SOMPOひまわり生命保険は、社員の自律的なキャリア形成や採用力強化などを目指し「地域限定転勤制度」を導入した。全国転勤が一般的な保険業界において、新制度にどのような効果を期待しているのか、執行役員 CHRO 人財開発部長の野田美智子氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)
SOMPOひまわり生命保険
野田 美智子 執行役員 CHRO 人財開発部長
事業概要を教えてください
当社はSOMPOグループの中の国内生保事業を担っています。生命保険会社というと、お客さまに万が一のことが起きた時に資金面等でお支えするのが伝統的な考えです。しかし、私たちはそれに加えて、そもそもお客さまの万が一をなくすことが最良であると捉えています。その実現に向け、お客さまに健康を意識していただく、健康になっていただくことを理念に掲げ、2016年から健康応援企業への変革を目指しています。保険代理店と社員とが一丸となってお客さまの人生に伴走し、健康を支える事業を展開しています。
働き方改革の実現に向けて、どのような取り組みを行っていますか
今、さまざまな価値観を持った社員が増えてきています。そうした中で、社員それぞれのエンゲージメントや会社への帰属意識、働きやすさ、働きがいを高めていくには、やはり一人一人に寄り添い、会社全体で一緒に考えていくことが大切です。多様性を認めながら、会社の生産性を高めることが大事な時代になっています。会社としても「どうしたら社員の皆さんが活躍してくれるのか」「何をしたら、やりがいを持って働いてくれるのか」を考えており、その阻害要因があるのであれば取り除いていく必要があります。
どういった働き方にすれば生産性が高まるのかを考え、より良い制度であるならば積極的に取り入れ、有効に活用していきたいというのが当社の方針です。
2024年4月に創設された「地域限定転勤制度」について、導入した背景や理由について教えてください
当社には約130拠点が全国各地にあり、組織を運営していくためには転勤は避けて通れませんが、社員の中には「会社からの期待に応えたいものの、家族と一緒に過ごしたいと思うこと自体がいけないのか」という気持ちを抱く人がいるかもしれません。
社員の想いを叶えているだけでは会社は成り立たなくなりますが、会社の都合を押し付けているだけでは社員の満足度は下がります。そのための折衷案が「地域限定転勤制度」です。転勤に関する色々な要望に応えるために「とにかく選択肢を増やしたい」と考え、この制度を作りました。
転勤に関して、どのような問題意識を持っていましたか
私は2023年4月にCHROに就任しました。それまではいくつかの営業店や本社の広報部でマネジメントに従事していました。私自身も転勤を経験しているので、それが成長の機会になる一方、家族と過ごす時間が減るなどの課題もあると思っていました。実際、「転勤が難しい状況にあり、会社に迷惑を掛けたくない」と退職していった同僚も何人かいました。
そのためCHROに着任して間もなく、まずは現状を把握しようと、組合に「アンケートを取って社員の想いを集めてほしい」とお願いをしたのです。その結果、転勤に対する不安が社員の間で高まっていることを知りました。早急にメスを入れた方が良いと考え、新たな制度の構想に取り掛かりました。
人事として最も重視すべきことは、“社員想い”です。そこは常日頃気を付けるようにしています。
「地域限定転勤制度」の概要について教えてください
「地域限定転勤制度」は、転勤範囲を所定のエリア範囲内に限定する制度です。東北、中部・静岡、関西、中国・四国・九州など、5つのエリアの中から選択することができます。
制度を利用するには、毎年9月に行われる所属長とのキャリア面談を通じて、次年度以降どう活躍していきたいかを話し合い、希望者は11月までに選択するという流れになっています。ただ、特定のエリアに選択が集中してしまうと会社が成り立たなくなってしまうので、そこは人事がコントロールするという制約を付けています。運営上、支障がないという場合には、次の4月で人事異動が発令されます。基本的には年に1回希望を受け付けます。
「地域限定転勤制度」で転勤可能なエリア
対象外のエリアがある理由を教えてください
2つの理由があります。1つは、希望が殺到してしまいそうなエリアで、例えば関東エリアです。もう1つは、配属人数が多くなく人員が固定される可能性があるエリアも外しました。具体的には北陸や甲信越、北海道などです。
制度の目的や想定される効果を教えてください
制度の目的は、社員の自律的なキャリア形成、“MYパーパス”の支援、採用力の強化、離職防止です。1つの制度でさまざまな効果があると思っています。
例えば、採用力の強化で言えば、新卒採用、キャリア採用を積極的に進めていく中で、多くの人は全国転勤型社員として入社します。ただ、よく話を聞いてみると「今は全国転勤であっても問題ないものの、将来的には自分の地元近くの拠点で働きたい」という人が一定数います。そうした人たちに、「実は当社には今、『地域限定転勤制度』があります」と紹介すると、興味を持つ人が多い印象です。この制度が決め手となって、入社を決断する人が増えました。
また、キャリア形成という観点でいえば、地方における人材力の強化にもつながると思っています。例えば、熊本支社に配属となると「同じ九州であれば異動しても良い」という気持ちが芽生え、熊本支社だけでなく九州エリアの他の支社や、九州地区を統括する管理部門、九州にあるオペレーターのコールセンターなどでも働くことが可能となります。この制度を活用することで今まで経験してこなかったような仕事に手を挙げることができるメリットもあると思っています。
今後さらに拡充したい取り組みや展望などを教えてください
私たちは「制度を作って終わり」とは全く思っていません。まだ制度化して間もないので、改善した方が良い点が今後色々と出てくることが想定されるため、それらへの対応は迅速に進めていく考えです。
柔軟で生産性の高い働き方の実現に向けて、「地域限定転勤制度」以外にもまだまだやらなければいけないことがあります。
実際に2023年10月から「まご・おいめい育児休暇」も創設しました。珍しい制度だと思いますが、目的は会社全体で育児参画を支援する風土を醸成していくことです。これによって、最長7日間の育児休暇を取得できます。育児休暇を取るのが当たり前の職場になるのが、私たちの願いです。
人財開発部としては、さらに障がい者採用も強化していきたいと考えています。2024年10月には障がい者雇用率が2.5%を超える見込みではあるものの、ただ単に採用すれば良いという話ではありませんので、活躍してもらうことが大事になってきます。このように、社員全体が安心して活躍できるよう、今後もさまざまな取り組みや制度の創設を進めていく考えです。
SOMPOひまわり生命保険株式会社
代表者:代表取締役社長 CEO 大場康弘
設立:1981年7月7日
資本金:172億5000万円
従業員数:2650人(2023年度末)
事業内容:生命保険事業
本社:東京都千代田区霞が関3-7-3 損保ジャパン霞が関ビル
売上高:4330億円