オンワードホールディングスは、業務効率化とワーク・ライフ・バランスの実現により生産性を向上することを目的に、2019年8月から社員の働き方改革プロジェクト「働き方デザイン」 を推進している。プロジェクトを始めた背景や取り組みの成果などについて、担当の青木莉菜氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)
事業概要を教えてください
オンワードグループ全体で61社(2024年2月末時点)の会社があります。主にファッション事業を手掛け、国内に関しては他にもウェルネス事業やコーポレートデザイン事業などを運営しています。欧州、米国、アジアの3地域で海外事業も展開しています。
働き方改革プロジェクト「働き方デザイン」が発足した背景を教えてください
「働き方デザイン」は、グループの中核事業会社であるオンワード樫山で、2019 年8月にスタートしました。2018年ごろから業界を取り巻く環境が大きく変化し、消費者の価値観や買い方が多様化する一方で、働き方が世の中の変化に対応しきれていないという課題意識を抱いていました。そうした状況を打破するために、働き方改革プロジェクト「働き方デザイン」を立ち上げることになりました。
プロジェクトの概要について教えてください
「働き方デザイン」とは、社員一人一人が自発的に取り組み、働き方を変化させていくという働き方改革プロジェクトです。
「働き方デザイン」という名称にした理由は、「働き方改革」というと会社や人事から「こういう働き方に変えなさい」というニュアンスが含まれると感じるからです。また、ファッションを取り扱っている会社での取り組みとして、社員一人一人が自分たちの望む働き方をデザインしてもらいたいという想いを込めています。
働き方改革プロジェクトなので、目的としては業務の効率化によって残業の削減や有休の取得奨励を進めることもあるのですが、仕事とプライベートの相乗効果「ワークライフシナジー」の創造により、クリエイティブな商品やサービスを生み出し、事業の拡大やイノベーションの創出につなげていくことを目指しています。
主な取り組み内容を教えてください
取り組みの中心になっているのが、2019年8月から課単位で週1回ペースで実施している「カエル会議」です。これには、働き方を「変える」、早く「帰る」、自分のありたい姿を「変える」などのさまざまな意味が込められています。それらを実現していくために、会議の場では何をどう変えていけば良いか、課題は何か、どうしたら解決できるのかなどをチームのメンバー同士で話し合うとともに、解決への施策の進捗状況を互いに確認しながら進めていきます。
職歴や役職を気にせずに発言できる雰囲気を醸し出すようにしているのが「カエル会議」の特徴です。初回の会議では、自分自身が「この先どうなりたいか」を付箋に書いて出してもらったりもしました。
実施にあたっては、人事が会議の進め方に関するガイドラインを提示したり、最初の数回は会議にオブザーバーとして参加することもありましたが、今では進め方にはほとんど関与していません。それぞれのチームで楽しみながら取り組んでくれています。もちろん全社レベルで考えるべき課題は、人事が巻き取るようにしています。
「カエル会議」と並行して実施したのが、役員や管理職などの意識改革を進めるための役員研修や管理職研修です。具体的には、「心理的安全性」をテーマとした研修を行いました。「心理的安全性」が担保されていないと職場や会議において、意見が言いにくい雰囲気になってしまうからです。
他には「働き方デザイン」を推進するための各種制度を設けています。例えば「マイゴールデンウィーク制度」です。休日取得の促進に向けて、10日間の連休取得を推奨する新たな制度で、2020年3月からスタートしました。目的は、業務を属人化させない働き方を実現することです。「マイゴールデンウィークを取得するためにも、仕事の仕方や回し方を日頃から見直していこう!」というメッセージを込めて導入しました。
さらに、2022年3月には出産・育児に関する制度や休暇の取り方などを記載した「仕事と育児の両立支援ガイドブック」を制定・配布しました。そのタイミングに合わせて、管理職向けに男性育休に関する研修も実施し、社内啓発を図りました。
