組織・人事

社員の健康底上げで持続的な企業成長を目指す【日本曹達】

日本曹達は、創業100年を超える歴史ある化学メーカーで労働安全衛生対策を重要項目としてきた。2022年からは人事部に健康経営推進課を新設し、サステナビリティ経営を加速させている。同社人事部の新免龍彦氏に取り組みの状況などを聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

日本曹達
新免 龍彦 人事部 健康経営推進課 課長 兼 人事課 上席主幹

健康経営に対する基本的な考え方について教えてください。

近年、「人的資本経営」が言われ始めていますが、当社も人材こそが企業の競争力を高め、持続的成長をもたらす最も重要な経営資源であると考えています。一人一人が意欲を持ち、活力ある職場を実現するために、労働災害や健康障がいの防止に取り組むとともに、社員とその家族が心身ともに健康を保持・増進できるよう、健康経営に取り組んでいます。

この思いの表れとして、2022年に人事部内に健康経営推進課を新設しました。これは健康経営が当社のサステナビリティ経営の重要な一領域であることを示しています。

労働災害対策に、古くからどのように取り組んできたのでしょうか。

当社は、創業者である中野友禮が中野式食塩電解法(電解ソーダ法)を開発し特許を取得したのち、1920年(大正9年)に設立されました。当時の日本において、カセイソーダや晒粉(さらしこ)に代表されるソーダ工業は、1914年の第一次世界大戦まで多くを輸入に頼っていましたが、大戦景気でソーダ製品の需要が膨らんだことから、参入が相次いでいる状況でした。

カセイソーダは水酸化ナトリウムとも呼ばれますが、工業的に非常に重要な基礎化学品の一つに位置付けられており、劇物にも指定されている強いアルカリ性の物質です。そして我々の取り扱う物質としては、カセイソーダの併産品である塩素や、塩素を基にした半製品などもありますが、カセイソーダも含め、それらのハンドリングには細やかな安全配慮が求められます。創業以来、こうした物質を製造してきましたが、100年にわたる歴史の中では、重大事故に繋がった苦い記憶もあります。そうした事情もあり、当社において、労働安全衛生は最重要の経営マターとして取り組んできました。

当社のような業態では労働安全衛生に取り組むにあたり、製造現場における安全・安定したオペレーションの確立を最優先事項としていますが、万一の事態も想定しなければなりません。そして、社員の健康管理も重要です。こうした事情から、かつては工場地区に病院も併設して医療従事者を常勤させていました。その後、病院は廃止されましたが、手厚い産業保健体制は今日まで維持され続けています。

現在では、社員100人以上の5つの拠点に1人ずつ看護師が常勤し、5人の看護師のうち2人は保健師の資格を保有しています。社員の平均勤続年数は20年と長く働いている者が多く、各拠点の看護師とは顔なじみのため、気軽に相談できる関係性ができていると思います。

また、通常の定期健康診断に加え、健康保険組合との緊密な協力をとることで、40歳になった時点および45歳以降は毎年、対象者の全員に人間ドックを受けてもらっています。社内の労働安全衛生に関する取り組みを通じて、再検査の受診率が92.7%と高いことも当社の特徴と言えます。これらの対策が異常の早期発見に繋がっていて、医療費の改善にも大きな役割を果たしていると考えております。

ストレスチェックの受検率も97%で、総合リスク値は全社平均で89ポイントと、製造業の中では比較的良い数値です。

今後は、予防的なポピュレーションアプローチにさらに力を入れることで、社員全体の健康を底上げし、ハイリスクな社員に対するピンポイントなアプローチをしなくても済むようにしていくことが目標です。

日本曹達のワークライフバランス支援

ストレスに対するリスクが低い要因はどこにあるのでしょうか。

社員の平均残業時間は7.5時間と少なく、月の法定時間外労働45時間に対し、当社の36協定では30時間としています。残業時間を減らすには業務の効率化が不可欠です。当社でも、営業部門における受発注のオンライン化や経理部門のデジタル化などを他企業と同様に進めています。

また、当社ではコロナ禍以前から一部事業所でのリモートワークを可能とすべく、デスクワークの社員に対するノートPCを貸与すると共に、全社員に対しても業務用スマートフォンの貸与に着手し、ペーパーレス化を推し進めてきました。コロナ禍で一気に進展したことから、本社地区では在宅勤務が当たり前となり、チャット等のコミュニケーションツールを活用する文化も定着しつつあります。

