Z世代新卒社員の実態、“おじさん世代”に強い拒否感も

2022年4月、各地でZ世代と呼ばれる新入社員たちの入社式が行われた。コロナ禍の大学生活を過ごした彼らはどの様な価値観を持つのか。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

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2022年4月、コロナ禍新卒が入社

Z世代と呼ばれる2022年3月卒の新入社員が入社して2カ月が過ぎた。

この人たちは大学3年になった直後の20年4月初旬にコロナ禍となり緊急事態宣言が発出され、大学から閉め出され、講義はオンラインに転換。6月からインターンシップをはじめ会社説明会・採用選考までのほとんどを対面なしに過ごしてきたオンライン世代でもある。

働く価値観の変化

例年に比べて働く価値観が以前と微妙に変化している。

ラーニングエージェンシーが実施した「新入社員意識調査レポート」(22年3月31日~4月13日、3659人)によると、「仕事を通じて成し遂げたいこと」のトップ3は①「安定した生活を送りたい」(64.5%)、続いて②「自分を成長させたい」(60.6%)、③「家族に恩返ししたい」(48.3%)だった。

例年も①と②は高いが、今年は21年にトップだった②「自分を成長させたい」を①「安定した生活を送りたい」が上回り、しかも21年より5.2ポイントも増加している。

その背景についてラーニングエージェンシーの幹部は「安定志向が強まっているのはおそらく新型コロナの影響が大きい。22年卒はリアルでの講義がなくなり、就活もリモートになった。企業の人と直に接する機会が減り、社会人のイメージが見えないという先行き不透明感が増し、そうした不安を解消したいという気持ちが安定に向かわせている」と分析する。

ネガティブな情報が多く、危機感が強い

確かに就活情報もネットでしか収集する術がなく、新型コロナウイルスに感染すると就活にも影響するために自粛生活を余儀なくされ、自宅に引きこもるしかなかった。

人とリアルで接する機会が極端に減る中で、ネットやテレビでは感染者数増加の情報が日々流され、旅行・観光、アパレル、百貨店・小売、飲食、航空産業などが壊滅的な打撃や非正規切りの横行などネガティブな情報だけがもたらされた。最近ではウクライナの戦争も報じられている。感受性の高い年齢なだけに将来に対する不安感や危機感を抱いたとしても不思議ではない。

大学でキャリア教育を教える講師は「世の中が大きく変わることを目の当たりにし、変化に対応できないと結局食べてはいけないといった危機感を強く持つ学生も少なくない。会社を選ぶときの基準も変化し、裕福な生活より、ほどほどでやっていける働き方でよいと思う学生がいる一方で、自分自身が実力をつけて成長しなければと、成長できる会社を求める学生もいる」と指摘する。

安定志向と成長志向は不安感から生じた同根異種の発露でもある。前出の調査によると「会社でどのような仕事をしたいか」との質問では「楽しくてやりがいのある仕事」が最も多く72.7%、続いて「自分の成長につながる仕事」が54.7%と多い。また「自分のペースでやり切れる仕事」(34.0%)、「安定的給与が得られる仕事」(32.2%)が4年前に比べて増加しているのが特徴だ。

コミュニケーションと配属先を不安視

他者とのコミュニケーションが少なく、自分だけで完結する仕事に就きたいという人も少なくない。

「不確定要素の強い他者とコミュニケーションをするのが怖いので、できるだけ知っている人たちに囲まれ、自分だけでできる仕事はないですかと時々相談を受ける。営業は絶対無理、と言う」(講師)。

とくに今年の新入社員は「配属ガチャ」を気にする傾向が強い。配属ガチャとは、入社時の配属先がどうなるのかわからないことをソーシャルゲームの「ガチャ」になぞらえたもので、希望の部署に配属された場合は「アタリ」、そうでない場合は「ハズレ」となる。

産労総合研究所の調査(2022年3月卒業予定者の採用・就職に関するアンケート調査)によると、配属(職種・勤務地)に関心がある学生は企業の採用担当者の回答では「増加」が20%、「やや増加」が40%と、計60%増加していると答えている。同様に大学キャリアセンターの回答でも63%が増加していると答えている。

希望に添わない配属先だと早期の離職も懸念される。そうでなくても会社に長居したい人は多くはない。前出の調査では「入社後の勤続予定期間」も聞いているが、「できるだけ長く」が47%と多いが、5年以内に転職を考えている人が25%、10年以内になると36%も存在する。

年輩社員を怖がる傾向

また、最近の新人について気になる特徴もある。

ゼネコンの人事担当者は「社員アンケート調査を実施したところ、『40代以上の人と話をするのが怖い』ということが分かった。自分の父親に近い年代の人だと、話が噛み合わないし、話も聞いてくれないので戸惑ったり、怖いと感じるようだ。とくに現場に配属されると、職人気質の人が多く、職場がどうしても体育会的な雰囲気になる。打たれ弱い新人は、年輩の社員と接するのを怖がる傾向がある」と語る。

しかし今では70歳までの就業機会の確保を求める改正高年齢者雇用安定法も施行され、職場には父親世代だけではなく祖父母世代も働いている。対人交流が少ない新人がそんな環境に放り込まれるとカルチャーショックを覚えるかもしれない。

その場合に懸念されるのがエイジズムだ。

エイジズムとは「年齢にもとづく偏見・差別」のことで、レイシズム(人種差別)、セクシズム(性差別)と並んで第3のイズムと呼ばれている。

実践女子大学人間社会学部の原田謙教授は、高齢者が就業を継続していくうえでエイジズムが阻害要因になっているかを検証するために「誹謗」「回避」「嫌悪・差別」の3つの視点から調査・分析を行っている(『「幸福な老い」と世代間関係』勁草書房)。その結果、生活満足度が低い、老後の不安感が高い若者ほど高齢者に対する偏見・差別が強い傾向にあることがわかっている。

新入社員に対してはよほどの神経を使って育成しないと、さまざまなリスクが発生する可能性がある。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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