効果的な1on1の実施を生成AIがサポート~マネジャーの悩みを聞いてくれる熱血教師になんでも相談~【人事のためのChatGPT入門】

「生成AIの登場により、人の仕事は奪われる」そのような言葉が聞かれるようになりました。

しかし、使い方によっては仕事を進める上での強い味方になります。

では実際どのように活用できるのか、また使用の際にどのような点に注意しなければならないのでしょうか。

本連載では、生成AIの中でも主にChatGPTが人事や採用業務にどのような革新をもたらすのかについて、生成AI家庭教師として企業にコンサルティングを行う佐野創太氏に数回にわたって解説してもらいます。(文:佐野創太)(編集:日本人材ニュース編集部

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前回の記事はこちら▼
【第1回】ChatGPTはプロ人事になり得るか〜生成AIが得意な仕事、苦手な仕事とは?〜
【第2回】新卒採用の面接ヒアリングシートを、ChatGPTで10分で作成~忙しい採用担当は生成AIで先回り~
【第3回】採用活動のアイデア出しは生成AIで〜インターンシップのタイトルを5分で20個以上出すプロンプトを公開〜

1on1はアレルギー。「メリットはわかるけど嫌い」と避けられている

「1on1が嫌いです。正直にいうと、苦痛です」
組織を良くするために始まったはずの1on1。
アンケートを社内で実施したところ、「1on1は苦痛」という声が多く寄せられてしまった。
…こんなお悩みをよくいただきます。

1on1はアメリカのシリコンバレーで人材育成の方法として注目され、日本ではヤフーが導入したことで広まりました。業務以外のキャリアや悩みを上司と部下が一対一で話すことで、上司と部下の連携が深まって生産性が上がったり、部下が安心して働けるようになって離職率は下がり、エンゲージメントは上がると考えられています。

2022年に公開された「1on1ミーティングに関する実態調査」によると「全体では7割近くの企業が1on1ミーティングを施策として導入している」という結果が出ています。

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出所:リクルートマネジメントソリューションズ「1on1ミーティングに関する実態調査」

しかし、現場からは「1on1をやりたくない」という声が聞こえてきます。しかも、上司からも部下からも。メリットは以下の調査のように確かにあることをわかっていながらもやりたくない、つまり感情的に避けてしまっているのです。

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出所:リクルートマネジメントソリューションズ「1on1ミーティングに関する実態調査」

「1on1アレルギー」とも呼べる現象は、どう解決できるのでしょうか?ある中堅の人材系企業と一緒に私が推進した「生成AIクリーナー」の事例をお伝えします。

「現場から1on1への反発が強い」「うまく1on1を活用できているマネジャーとそうでないマネジャーで差が大きい」という課題をお持ちで、「組織をよくするために1on1は必要だと思っている」人事や経営者の方に受け取っていただければ幸いです。

感情的な反発は、生成AIで掃除機のように吸い取ることで小さくなる

これまで報酬や評価制度を改訂してきた方には釈迦に説法ですが、「1on1アレルギー」などの社員の感情的な問題はどれだけメリットやコツを伝えても効果が出ません。強調するほど「とはいえ」と拒否されてしまいます。

こういった共通認識のもと、ある中堅の人材系企業様(A社)と一緒に推進したのは「生成AIクリーナー」です。つまり、1on1に対する不満や不安を吸い取る掃除機として、生成AIを使いました。

最初は人事部がマネジャーと面談して懸念を払拭したり、1on1スキルを伝えたりしようとしましたが、あまり効果を上げませんでした。人事部から「ずっと愚痴を聞いているようで疲れる」と負担が多くなりすぎたこともあります。
さらにはマネジャーからは「1on1をさせようという意図を感じて”特に不満はない”としか言いようがない」という声が聞こえてきました。

