新入社員の学び合い活動で自律的なキャリア形成を促進【旭化成】

旭化成は「自律的なキャリア形成と成長の実現」のため、新入社員を対象に「新卒学部」というコミュニティー活動を開始した。多様化する若手のキャリア観に対してどのような施策を行っているか、人事部 人財・組織開発室の梅崎祐二郎氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

旭化成

旭化成
梅崎 祐二郎 人事部 人財・組織開発室

事業概要を教えてください

当社は、化学製品を主に扱うマテリアル領域、住まいづくりを担う住宅領域、薬や医療機器を手掛けるヘルスケア領域の3つの事業領域で積極的に多角化しながら業容を拡大させてきました。創業当初からグループ理念体系を掲げており、世界の人々の“いのち”と“くらし”に貢献することをミッションとし、その実現に向けて価値ある製品づくりを目指しています。

人材育成の方針を教えてください

当社で働く全ての人たちが働きがいを感じ、いきいきと活躍できる場を提供するという考え方で人材育成を行っています。

当社が歩んできた道は「変革の歴史」そのものと言えます。時代とともに変化する社会課題に挑戦し、事業ポートフォリオを転換しながら成長を実現してきました。そのスタンスは今も続いています。環境が変わっても適応できるよう多様な人材が必要となることを踏まえ、人材戦略として「自律的なキャリア形成と成長の実現」を具現化するための施策を進めているところです。

キーワードは2つあります。1つが挑戦・成長を促す「終身成長」で、「自律的なキャリア形成と成長の実現」そのものです。自分が成長することで、自身のウェルビーイングと働きがいを実感してもらいたいと思っています。

もう1つが多様性を促す「共創力」です。多様性が広がっていくことで、さまざまな経験や個性、専門性を持つ社員が増えていきます。それをつなぎ合わせることで、会社としての競争力を向上させていこうという考え方が人材育成方針になっています。これらがベースとなってさまざまな施策が展開されています。

新入社員を対象に2023年6月から開始した「新卒学部」は、どのような施策ですか

みんなで学ぶ文化づくりを醸成するために、2022年12月から独自のラーニングプラットフォーム「CLAP」(Co-Learning Adventure Place)を導入しました。社員一人一人の志向やニーズに応じた専門性の強化とキャリア形成の支援を目的としており、「キャリアの可能性を広げる学びの幅」「専門性を深める学びの深さ」をコンセプトとしています。

「CLAP」が目指しているのは、特定のコンテンツを学ぶことではありません。主体的に学び続ける社員を増やすことが目標です。そのためにも、みんなで学ぶ組織づくりに注力しています。「CLAP」での動画や自律学習を支援するラーニング・コミュニティーを活用することで、学び方の変革を推進中で、「新卒学部」もそうした流れの一環として進めている施策と言えます。

新入社員の育成に関して、どのような課題を感じていますか

全体方針として「終身成長」という言葉を打ち出している中、果たして新入社員にとって「終身成長」できる環境であるのかを考察しました。その結論は、「現状ではまだ十分ではない」という結果でした。

課題は主に3つあります。まず、新入社員のキャリア観が多様化しており、スタートが同じような人たちばかりではありません。スキル差もばらばらですし、社会環境が不安定な中で生きてきたこともあって、職場への不満はなくてもキャリア不安を抱える人が増えています。

2つ目は働き方の変化です。ワークライフバランスの観点から、時間外を前提としたような重い仕事を任せて経験を積んでもらうことが難しくなってきました。キャリア不安への寄り添いや成長の実感付けも十分にはできていないところがあった気がします。

もう1つが、私たちが行っている新入社員研修という観点です。従来の一律型の研修では、効果に限界を感じていました。また、リモート化が進展したことによって、同期とのつながりが希薄化してきているのも事実です。こうした課題を踏まえ、新入社員一人一人が成長実感を持てるよう、学び合いを支援し合うコミュニティーを作っていこうと考えました。

「新卒学部」の具体的な内容について教えてください

「新卒学部」は自分の志向に合ったテーマを選び、同期と一緒に9カ月間学び合うコミュニティー活動です。施策設計のポイントは3つあります。「自分自身で選べる」「人と一緒に学ぶ」「得た知識を実践・共有する」です。具体的には、自分でゼミと呼ばれるグループを選択、オンライン上で集合学習やワークショップを実施、コミュニティーを自主的に運営してもらうなどで交流が行えます。

