東証プライム上場企業である応用地質は、「人は資本」をモットーに人的資本経営を推進する過程で、社員の健康をサポートする健康管理センターを立ち上げた。具体的な取り組みについて、事務本部 人事企画部 主任 山澤遼氏とグループリーダー 津野洋美氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)
応用地質
山澤遼 事務本部 人事企画部 主任
応用地質
津野洋美 事務本部 人事企画部 グループリーダー
事業概要について教えてください
津野 当社は、「人と地球の未来にベストアンサーを。持続可能な社会を実現するために。」を経営ビジョンとして掲げ、地球科学に関するさまざまな課題の最適解を提案する専門技術者集団です。
事業のセグメントは、三つに大別されます。まず一つ目は防災・インフラです。自然災害への対応やインフラ構造物の老朽化対策などを手掛けています。二つ目が環境・エネルギーで、自然環境・資源循環のサポートやGX(グリーントランスフォーメーション)・ブルーエコノミー(水資源に関わる経済活動)分野の事業を推進しています。そして、三つ目が海外における防災・インフラおよび資源・エネルギー分野で、世界各地で当該分野に関する様々な事業を行っています。
「健康経営と人的資本経営」をどのように位置づけていますか
山澤 当社は「人は資本」と位置づけ、重要課題として2026年までの中期経営計画において、10億円規模の人的資本への投資を計画しています。その中でも重視しているテーマの一つが健康経営です。
当社が今後ますます発展し、社会に貢献していく企業に成長するには、社員の健康が欠かせません。これらを確保できなければ、そもそも事業が成り立たないので、社員の健康を人的資本経営の根幹部分であると位置付けています。
企業の成長を常に念頭に置きながら、経営陣からのトップダウンだけでなく、労働組合含め、社員の声や要望を意欲的に拾い上げ、さまざまな施策を全社レベルで検討し実践しているのが当社の特徴と言えます。
健康経営と人的資本経営の実現に向けた、これまでの活動や施策に取り組むきっかけなどを教えてください
山澤 これまでも福利厚生の一環として健康関連の施策や費用補助は行っていましたが、会社として明確に健康経営を謳っていたわけではありませんでした。
その後、社会の要請で健康経営がよりクローズアップされてきたこともあり、会社の方針としてしっかり取り組んでいこうという流れになり、2021年に健康経営宣言を表明し、併せて経済産業省による健康経営優良法人の認定も本格的に目指すことにしました。
経営サイドも健康経営というワードを経営方針発表の場で述べるなど、その重要性を十分理解していたので取り組みを進めやすかったです。
一方、人的資本経営に関しては、2023年度決算から上場企業に人的資本の情報開示が義務化されたことが、大きなきっかけとなりました。世の中の流れとしては、2020年9月に公表された「人材版伊藤レポート」以降、人に投資すべきであるという考えが顕著になっていたと思います。当社はこれまで人への投資がまだ十分ではなかったため、人的資本経営の情報開示義務化きっかけに、会社としても本格的に人的資本経営を目指した取り組みを進めていくことにしました。
健康経営宣言を表明されてからは、どんな活動を推進されたのですか
山澤 健康経営度調査に回答するなかで、さまざまな課題が浮き彫りになってきました。それらに関する意見を、各事業所に設けている衛生委員会から吸い上げるように働きかけました。しかし、私たちも健康経営の専門家ではないので、「何をやったら良いのか」「これで問題ないのか」がなかなか判断できませんでした。
そのため、経営企画本部と一体となって健康経営戦略マップを策定しました。健康経営は別名、健康投資とも称されます。投資すべき4つの項目である「健康(フィジカル)」「健康(メンタル)」「労働生産性」「エンゲージメント」に着目し、達成度を把握して今後の目標としました。
健康経営戦略マップ
「応用地質グループ健康管理センター」を設置した目的は何ですか
山澤 人事施策の一環として健康経営を進めるといっても、私たちの部署に健康に関するプロがいるわけではありません。もちろん、衛生委員会や産業医との付き合いはありましたが、どうしても形式的なものになりがちでした。
そこでグループ会社も含めた健康経営を推進するための体制を強化したいと考えたのが、健康管理センターを構想するきっかけです。
こうして2023年4月に通称「応用地質グループ健康管理センター」を当社オフィス内に設置し、専属の産業医と看護師の2人を迎え入れました。ここでは、社員の健康相談に対応するだけでなく、グループ全体の健康経営の企画もサポートしてもらい、健康に関連する施策や運用の在り方を見直し、課題の解決策を一緒に探ってもらっています。
「健康管理センター」では、どのような業務を行っているのですか
山澤 主な業務としては、以下の4 つが挙げられます。
1. 健康相談、メンタルヘルス相談、健康診断後の事後指導
2. 事業部・グループ会社へのサポート、企画、指導、助言
3. 休職者の休職中、復職時のサポート
4. 健康セミナーの開催、健康に関する情報発信
相談はセンターでの直接面談だけでなく、メールやチャット、Web からも可能ですので安心して利用できます。
「健康管理センター」の設置後、どのような変化がありましたか
山澤 すぐに利用が広がったというわけではなかったです。社内で周知活動は行っていたのですが、静かなスタートでした。そこで、社内の会議体である健康経営推進委員会にも健康管理センターの産業医や看護師に同席してもらうことで、認知度を高めていきました。そうしたおかげもあって健康管理センターの存在が広く知られるようになり、半年後までには延べ80人の社員が利用しました。
健康に関する悩みや相談を持ち掛ける場が明確にできたことで、社員の心理的安全性の確保にもつながりました。産業保健の専門家ではない人事や総務は、社内規程に関する回答はできても、健康リスクに対してはコメントできなかったので、健康管理センターの存在は非常に大きいものです。健康経営を企画する私たちにとっても、今まで運用していたさまざまな健康関連施策に関して、産業医や看護師に意見を聞ける環境ができたことは心強かったです。
個人的には、休職していた社員を復職させる際の基準に関して、「産業保健の基準からするとこういう判断になります」と明確にアドバイスしてもらえたことが印象的でした。このアドバイスをきっかけに、復職させる基準を根拠を持って再定義することができました。
「健康管理センター」を実際に利用した社員の声を教えてください
山澤 嬉しいことに社員の声が沢山寄せられているので、幾つか紹介します。
「自分だけではなく子供のことも相談できるので有難いです」
「自身の些細な悩みを聞いてもらい、気持ちをリフレッシュできました」
「健康に関しては、部下から相談を持ち掛けられても何も対応することができなかっただけに助かっています」
「健康経営と人的資本経営」の実現に向けて、今後さらに拡充したい取り組み内容や、展望などについて教えてください
津野 直近では二次健診や特定保健指導の受診率を今まで以上に向上させるための取り組みを行っております。また、健康診断の結果をデータ化し、効率的に収集・活用する取り組みもこの3年間で行うべきことの一つだと考えています。
山澤 健康経営に関してさまざまな取り組みを行ってきましたが、これまでは本当に一人ひとりの健康にフォーカスできていたのかと言われると疑問が残ります。今後は健康管理センターと協力しながら、会社として社員一人ひとりの健康のために何をすべきかをしっかりと検討していきたいと思います。
応用地質株式会社
代表者:代表取締役社長 天野洋文
設立:1957年(昭和32年)5月2日
資本金:161億7460万円
従業員数:2505人(連結)、1238人(単体)(2023年12月時点)
本社:東京都千代田区神田美土代町7番地
売上高:656億円 (2023年12月時点)
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