加えて、社員の出産育児や介護などへの支援体制も整っています。出産休暇の産前6週間と産後8週間は有給で取得できるなど、法定以上の対応をしているものが少なくありません。例えば、通園中の保育所の都合により子の退所を余儀なくされた者が新たな保育所を探す場合でいわゆる「3歳の壁」に該当する場合、1歳以降4歳の年度末の間に最大1年間を限度に育児休業を取得できること、介護休業は通算1年で3回まで分割可能であること、育児における時短勤務対象は小学校6年生までの子を養育する者であること、過去に失効した年次有給休暇を積み立てて利用できること、といった対応が挙げられます。

男性社員の育児休業取得率も2021年度で22%と、日本企業平均の約14%を大幅に超えています。しかし、他社には取得率70%を公表している企業もありますので、当社でもさらに社内啓発活動を進めていきたいと考えています。

男性の育児休業取得率

社員のキャリア支援についてはいかがでしょうか。

当社の社員数は約1400人ですが、歴史的に定着率が高くこれまでは社員の途中退職もあまりありませんでした。歩留まりの高さを前提に採用活動をおこなっているため、余剰人員が発生しづらいのですが、社員の適正に合わないポジションでの配置が続いてしまう可能性がありました。

しかしながら、近年の価値観の多様化とともに社員のキャリア志向もさまざまであることから、一般的に総合職といわれる基幹職の社員に関し、「キャリア開発支援制度」を導入しています。これは、将来の自分自身のキャリア像を「キャリアビジョンシート」に記入し、上司と相談の上、他部署とのマッチングも想定した振り返りを行う制度です。

もちろん、各部署には人員計画があり、他の社員の意向や都合もあるので異動希望は100%実現できるものではありませんが、働いていく中で生じるキャリア観の変化などについても、できる限り聞いていきたいと思います。こうした制度により社員も安心して働くことができれば、健康的な就業環境づくりにも繋がると考えます。

今後の課題について教えてください。

先達が築いてきた健康面での手厚い配慮が、健康経営を進めるうえで大きなエンジンとなっていることは間違いないのですが、反面、手厚いことの裏返しとして、社員が自身の健康問題に関して受け身になってしまうという副作用も生じているように感じています。施策が手厚いが故に、自分の心身の状態を自ら常にチェックするという自律的な姿勢が弱まるようなことがあっては本末転倒です。例えば、高血圧など生活習慣病の人は処方された薬を漫然と飲み続けるのではなく、薬を服用しなくても済むように日常生活においてできるだけ運動するといった意識改革が求められると思います。

今、こうした“ヘルスリテラシー ”の重要性が言われ始めていますが、当社でも社員の自発的なヘルスリテラシーを高めていくことが重要であると捉えています。

そこで、2023年度から始まる3年間の中期経営計画のCSR領域に、社員の自らの健康状態の把握と向上という項目を設けました。その把握方法については目下検討中ですが、定期健診の意義や受検姿勢について再度考えてもらう施策を講じていこうと考えています。

人生100年時代と言われており、退職後もまだまだ長い人生が待っています。そこで、フレイル対策に向けたエイジフリー施策についても講習会を開くなど力を入れていきたいと考えています。

さらに、当社は歴史的に男性社員が多く、女性特有の身体的コンディションに対する周囲の理解度を高める啓発活動も課題です。個人差があることなので対応は難しいのですが、まずはこうした多様性を理解する環境づくりに取り組んでいます。最近では厚生労働省が掲げている3月1日から8日までの「女性の健康週間」に、eラーニングの受講促進を図りました。

喫煙率が下がらないことも課題のうちの一つです。工場の社員に喫煙者が多く、喫煙所がコミュニケーションの場となっている現状もありなかなか切り込めずにいますが、今後は徐々に改善できるように施策を講じていきたいと考えています。

日本曹達株式会社

代表者:代表取締役社長 阿賀英司   
設立:1920年 
資本金:291億6600万円(2023年3月31日現在)
従業員数: 1361人(2023年3月31日現在)
事業内容各種化学製品の製造及び販売
本社:東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル3F
売上高: 1525億3600万円(2022年3月末実績)

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