雇用延長された団塊世代の引退で、今以上の人材採用難が予想される。急速に悪化する経営環境で生き残るため、競争力強化に資する即戦力人材の獲得やビジネスモデル転換に伴う人材戦略が重要になる。パソナキャリア代表取締役社長の渡辺尚氏に企業の人材サービス活用の状況を聞いた。
パソナキャリア
渡辺 尚 代表取締役社長
1964年 北海道生まれ。1989年 株式会社テンポラリーセンター(現 株式会社パソナ)入社。2007年1月 株式会社パソナキャリア代表取締役社長。
出生数の減少もあり、今後、ますますベテランの採用や活用が必要になります。
2007年問題では、団塊世代の大量退職が始まり、熟練した労働力が足りなくなるといわれていましたが、高齢者雇用安定法の改正により、企業の定年延長や再雇用が促進されたことによって、なんとか切り抜けてきました。しかし、数年後には、その方たちも退かれていくことを考えると、今以上に企業の人材確保は難しくなると予測されています。そのため、数年後には、企業規模を問わず、多くの企業が優秀な人材の獲得に、一斉に走り出すことが予想されます。
そうなると地方企業や中小企業の人材採用難は深刻になるでしょう。この2~3年間が、若い優秀な人材を採用する最後のチャンスと言っても過言ではありません。 数年後には企業からの人材紹介の依頼が増えても、登録者を集めることができず、対応できない状況になります。実際に、すでに動き始めている企業もあります。
最近、人材市場で起こっている現象は、自動車関連の優秀な営業マンが市場に流出し始めているということです。原油高等で自動車の販売が落ち込んでいるためです。優秀な営業マンの採用を考えている企業は、この機会を逃す手はありません。また、当社では、海外からホワイトカラーの人材を呼び寄せることも視野に入れています。欧米では、ホワイトカラーは国境を越えて働くことが当り前になっています。
日本ではビザの問題や文化的な問題がありますので、まだホワイトカラーの外国人を国内で登用している日本企業は多くありません。近い将来、深刻な労働力不足がやってくるということを心に留めて、人材の採用を考える必要があるでしょう。
地方企業や中小企業が、大企業で働いていたベテランを採用する場合、上手く活躍できるかどうかという不安があると思います。
年齢構成が偏った企業は、社外に人材を求めることになりますが、一般的には、世の中で競争力のある企業に勤めていた人は、その企業の良い文化を身につけていると言えます。例えばパソナのようなサービス業の会社には、ものづくり企業が持つ文化を身につけた人材を育成することはできません。大手メーカーの技術職出身で当社の支店長として採用された社員が、会議室のネームプレートを休日に自分で作ってきたことがありました。
その社員にとっては特別なことではなかったのですが、ものづくり企業出身の社員のコスト感覚や創意工夫の精神は他の社員にとっては大変な驚きでした。大企業で働いていた人材が、地方企業や中小企業に馴染めるかという問題では、目線をその会社に合わせてもらうことが必要です。それには面接の段階で、できるだけ具体的に、どういう行動を期待しているのかを伝え、腹を割って話すことが大切でしょう。
私がパソナに入社した20年前、まだ若い会社でしたが、ベテランの社員が多かったことに驚きました。若手の管理職の下に50~60代のベテランを配置し、相談を受けたり、暴走に歯止めをかけるような役割を果たしていました。例えばクレーム処理の場合など、若手の管理職が対応するのと、それなりの年格好のベテランが対応するのとでは、お客様の反応も違います。また、お客様にお出しする手紙の文面を確認してもらったり、上司には言えないことを、親のような立場で、聞いてくれたりもしていました。
若手の管理職の足りない部分を補うベテラン社員の存在は、組織の中で、非常に大きいものだったと記憶しています。 会社の人員構成というのは、家族構成のようなものです。父親役がいて、母親役がいて、子どもがいる。子どもに当たる経験の少ない若い社員だけの会社はあらゆる意味で危険といえるでしょう。一方、高齢者ばかりの会社では活力がないので、若いエネルギーや発想力が必要になります。年齢構成のバランスのいい企業が最も理想的です。
ベテランの活用は再就職支援と密接な関係にありますが、企業では再就職支援サービスをどのように活用しているのですか?
従来、再就職支援は企業の人事部の仕事でしたが、今はアウトソーシングで当社のような専門会社が受託しているケースが増えています。利用が多いケースは、合併やビジネスモデルの転換などによって、事業所を再編しなければならない場合です。
金融機関や百貨店、スーパーなどが合併した場合、駅前に2店舗は必要ありませんから、必然的に重複する店舗が閉鎖されます。同業で合併した場合は、合併前の人員の平均約23%が削減されています。一時的に人員を削減しなければならなくなった企業が、退職する社員の再就職を支援することで、残った社員のモチベーションを下げることなく、双方の痛みを和らげる形でお手伝いができると考えています。
自身のスキルを活かせる事業からの撤退や転勤ができない等の理由で、やむなく退職される優秀な方も多いので、人材不足に悩む地方企業や中小企業には、是非活用していただきたいプログラムです。また、最近は、再就職支援を福利厚生の一貫として利用する企業も増えてきています。ある企業の人事部が60~65歳の雇用延長に関して行ったアンケートの結果では、定年後も同じ職場で働きたい人は半数程度だったそうです。
逆に考えれば、再就職支援を使って、故郷に戻って働きたい人や別の世界を見てみたい人が、半数はいると考えられます。そうしたニーズに応え、「セカンドライフ」という観点から再就職支援のプログラムを見直し、独立やボランティアなどの社会参加、田舎暮らしや海外暮らしなどの支援プログラムを用意しています。
団塊世代の大量退職と少子化等による人材不足に悩む企業の相談に、人材紹介と再就職支援という両面から対応していくということですね。
当社は全国47都道府県に拠点を持ち、新しい雇用インフラとして全国的な視野をもって、人材サービスを提供できる唯一の企業です。人材に関する課題・問題意識や悩みを最初に相談していただける人材会社として、企業の皆様とのパイプを強化していきたいと考えています。