これは仕方のないことかもしれません。会社の公式の施策として「人事によるマネジャー面談」をすれば、人事としては当然「マネジャーが1on1に前向きになる」という意図を持って面談をします。この「意図」が「無言の圧力」になって、「1on1アレルギー」はさらに強まってしまいました。

ここで注目されたのがChatGPTをはじめとした生成AIです。

確かに最初は「生成AIって文章や画像をつくったり、壁打ち相手になるものじゃないの?」という反応でした。

実は生成AIの使い方は3段階あります。情報の検索、コンテンツの生成、そして問答です。この問答、つまり「ひたすら不満を受け止めたり、ときに問いかけをする存在」として生成AIに注目したのです。

実施してからは「自分が思っていた1on1の不満は、意外と小さいものだとわかった」と上々でした。部下と一緒にChatGPTを使いながら1on1を実施することで「上司VS部下」ではなく「上司&部下VSChatGPT」という構図にする使い方も現場で生まれました。

では、生成AIをどのように使ったのでしょうか?具体的なプロンプト(生成AIに出す指示文章)とともにお伝えします。

なお、無料ユーザーでも使えるChatGPTの最先端のモデルであるGPT-4oを使用します。(2024年6月27日現在)

なんでも聞いてくれる熱血教師になる「キャラ付けプロンプト」

ChatGPTを1on1に対する不満や不安を吸い取る掃除機として使うときには、コツがあります。それが「キャラ付けプロンプト」です。つまり、「どんな性格の人物として話を聞くのか」を最初に指定することです。

間違っても、マネジャーや部下に対して「ChatGPTがなんでも愚痴を聞いてくれるからどうぞ」とは言わないてください。例えば以下のように「キャラ付けプロンプト」をします。

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ついつい人だったらやってしまうコーチングという名の誘導や、アドバイスという名の説教をしないように制御します。その代わりに問いかけをChatGPTからするようにすることで、「聞かれたことに答えればいい」という楽な状態をつくります。

「熱血教師である」などは、自分が話しやすいキャラクターにすればOKです。ある人は反対に「私情を一切挟まない合理的で冷血なコンサルタント」とキャラ付けしていました。

実際にやり取りをしたチャット画面はこちらです。「聞かれたことに答えるだけ」で、ChatGPTがどんどんこちらの感情を深掘りしてくれていることがわかります。

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このやり取りを気が済むまで続けることができます。人間相手にはこうはいきません。話している側としても「ずっと愚痴ばかり聞かせていて悪いな」や「評価に響きそう」とブレーキがかかってしまいます。

生成AIは疲れません。あなたを評価することもありません。この特性を1on1アレルギーに活用し、次のような声が届きました。

1on1は形式的にやってはいたけど、まさか自分が「上司にされていなかったことを、なんで上司になってから部下にやらないといけないのか納得いかない」なんてことを考えているなんて思いもしませんでした。言語化できてからは「何を子どもみたいなことを言ってるんだ」と冷静になれて、それから1on1は楽しくできるようになっています。

感情的なブレーキは他人から指摘されると受け入れ難いですが、「自分から気づく」とすっと消すことができます。生成AIは「自分から気づくまで話に付き合ってくれるパートナー」として活用できます。

社員が自発的にChatGPTを使い出す流れを作る

皆さんも経験があると思いますが、何か施策やツールを導入するには苦労がつきものです。「生成AIクリーナー」を「さぁ使ってください」と社員に伝えただけではまったく使われません。

「生成AIクリーナー」が自発的に使われ、定着するには以下の順番がおすすめです。

(1)人事(ChatGPTを導入する立場)と経営陣が使う
(2)(1)の中から講師を選んで、社員にデモンストレーションをする
(3)(1)の中からパートナーを選んで、社員が話したことをChatGPTに打ち込んでやり取りをはじめる
(4)社員が自分から使いたくなる

これも釈迦に説法ですが、自分が効果を実感したものしか他者に伝えられません。そのため最初の手順である(1)は、ChatGPTを導入する立場である人事や、経営陣が使ってみることです。