実施期間は2つのクールに分かれており、第1クールは事務局を務める人事が伴走するコミュニティー活動です。最初に新人の興味を診断するためにキャリア・アンカーと題して30前後の質問に答えてもらいます。その結果を参考にしながら、4つのゼミの中から1つを選択します。ビジネス志向の強い人向けのアドベンチャーゼミ、専門性を極めたい人向けのプロフェッショナルゼミ、創造性豊かな人向けのクリエイティブゼミ、仕事の効率性を高めたい人向けのワークハックゼミがあり、同期と関係構築を進めながら学習活動やコミュニティー活動を行います。具体的には、1つの学習動画をみんなでチャットしながら視聴できるオンライン集合学習や事務局が企画したワークショップなどが挙げられます。

第2クールは、新人が主体となって動くコミュニティー活動になっています。主に2つの活動を行っています。1つが、同期関係や知見を拡げるための全体コミュニティーです。こちらは、新人から手挙げで募った企画チームが運営主体となり、同期同士の対面交流会の企画、自己紹介シートの作成、学習した内容の発信などを行います。

もう1つが学習テーマを深める個別学習ゼミです。新人たちが学習に特化したコミュニティーを作り、その中で学習活動を行っていきます。初年度は、語学学習や資産形成、サステナビリティなどをテーマとした7つのゼミが立ち上がりました。

新卒学部の第1クールのサイクル

学習、共有・発信、実践のサイクルをコミュニティーの中で同期と一緒に実施

「新卒学部」を運用する上で工夫した点は何ですか

まずは新人の配属先から協力を得ることです。第1クールでの集合学習やワークショップは業務時間中に実施することになっているため、そもそも何を目的としてこうしたコミュニティー活動を行うのか、必要性がどこにあるのか、どんな内容なのかをしっかりと理解してもらわないといけません。また、スタートしてからも、「この日とこの日にはできれば集合学習に参加させてください」とその都度スケジュールを案内すると共に配慮してもらえるようお願いしました。

職場も若手を育てる難しさを痛感しています。それを人事部が巻き取って育つ場所を作りますという説明をし、どの部署も快く受け入れてくれました。

「新卒学部」の実施によって、どのような効果がありましたか

成果の1つ目は学習時間の増加です。コミュニティーを形成したことで、学習時間が実施前年度よりも3.5倍も増えました。半年間での1人あたりの学習時間が2時間から7時間へと大幅に伸びたことになります。もう1つが、キャリア不安の軽減です。サーベイの結果を見ても、キャリアへの不安が顕著に下がったことが分かります。

ゼミ長を務めてくれた2人が「人とのつながり、同期とのつながりの大切さを実感できました」「学び続ける社会人でありたいと思っている私にとって最適な場でした」などのコメントを寄せてくれています。

今後さらに拡充したい取り組みや展望などを教えてください

人事施策は作り上げて終わりではありません。随時ブラッシュアップを図っていこうと思っています。

2年目となる2024年度の「新卒学部」は全体スケジュールやゼミ長へのアサインの仕方を変更しました。第1クールを4カ月から2カ月に短縮するとともに、第2クールの中でより主体的・自立的な学びができるような時間を重視しました。また、分析を通じて学び合いの促進がキャリア不安の軽減につながることが分かったので、ゼミ内での学び合いをより促進する役割をゼミ長に期待していることを伝えました。

ラーニング・コミュニティーがもたらす意義や効果が認識できたので、今後は新入社員向けにとどまらず、全社レベルや職場単位での学び合い事例が増えていくよう、人事としてサポートしていきたいと考えています。

2024年度からは「新卒学部」ほどの規模ではないのですが、管理職候補者向けの研修プログラムにもラーニング・コミュニティーの考え方を導入しました。リーダーを目指していく上で、何をもっと身に付けていく必要があるのかを考えてもらい、それを学べるコースを選択し、同じ課題を持つ社員同士で悩みを共有したり、刺激し合っていくという効果を見込んでいます。こういう形で学び合う施策を増やしていきたいと思っています。

旭化成株式会社

代表者:代表取締役社長 工藤幸四郎
設立:1931年5月21日 
資本金:1033億8900万円
従業員数:4万9295人
本社:東京都千代田区有楽町1-1-2 日比谷三井タワー(東京ミッドタウン日比谷)
売上高:2兆7849億円

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