組織・人事

【65歳定年制で働き方はどう変わるか】65歳定年制を導入し、処遇制度の見直しを進める企業の取り組み

改正高年齢者雇用安定法の施行で、希望者全員に対して65 歳までの雇用延長が企業に義務付けられた。総額人件費の増加が懸念される中、サントリーとオリックスでは60歳以降も戦力化して人件費の増加分を吸収するという。65 歳定年制を導入し、雇用延長後の処遇制度の見直しを進める企業の取り組みを取材した。(文・溝上憲文編集委員)

人事制度

サントリーは65歳定年制 対象者は5000人

改正高年齢者雇用安定法の4月施行を機に継続雇用制度を見直す動きが広がっている。労使協定で定める基準の廃止に伴う希望者全員の雇用を前提とした制度改正を行うほか、新たに65歳まで定年を延長する企業も登場している。

4月1日から65歳定年延長を導入した企業の一つがサントリーホールディングスである。同社はこれまで「エルダーパートナー制度」と呼ぶ再雇用制度を実施してきた。定年退職の直近2年間の人事考課を採用基準とし、1年ごとに契約を更新し、最長65歳まで雇用する。

2011年は95人の定年退職者のうち82人が再雇用を希望し、うち80人が再雇用されている。年収は常勤者で350万円、公的年金を含めると450万円程度であった。定年延長の対象となるのは今年の4月以降に60歳に達する社員からだ。したがって、すでに再雇用制度で勤務している社員はそのまま再雇用が継続され、すべての社員が新制度に移行するのは2017年からとなる。

定年延長になることで職務内容は現職と同じだ。再雇用社員は比較的軽度の業務に従事していたが、定年延長する60歳以降の社員は「原則として現職にとどまり、従来と同じように会社の命令による転勤や異動もある普通の社員」(同社人事担当者)ということになる。定年延長の対象となる社員は、ホールディングスに在籍したまま出向しているサントリー酒類やサントリー食品インターナショナルなどの事業会社を含む約5000人だ。

給与は再雇用より上昇し、60歳時点の6~7割

給与は再雇用のときよりも上がり、60歳時点の6~7割になる。働き方は現役時代と一緒と述べたが、ただし60歳以降は全員が役職を勇退し、一担当者として現場を支える役割を担うことになる。処遇の仕組みはそれと関係している。

同社の月例給はこれまで職能資格制度に基づいて資格給主体の賃金体系であった。昨年、旧来の人事制度を見直し、職務・役割給制度を導入している。これによって資格給は残すが新たに役割給が入り、月例給は資格給と役割給の2本立てとなった。

役割グレードは課長職の一つ手前の役割から本部長クラスまでの数段階を設定している。60歳以降は全員が役職を降りるために、資格給に加えて課長職の一つ手前のグレードに位置づけられ、その役割給が支給される。したがって大体の目安として管理職だった社員は6~7割の給与となる。

また、退職一時金や企業年金については60歳までに積立を終了し、65歳からの支給となる。ただし、今後5年間は移行期間と位置づけ、現在、56歳から59歳の社員については途中で企業年金を受給できるようにする。定年延長による処遇を引き上げたことで当然、人件費は増加する。現在の再雇用者に支払う人件費と全員が定年延長の対象者になる2017年の60歳以上の社員に支払う分を比較すると、十数億円の純増になるという。

なぜ、人件費増となる定年延長を実施することにしたのか。「高齢法の改正で希望者全員が再雇用することになるのであれば、処遇も上げることで高齢社員を戦力として積極的に活用し、生産性向上を目指そうというものだ」(人事担当者)というのが理由だ。

オリックスも65歳定年制 働き方や処遇体系を一新

2014年4月から65歳定年制を導入するのがオリックスだ。定年延長の趣旨はサントリーと同様に「年金の空白による無収入期間の面倒を見るコストとして考えるのではなく、会社の重要な戦力として活用するための投資」(人事担当者)と位置づける。

再雇用制度は06年に導入。①勤務成績が標準以上②心身共に健康であること③会社が用意した仕事に応諾する―という3つの基準によって再雇用者を選別してきた。昨年は①の基準を撤廃し、原則として希望者全員の雇用に切り替えている。

