をリストアップし、本人への説明と協力依頼を行うことにした」という。

新型コロナウイルスの被害拡大により、国や自治体から事業の自粛や従業員の自宅待機を要請される事態も起こり始めている。東日本大震災時には原則自宅待機とし、100%の休業補償をした企業もあった。ただし、事業継続には出社を必要とする社員もいる。

当時、消費財メーカーでは、顧客などの対応にどうしても必要な部署は輪番制で出勤することも可とした。人事担当者は「事業に支障を来す社員は自宅待機期間中でも上司の承認があれば出社してもよいことにした。人事部は管理職以上の社員が交代で出社したが、他の部署も管理職の間で当番制にした」と語っている。

今回も、業務命令で出社を指示された社員が感染した場合の補償の問題を考慮しておく必要がある。今後、新型コロナウイルスが企業活動にどういう影響を与えていくのか現段階では不明だが、被害を最小限に抑えるためのBCPの策定と実行に着手する必要がある。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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