他にも、社員の定着を意識した施策はありますか
女性活躍を推進するため、女性の経営幹部を育成する施策としてメンター制度を2022年7月から、そして女性管理職向けにキャリアプランニング研修を2022年9月から実施しています。ライフステージが変わっても自分のキャリアを再考してもらえる機会として活用してもらっています。
また、13種類のシフトの中から個人で勤務時間を決められる「シフト選択制」を2022年9月から導入しています。出社時と在宅勤務時でシフトを分けたり、夕方からスポーツ観戦や演劇鑑賞などの予定があるので早めのシフトにするなど、さまざまな活用法が見られます。
社員の定着率アップに向けて、どのような成果がありましたか
「働き方デザイン」を推進した結果、残業時間が大幅に減少しました。「働き方デザイン」をスタートする前年の2018年度は1カ月あたりの平均残業時間が17.7時間。それが2023年度には10.7時間となっています。また、同様の期間で比較すると年間の休日取得日数は9日増加。平均勤続年数も、プロジェクトスタート前の2018年度と2023年度を比較して3年11カ月増加するなど、数値面ではかなりの変化が見られます。
おかげで、会社の風土や社内の雰囲気もだいぶ変わってきました。休みやすい職場になり、それが男性の育休取得率の大幅アップにもつながっていると思います。何しろ、2010年度はわずか7.7%。それが、2023年度には国平均の倍以上となる66.7%を達成するほどになっています。これらの結果は社員の満足度を上げ、定着率向上につながっていると感じています。
プロジェクト開始後、社員にどのような変化がありましたか
1年余にわたり育休を取得した男性社員は、「会社には育休を長期間取らせてもらい感謝しかありません。職場に復帰したら会社のためにできることは色々とやりたいです」とコメントしています。会社への感謝が醸成されているのが、すごく印象的でした。社員のモチベーション向上につながっていると思います。
他にも、2008年に入社した女性社員は「働き方改革に伴う制度の導入や社内風土の変化によって、子育てと仕事のバランスが取りやすくなりました。働き方改革とは、働き方の選択肢を増やし、キャリアの幅を広げることです。仕事もプライベートも両立するために、今後も働きやすい風土づくりに挑戦していきたいです」と語ってくれています。
「以前は体育会系的な社風でしたが、今では休みたい時に休めているし、『先に帰ります』と言えるような雰囲気になった」との声も寄せられています。
さらに拡充したい取り組み内容や、展望などについて教えてください
「働き方デザイン」はオンワード樫山からスタートしました。地道に取り組み続けてきたこともあって、着実に成果が上がってきています。その流れをグループ内に広げていくためにも、今年から、企業のユニフォームづくりなど法人向けビジネスを手掛けるオンワードコーポレートデザインでも「働き方デザイン」に取り組み始めています。
「オンワード樫山で成功したのであれば、次は一気にグループ全体に広げたら良いのではないか」という考えもあるかもしれませんが、働き方を変えるのは簡単ではありません。一社ずつ丁寧に取り組んでいかないと上手く定着していかないと思っています。もちろん、オンワード樫山でも活動は継続します。
また、こうした当社の取り組みをもっと社会的にも認知・評価してもらえるようにしたいと思っています。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を評価する「D&IAWARD 2023」では、最高ランクの「ベストワークプレイス」として認定されました。2024年度も引き続き認定されるよう、取り組みを継続させていきたいです。
株式会社オンワードホールディングス
代表者:代表取締役社長 保元道宣
設立:1947年9月4日
資本金:300億7900万円(2024年2月期)
従業員数:(連結)5750人(2024年2月期)
事業内容:ファッション領域、ウェルネス領域、コーポレートデザイン領域における国内事業、海外事業を営む傘下関係会社の経営管理およびそれに附帯する業務
本社:東京都中央区日本橋3-10-5 オンワードパークビルディング
売上高:(連結)1896億2900万円(2024年2月期)