遅すぎた就職氷河期世代の就労支援 政府は人手不足業界への誘導を狙う

30代半ばから40代半ばの就職氷河期世代に対して政府が就職支援に本格的に乗り出すことになった。政府が掲げる目標は果たして実現可能なものなのか、支援内容を踏まえて解説する。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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就職氷河期世代の就労を本格的に支援

就職支援の内容は、非正規社員や長期無業者、ひきこもりを含む100万人規模の人たちを3年間かけて支援し、30万人の正社員化を目指すというものだ。

具体的な支援の対象は①正社員になりたいのに不本意ながら非正規雇用で働く人(約50万人、35~44歳)、②就職希望はあるが「希望する仕事がありそうにないという理由で就職活動をしていない長期無業者(約40万人)、③ひきこもりなど、社会参加に向けた丁寧な支援を必要とする人の3つだ。厚生労働省が8月30日に公表した2020年度予算の概算要求額の就職氷河期世代の就職支援や助成金として653億円を計上している。

対策は果たして効果があるのか

しかし、30万人の正社員化が本当に可能なのだろうか。そうでなくても非正規社員は2148万人(総務省労働力調査2019年6月期)と雇用者総数の37.8%を占め、年々増え続けている。厚労省はこれまでも若者や非正規社員の正社員化に向けた対策を実施してきたが、目立った成果を上げていない。今回は就職氷河期世代に絞った対策だが、どんな特効薬があるというのか。

厚労省の「就職氷河期世代支援プラン」には、ハローワークに専門窓口を設置し、職業訓練や求人開拓のチームを設けることをはじめ、幅広いメニューを用意している。

目玉は主な支援の2つ

その中でも主な支援の目玉は以下の2つだ。
 ①民間事業者を活用して、教育訓練、職場実習等を行い、正社員就職につなげる成果連動型委託事業の創設
 ②短期資格等習得コースによる正社員就職を支援

①では、全国10カ所程度の厚労省の都道府県労働局が民間の教育事業者に委託。2ヶ月程度の専門知識などの教育訓練や職場実習等を実施する場合、それにかかる費用(10万円)を支給する。さらに訓練を経て就職し、半年間勤務していれば、成果に連動した委託費として50万円を支給する。

短期資格習得コースは、「(人手不足)業界団体等と連携し、短期間で取得でき、安定就労に有効な資格等の習得を支援」することになっている。具体的業界団体の事例として「建設」「運輸」「農業」などが挙げられ、業界団体を通じて正社員に転換するスキームが描かれている。

たとえば厚生労働省が委託した建設業の団体が短期の訓練(小型クレーン、フォークリフト等も修了資格取得)を経て、各企業で半日~3日間程度の職場見学・職場体験後に正社員として就職するという流れになっている。

運輸業の場合は、大型一種、大型二種などの免許を取得し、業界団体傘下の求人事業所において、半日から3日程度の職場見学・職場体験を通じて正社員として就職する。こんな短期間にすんなりと就職できるのかわからないが、厚労省は出口一体型の「業界団体等と連携した即効性のある就職支援」と呼んでいる。

実はこうした業界団体との連携は、都道府県ごとで構成するプラットフォームづくりを推進することにしている。その構成メンバーに都道府県、市町村、経済団体などと並んで「人手不足業界団体」が登場する。経済団体以外にあえて「人手不足業界団体」を入れているが、就職氷河期世代を人手不足業界に誘導したいとの政府の真意が透けて見える。

そもそも政府がなぜ就職氷河期世代の支援に乗り出したのか。最初に政府の経済財政諮問会議が提起し、閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019」(6月21日)に氷河期世代の対策が盛り込まれた。基本方針では「人口減少や少子高齢化の急速な進展は、我が国の経済が直面する最大の壁となっている」という認識を示し、「内需の喚起に資する所得の向上を図り、成長と分配の好循環を継続・拡大させるため、経済成長率の引き上げや生産性の底上げを図りつつ、就職氷河期世代の人々への支援を行うとともに最低賃金の上昇を実現する」としている。

いわゆるアベノミクスによる経済活性化の一つの担い手として氷河期世代を当てにしている節がある。つまり政府は助成金を使って氷河期世代を人手不足業種に誘導し、業界の人材不足を補おうとしているのではないか。

なぜ今就職氷河期世代がターゲットなのか

そもそも政府がなぜ就職氷河期世代の支援に乗り出したのか。最初に政府の経済財政諮問会議が提起し、閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019」(6月21日)に氷河期世代の対策が盛り込まれた。基本方針では「人口減少や少子高齢化の急速な進展は、我が国の経済が直面する最大の壁となっている」という認識を示し、「内需の喚起に資する所得の向上を図り、成長と分配の好循環を継続・拡大させるため、経済成長率の引き上げや生産性の底上げを図りつつ、就職氷河期世代の人々への支援を行うとともに最低賃金の上昇を実現する」としている。

いわゆるアベノミクスによる経済活性化の一つの担い手として氷河期世代を当てにしている節がある。つまり政府は助成金を使って氷河期世代を人手不足業種に誘導し、業界の人材不足を補おうとしているのではないか。

人手不足業界は助成金をもらった上で人手不足も解消か?

非正規雇用などの就職氷河期世代の正社員化を促す一方で、人手不足業界は各種の助成金をもらったうえに人材不足解消にもつながる。双方がウィンウィンとなるシナリオだが、はたしてうまくいくのだろうか。

そもそも建設、運輸、農業、介護などの業界が人手不足に陥っているのは、いわゆる4K(きつい、きたない、危険、給料が安い)職場と呼ばれ、人材が集まらない業界であるからだ。そういうところに正社員になりたいのに不本意ながら非正規雇用で働く人や長期無業者が働きたいと思うだろうか。その人たちの本音は、正社員にはなりたいが、できればやりたい仕事で正社員になりたいと思っているのではないか。

長期無業者の中にはいったん就職したが、職場で理不尽な扱いを受けたことで就職を諦めた人もいるだろう。そういう人たちが政府の対策によって人手不足業種にあえて就職したいと思うようになるとは考えにくい。

民間任せの対応ではなく、行政と一体となった対応が必要

また、今回の成果連動型委託事業では、半年間勤務すれば50万円の助成金が支給されるが、悪質な業者の中には助成金をもらって酷使し、半年後にポイ捨てにするブラック企業も現れないとも限らない。そうなるとますます働く意欲を失ってしまいかねない。

また今回の対策にはニートなど就職を支援する「若者サポートステーション」の拡充が盛り込まれ、その中には新たに40歳代の無業者も対象に加えることにしている。首都圏のある地域で長年サポートステーションの相談員を務める社会保険労務士は「相談に来る若者たちは正社員になればそれで終わりという人ではなく、精神的ケアが必要な人たちが多い。政府の対策には就職後のフォローなどの施策が欠けている。民間に任せればうまくいくという問題ではない」と指摘する。

就職後のフォローがなければ、それこそ半年程度で辞める人が続出するかもしれない。民間任せにすることなく、行政と一体となったキメの細かい対応策が必要ではないか。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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