【女性登用の数値目標義務化へ】家庭と両立が困難な実態を克服できるか

官民を挙げた女性の活躍推進の取り組みが本格化している。政府は女性の活躍推進を最重要課題と位置づけ、「2020年に指導的地位に占める女性の割合30%」の実現に向け、今通常国会に女性登用の数値目標の策定を義務づける「女性活躍推進法案」を提出する予定だ。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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女性の活躍を促すには両立支援策の充実と並んで、障害となっている「女性社員の意識」や「管理職の理解と関心」を高めることが必要だ。そもそも管理職になりたくない女性が多いという問題がある。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査結果、2014年)によると、「大学・大学院卒、40歳未満」の課長相当職以上への昇進希望は男性73.4%に対し、女性は20.4%と大きな開きがある。

これは比較的女性の活用が進んでいる外資系企業でも同じだ。ある外資系製薬企業は管理職の女性比率は10%を超えているが、女性管理職のほとんどが管理部門に偏っている。

昨年、営業職(MR)の女性を対象にサーベイを実施したところショッキングな結果が出た。5年後も営業の仕事を続けていきたいかの質問では、8割が続けたくない答え、管理職になりたいという女性は皆無だった。

同社の人事担当者はその理由をこう語る。「やはり長時間労働などハードワークも大きな原因の一つだ。顧客が医師なので、自分のスケジュールが医師や患者の状況しだいで決まってしまう。自分の都合が悪いとか、疲れたから休みますと言い訳もできない。そのプレッシャーに耐え続けるのはつらいという人が多い。加えて女性の営業マネジャーが極めて少なく、ロールモデルもいないのでマネジャーのイメージもできない。自分では無理だと勝手に決めつけているようなところがある」

JILPTの調査でも似たような結果が出ている。女性が昇進を希望しない理由で最も多かったのは「仕事と家庭の両立が困難になる」(39.8%)、次いで「責任が重くなる」(29.5%)、「周りに同性の管理職がいない」(25.7%)という理由が挙がっている。

非管理職であれば休日・休暇も取得しやすいが、管理職になると多忙になる。また多くの部下を率いると自分や家族以上に気を遣う範囲が一気に増えるので、その責任は負えないと感じているのか。こうした課題を解決するにはもちろん、長時間労働など働き方の改革は女性に限らず全社的な最重要課題であることはいうまでもない。

女性社員の昇進意欲を促す意識啓発が重要であるが、その当事者は日々接する上司であり、その役割は大きい。JILPTの調査では上司について「自分の仕事の仕方や内容について関心を払ってくれる」「自分に高い目標や課題を与えてくれる」「自分の成長・活躍を後押ししてくれる」といった項目は男性に比べて女性が肯定する割合が低くなっている。

この点を踏まえて、上司の意識改革を重要課題と取り組んでいる企業も増えている。例えば日立製作所は、育児休業に入る前に上長と本人が研修を受ける「産休前・復職支援セミナー」を2012年度下期から実施しているほか、男性管理職と女性総合職が集まって自由な対話を通じて互いの考え方を理解し、男性マネジャーの意識を変えてもらう「ダイバーシティ・ワークショップ」も開催している。

当日は経営トップがメッセージを発信し、男性管理職と女性総合職が職場の課題について討議し、最後に対策を発表するというものだ。さらにトップメッセージと並んで部長相当職以上による「働き方見直し宣言」を毎年11月に実施している。

また、日本GEはマネジャー候補の女性社員と上司がペアで参加する1日ワークショップを今年から実施している。1回の参加者は1クラス10組20人。最初に同社の社長が女性が活躍できるようになるにはマネジャーの理解とサポートがないと実現しないことを強調。

その後、女性に対するキャリア意識を高め、自己成長の気づきを与えるセッションや男性上司に対する育成のコーチング手法を学ぶ場も設けている。女性部下の持つ悩み、強みと弱みを上司と共有し、どのように支援していくかを考えさせることに狙いがある。

そして最後に女性部下の育成プランを作成し、上司と合意し、それをベースに1~2年かけて実行することにしている。

育成担当の男性上司の意識をどう変えていくかは人事担当者にとって喫緊の課題だ。女性に対する差別感はないにしても「女性に対してやさしすぎることが成長を阻害している」という指摘も多い。

もっと女性も修羅場の経験を積ませるべきだと語るのは食品業の人事部長だ。「女性部下が『自分は楽しいのでこのままでいいです』と言えば『わかった、頼りにしているから引き続きがんばって』と言うだけの上司が多い。

もし優秀な男性部下なら『もっと上を目指せ、俺のポジションになるぐらいにがんばれ』と言い、難易度の高い大きな仕事にチャレンジさせるはず。女性社員も同じような経験を積ませなければ成長しないし、管理職も任せられない」

社員の中にはいまだに長時間働き続ける人が、仕事ができる人と思い込んでいる人も少なくない。仮に上司もそう思い込んでいるとしたら女性は前に進もうとはしないだろう。こうした意識や言動を含めてマネジメントの評価制度を昨年、大きく変えたのが外資系製薬企業だ。

「これまではパフォーマンス重視だったが、数値以外に、どのように部下と関わり、どんな影響を与えたのかという育成を重視し、評価と処遇にも反映するようにした。例えば数値は達成していても、女性に対する仕事への意欲を失われる言動や育っていない管理職は降格させる。

逆に予算達成はできなかったが、上司に対する信頼が強く、一気に部下を成長させるなどの成果があれば昇進させることにしている。経営陣からも女性を育てられない上司は外せと言われており、評価の軸を変えることで気づいてもらいたいと考えている」(人事担当者)

経営トップは管理職になりたくない女性が多いことに「経営の危機」を感じているという。そうした意識を経営陣が持つことなしには、女性の登用は進まないだろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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