再雇用者の身分は1年更新の契約社員。勤務形態はフルタイムとし、働き方は現職を外れ、主に監査や営業管理部門のバックオフィスの事務の仕事がメイン。報酬額は現役時代の職務等級によって決定され、概ね3~4割の水準である。課長職の等級であれば年収300万円~360万円。部長職なら400~450万円程度を支給していた。

再雇用率は年によって違うが、昨年は原則全員雇用としたことで辞退する人も発生せず、雇用率は100%だった。ただし、同社の退職者はそれほど多くなく、オリックス単体で15~20人である。現在60歳以上の社員が約120人働いているが、今後は毎年30~40人ずつ増え、10年後には600人程度になるという。

65歳定年制の導入を決めた背景には、長年の経験を生かすことで仕事に対するやりがいを向上させたいという人事部の思いに加えて、「高齢社員はコストではなく宝の山と思え」という経営トップの強い指示もあった。

定年延長によって働き方や処遇体系も一新する。60歳以降は原則としてこれまでの役職は外れる。そして上長を補佐するアドバイザー的役割や専門職など新たな役割を設定する。また、現役時代と同様に会社命令による異動もあれば転居を伴う異動もあり得る。

賞与支給、重責ならば現役時代と同じ給与を支払う

報酬制度は、現在、制度を設計中であるが、現行の再雇用の3~4割となっている水準を改正によって5~6割に引き上げる予定だ。同社の賃金制度は、役割の大きさと成果によって決まっていく体系であるが、60歳以降については新たな役割を設定し、それに基づいて賃金を決定することになる。

また、現行の再雇用者には賞与はなかったが、役割サイズと成果に応じて賞与を支給することも検討している。また、60歳以降も重責を担う人については現役時代と同じ給与を支払うことも検討している。

一方、現行の再雇用制度は65歳定年制度を導入しても維持する方針だ。すでに再雇用制度を前提にライフプランを計画している人もおり、柔軟な働き方の選択肢として残す。今後は再雇用制度の中身についても、週に3日働くとか、よりフレキシブルな働き方も考えているという。

2014年4月の導入に向けて報酬制度の設計のほか、60歳超の退職金のあり方も含めて検討していくことにしている。定年延長で雇用者増と報酬アップで人件費総額は当然ながら増えることになる。もちろん、そのことによって現役世代の賃金を圧縮するとか、新卒採用を控えるつもりはないという。

多様な人材を使いこなすマネジメント力が問われる

65歳定年制は人件費増をともなうが、サントリー、オリックス両社に共通するのは、経営トップの強いリーダーシップが導入決定に大きく影響していることだ。もう一つは法律改正による福利厚生的な後ろ向きの対応ではなく、高齢者を戦力化し、生産性の向上を狙うという人事戦略の転換である。しかし、それを実現するための課題は少なくない。

一つは、60歳以降もモチベーションを高めて仕事ができるような職務や職域をどれだけ用意することができるのかという点だ。その意味では両社は食品と金融業の違いがあるが、顧客接点に近いという特徴があり、長年の経験を現場で生かすことも可能だ。さらに高年齢者の仕事ぶりがロールモデルとなり、後に続く後輩たちの仕事への意欲を高められるかどうかも鍵を握っている。

もう一つは現場のマネジメント力の向上だ。前の上司だから使いにくいというような声をよく耳にするが、高年齢者に限らず、今の職場には派遣スタッフもいれば、女性社員や外国人スタッフもいる。多様な人材を使いこなすマネジメント力の向上をどのように図っていくかも問われている。

定年延長はしなくても、現実は希望者全員を再雇用することになり実質的な65歳定年時代に入ったといえる。いずれ公的年金の支給開始年齢の引き上げにともない、それに合わせて法定定年年齢の引き上げや継続雇用期間の65歳以後の延長も国の政策的課題として浮上してくるのは間違いないだろう。それを見据えて高齢人材の活用という人事戦略の転換をいち早く行うことが企業の競争力にも影響してくるだろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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