昨年、組織体制を大幅に見直したリクルートグループ。エグゼクティブ・サーチでも、「アジアナンバー1の人材会社」をビジョンに掲げ、売上実績130%の成長で快進撃を続ける。どのような経営改革を実践しているのか、波戸内啓介リクルートエグゼクティブエージェント社長に聞いた。
リクルートエグゼクティブエージェント
波戸内 啓介 代表取締役社長
1989年リクルート入社。営業部門、企画部門責任者を経て、リクルートHRマーケティング関西等、リクルートグループの代表取締役社長を歴任。2011年リクルートエグゼクティブエージェント代表取締役社長に就任。
リーマン・ショック後、企業の人材ニーズは大きく変化しました。
日本の消費市場の縮小や円高、震災と続いたことで日本企業の海外進出が活発化しています。そのため採用についてもグローバルポジションのニーズが高まっています。ニーズがある国も様々で、東南アジア、中国、米国、欧州と世界各国に広がっています。国内では、大企業ではこれまでのインフラを活かした新事業の立ち上げのための人材、地方・中小企業の事業承継や社長交代によるナンバー2の募集が増えています。
事業の概要とリクルートグループでの役割を教えてください。
リクルートグループは昨年、組織体制を大幅に見直しましたが、当社の組織に変更はなく、経営幹部層の人材紹介・エグゼクティブサーチ事業を展開しています。当社のクライアントは日系企業が中心になっています。厳格には分かれていませんが部長職以上、年収1000万円以上のエグゼクティブ層を採用する際に、ご支援させて頂いています。
アジアの現地拠点の求人は、リクルートグループの海外法人(ブランド名称RGF=リクルート・グローバル・ファミリー)各拠点とエグゼクティブ・サーチ会社のボーレ社との連携で人材を紹介しています。グループ間のリソースを活かすために、グローバルミーティングを定期的に実施し、各社の役員同士が意見交換するようにしています。
コンサルタントは現在31人で、そのうちリテインド・サーチのコンサルタントは5人です。業績も高成長を続けており、2011年度3月期売上実績から前期実績は130%程度の伸びとなりました。今期も高い成長を維持できています。
人材紹介のプロセスはどのように変わったのですか。
従来は主に独自のネットワークで知り合った転職希望者を候補者とした成功報酬による人材紹介を行っていましたが、現在は、成功報酬で登録者とネットワークから人材を探し出す方法と、着手金が必要なリテインド・サーチのそれぞれの方法を利用することができます。
成功報酬の場合は登録者やネットワークの中から候補者を探し、レジュメを出しますので、この中に候補者がいれば面接を設定し、適任であれば内定を出して採用することができます。リテインド・サーチの場合は、求人案件を依頼されてから、他の企業で活躍する人材のリサーチを行い、対象者となる人材を探し出します。そして、最適な人材にコンサルタントが接触し、面談を行います。入社について両者が合意すれば採用に至ります。
当社の人材紹介で特徴的なのは、二つの方法を利用して確実に獲得したい人材を探し出すことができるところです。成功報酬で適した人材が見つからない場合には、リテインド・サーチに切り替えて人材を探すことができます。クライアントのニーズに応じて適切な採用方法を提案し、最適な人材を獲得できる体制を整えています。
成功報酬で人材を探す場合はコンサルタントとアシスタントコンサルタントの2人で対応します。リテインド・サーチではコンサルタント、アシスタント、リサーチャーのチームで対応します。また、グループ各社のコンサルタントと協業するケースもあります。
社長就任から2期目になりました。これまで取り組まれたことは?
初年度はマインドセットを重視して、ビジョンを浸透させることで事業基盤の確立を実践してきました。掲げたビジョンは「アジアナンバー1の人材会社になる」「管理職の転職マーケットを作り上げる」ことの二つです。このビジョンを浸透させていくときには、全社ミーティングや社員一人一人と食事をしながら直接対話して理解を深めていきました。常日頃、社員が考えていることや仕事に対するスタンスなどを不平不満も含めて聞き、同時に適切なKPIを設定してコンサルタントの生産性向上に取り組みました。
2期目の課題はグローバル領域の強化です。対外的にはグループネットワークの協業スキームの確立と米国など海外人材会社との事業提携でした。社内的には、昨年に社員全員を上海に連れて行き、現地の人材マーケットを体験させました。現地のRGFの責任者にマーケットの状況をレクチャーしてもらい、実際にクライアント企業などを訪問しました。アジアナンバー1の会社になるとはどういうことかを理解してもらうためです。
3年前までは数人が海外へ出張する程度の会社でしたが、現地の駐在員の苦労話や本社との関係などを聞き取り、コンサルティングに必要な様々な生きた情報をインプットすることで、アジアの人材マーケットのアグレッシブさを感じ、現地でのビジネスの難しさも認識できたのです。
また、訪問先で具体的な求人案件がでてきたこともあり、このようなクライアントの期待に応えるために自分たちはどのような人材を決めていかなければならないかが具体的に分かってきました。帰国後は現地の情報に基づいたリアルな話ができるようになり、メンバー全員の意識が明らかに変化しました。その後も、機会があれば頻繁に現地に赴き、情報を収集するようにしています。
今後の事業方針や経営目標などを教えてください。
この事業に経営責任者としてかかわるようになって、エグゼクティブ・サーチという事業のすべてがコンサルタント個人に紐づいているのを目の当りにし、「この業は家業である」と感じました。これまで管理職の転職マーケットが確立してこなかったのは、このあたりにも理由があると思います。今後の企業の人材需要に応えていくためには、これを組織として運営し、安定的に人材を供給できるように「家業から事業にしていく」ことが必要です。
組織化の大きなボトルネックは人材採用であり、人材のリテンションです。ある程度仕事ができてくるとコンサルタントは独立してしまいますし、人材も育ちません。そして、事業としてコンサルタント数を担保できて、長く在籍する組織にしなければなりません。多くの外資系人材会社が採用しているインセンティブによる動機づけだけではなく、「管理職の転職マーケットを作り上げる」という目標を掲げて「内発的な動機付け」をし、仕事のやりがい、目的、意義を全員で共有することによって組織力を強化することを重視しています。
グローバル化や技術革新で経営環境が激しく変化する中で、企業の経営陣は生え抜きのプロパーだけという時代ではなくなってきています。経営戦略を加速させるために外部から優秀な人材を採っていく、一方で社内で経営戦略と合わなくなった優秀な人材が次の環境へチャレンジできるインフラを整えることにも取り組む必要があります。このような人材戦略の普及を支援することで、結果として大企業の優秀な人材が中堅・中小企業で活躍し、経済が活性化して日本の競争力が高まっていくと考えています。
かつて、リクルートが手がけた若手人材の領域では、ハローワークの情報しかなかったところに「タウンワーク」というメディアを使って市場を拡大することができました。市場分析では、そこまでの規模はないと思われたのですが大幅に予想を上回ったわけです。エグゼクティブ・サーチの日本国内の市場規模も現在200~250億円程度だと推定されますが、企業の人材戦略を支援していくことで市場規模は300億円にも400億円にもなると予想しています。今後、当社の事業が今までの規模から脱却し、マーケットリーダー足る規模になりうるのかどうか、課題を見極めていきたいと考えています。