(2)では(1)の中で特に「効果を感じられた」人間を講師にして、その熱量と共に社員にデモンストレーションをします。実際にキャラ付けプロンプトで性格を宿したChatGPTとのやり取りをすることで、「説教してこないね!」や「聞かれたことに答えるだけでいいという使い方は知らなかった」という声を得られます。

(3)が最も重要です。多くの企業では(2)のデモンストレーションをやって、あとは現場に任せてしまいます。マネジャーはただでさえ業務が多いため、「ChatGPTを新しく覚えて使う」という余白はありません。(2)だけにしては、まず使わないでしょう。

そのため、(3)ではマネジャーと机を並べてマネジャーが話したことをChatGPTに打ち込んで「このように進んでいきます」と実際に見せます。これをすると、マネジャーになるほどの社員ですから「自分でもやってみたい」や「こういうときどうするの?」と意欲が湧いてきます。

ここまできたら「それ、ぜひChatGPTに聞いてみてください」と任せます。ChatGPTをはじめとした生成AIは「プロプトエンジニアリング」と呼ばれるように、複雑で長文なプロンプトをつくらないといけないというイメージがあるかもしれませんが、「AIに聞いてみる」が最強のプロンプトです。難しいプロンプトは覚える必要はありません。今回でいえば「キャラ付けプロンプト」くらいです。

A社からはこの手順をひとつひとつ進めることで、効果を感じたという声をいただいています。

最初は手取り足取りサポートするように感じられて、正直めんどうだなと思いました。でも、1on1を定着させて本気で組織をより良いものにしようという気持ちは確かにあったので、「生成AIクリーナー」をプレ1on1のようにして使うことで、マネジャーの気持ちを整えることができてよかったです。今では現場から「このキャラ設定いいぞ!」と盛り上がっている声が聞こえてきます。

生成AIはそれだけだとエンジニアやデザイナー、ライターのものというイメージが強いかもしれません。しかし、それは一部の顔です。生成AIの本来の姿は、人事の方の専門性と経営者の方の「会社を良くしたい」という本気を形にしてくれるビジネスパートナーです。

「1on1に前向きに取り組むためのプレ1on1をAIでやってみよう」と試していただければ幸いです。


佐野創太

1988年生。慶應義塾大学法学部政治学科卒。大手転職エージェント会社で求人サービスの新規事業の責任者として事業を推進し、業界3位の規模に育てる。 介護離職を機に2017年に「退職学®︎」の研究家として独立。 1200人以上のキャリア相談を実施すると同時に、”選手層の厚い組織になる”リザイン・マネジメント(Resign Management)”を50社以上に提供。 経営者・リーダー向けの”生成AI家庭教師”として、全社員と進める「ChatGPT活用・定着コンテスト」の開催をサポートしている。 また、”情報発信顧問”としてこだわりある企業の商品・サービスの「全国1位の強み」を言語化し、疲弊しない発信体制をつくっている。 著書に『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!』(サンマーク出版)、『ゼロストレス転職』(PHP研究所)がある。
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1988年生。慶應義塾大学法学部政治学科卒。大手転職エージェント会社で求人サービスの新規事業の責任者として事業を推進し、業界3位の規模に育てる。 介護離職を機に2017年に「退職学®︎」の研究家として独立。 1200人以上のキャリア相談を実施すると同時に、”選手層の厚い組織になる”リザイン・マネジメント(Resign Management)”を50社以上に提供。 経営者・リーダー向けの”生成AI家庭教師”として、全社員と進める「ChatGPT活用・定着コンテスト」の開催をサポートしている。 また、”情報発信顧問”としてこだわりある企業の商品・サービスの「全国1位の強み」を言語化し、疲弊しない発信体制をつくっている。 著書に『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!』(サンマーク出版)、『ゼロストレス転職』(PHP研究所)がある。

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