組織・人事

【調査結果から見えた雇用調整後のリスク】リストラの後遺症、失われた会社への信頼感

景気は最悪期を脱しつつあるが、雇用情勢は依然として悪化の一途をたどっている。希望退職募集などの雇用調整も相次いでいる。今年1月から6月までの上半期に希望・早期退職を募集した上場企業は145社。募集人数を公表している141社の合計は1万5347人、前年同期と比べて3.7倍に達している(東京商工リサーチ発表)。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

ビジネスマンの6割、人事関係者の3割がさらなる雇用調整を覚悟

雇用不安が広がる中でいったいビジネスマンや人事関係者は雇用調整にどのように向き合おうとしているのか。奇しくも2誌の媒体でアンケート調査を行う機会を得た。1誌は1000人のビジネスマンが対象であり、もう1誌は人事関係者が対象である(231件)。

まず、雇用調整の実態である。リーマン破綻以降の昨年後半から今年にかけて自分の会社で雇用調整を実施、もしくは実施中と回答したビジネスマンは20.6%。じつに5社に1社の割合である。

驚くのは今後の雇用調整の可能性だ。今後実施する予定であると回答した人は9.6%、今後実施する可能性があると答えた人は45.6%。合計60%以上の企業で雇用調整の予定・可能性があると回答している。

同様の質問を人事関係者にも聞いた。リーマン破綻以降の昨年後半から今年にかけて自分の会社で雇用調整を実施、もしくは実施中と回答した人は14%、今後実施予定が1%、今後実施する可能性があるが32%だった。ビジネスマンよりは少ないが、人事関係者も3割を超える人が可能性を示唆していた。

雇用調整の是非についても聞いた。ビジネスマンの場合は、会社の業績が悪化した場合の雇用調整について「やるべきである」が11.2%、「積極的には賛成しないが、しかたがないと思う」34.7%。消極的ながらも雇用調整に理解を示す人は45.9%も存在した。これに対して「絶対に避けるべきである」が12.7%、「できる限り避けるべきである」が41.3%。雇用調整否定派が54%を占めた。

これに対して人事関係者は「やるべきである」が10%、「積極的には賛成しないが、しかたがないと思う」53%。消極的ながらも雇用調整に理解を示す人は63%も存在した。

これに対して「絶対に避けるべきである」が12%、「できればやってほしくない」が23%という結果だった。さすがに人事関係者だけあって雇用調整に理解を示す人が多いが、それでも35%は否定的である。

自由回答を寄せた人事関係者の50代のサービス業の次長は「安易に雇用調整をする企業は労働者からも見放されることを肝に銘じて、最後まで雇用を守る方法を模索すべきである」と釘を刺す。

また、40代の情報通信業の主任も「会社として経営者としてできることをやりつくした上での雇用調整という判断なら受け入れるしかないが、ただそこにいたる前にできることはあるのではないか」と指摘する。

あるいは「雇用調整を実施する場合は、将来のビジョンを明確にして、今はがまんのときではあるが、将来は明るいことを示すべき」(情報通信業次長、40代)といずれも留保付きの容認である。

「社員の首を切る経営者は腹を切れ」に賛同、経営責任の明確化を求める

雇用調整に対する意識は、ビジネスマンと人事関係者の間には多少の温度差はあるが、経営責任の取り方に対する認識はほぼ共通している。かつて「社員の首を切る経営者は腹を切れ」という名文句を吐いた経営者がいた。これについてどう思うかを聞いた。

①「その通り。経営者は潔く辞任すべきである」、②「そう思わない。経営再建に尽くしてほしい」、③「辞任まではしなくとも、責任は明確にすべき」――の3つから選んでもらった。

結果は①37%、②24.4%、③37.8%であり、辞任ないしは責任を明確にすべきという経営者の責任を厳しく問う声が圧倒的多数を占めた。これを世代別に見ると、20代は「辞任すべき」が28%であるのに対し、「辞任はしなくとも責任は明確にすべき」が42%と比較的経営者に寛容だ。

しかし、中堅層の40代は「辞任すべき」が45.7%とほぼ半数を占める。リストラそのものはしかたがないにしても、やる以上は「経営者の首を差し出せ」という厳しい姿勢をのぞかせている。

これに対して人事関係者の結果は、①24%、②26%、③47%であり、辞任ないしは責任を明確にすべきという経営者の責任を厳しく問う声が圧倒的多数を占めた。

自由回答欄でも経営者に手厳しい意見が多い。40代の情報通信業の課長は「経営者が第一責任者ではないかと思う。経営者の責任を問われずに、すぐに雇用調整だという話になるのをよく耳にするが、経営者も一サラリーマンからスタートし、実力もあれば運もかなりあったはず。その人たちが自分たちを差し置いて同じサラリーマンを、というのは心情的にも理解できない」と指摘する。

また「雇用調整は上層の経営陣が決定するが、負担するのは一般社員。経営者の責任が問われなくなっているようだ」(製造業社員、30代)と嘆く声もあれば「経営者は社員の尻を叩くことや、てっとり早い人件費の削減に手をつけたがる。経営者自ら率先して経費削減(車での通勤をやめるとか)に努めなければ、社員の反発を招くだけで共感を得ることができない」(不動産業課長、50代)と社員の信頼感を失うことを危惧する。

雇用調整後の副作用や後遺症を抑制するリスク対策が不可欠

長期的ビジョンなしにコスト削減目的で安易にリストラに踏み切る経営者は、この数字を直視するべきだろう。仮にリストラにより経営効率が一時的によくなったとしても、成長軌道に乗る保証はなく、逆にリストラが成長を疎外する要因にもなりかねない。

それを裏付ける結果も出ている。会社がリストラを実施したことがあると回答した人に、実施直後に自分や職場にどんな変化が生まれたかについて聞いた。

ビジネスマンアンケートによる最も大きな変化は「仕事に対するモチベーションが下がった」(41.5%)であり、続いて「仕事の負担が増えた」(38.9%)が多い。さらに注目すべきは「会社や経営陣に対する信頼感を失った」が35.1%を占めた。

人事関係者への質問でも同じ順番で高い結果となった。いうまでもなく社員のモチベーションや会社への信頼感は成長の原動力である。いったん下がったモチベーションや会社に対する信頼感を回復するのは容易ではない。じつはリストラは想像以上に経営に手痛いダメージを与えることを示している。

もちろんリストラを全否定するつもりはない。やむにやまれぬぎりぎりの選択肢として踏み切らざるをえない場合もあるだろう。しかし、調査結果に表れているように雇用調整後に副作用は訪れる。後遺症を最小限に抑制するリスク対策も不可欠だろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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