次世代リーダーの人材紹介会社コンコードエグゼクティブグループでは、大手企業の若手社員からのキャリア相談が急増しているという。東京大学でキャリア設計の授業も行う同社の渡辺秀和社長に、次世代リーダー候補である東大生のキャリア観や次世代リーダー採用を成功させるために必要な企業人事の考え方などを解説してもらった。
コンコードエグゼクティブグループ
渡辺 秀和 代表取締役社長 CEO
一橋大学卒。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立し、代表取締役社長CEOに就任。「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門で初代MVP受賞。東京大学×コンコード「未来をつくるキャリアの授業」コースディレクター。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)他。
「成長スピード」を求め、「配属リスク」を避ける東大生の就職先選び
昨年秋、東京大学経済学部からの依頼で、全12回に及ぶキャリア設計の授業を開講しました。毎回300人近い出席で大教室は熱気にあふれ、各講義後のアンケートからは、自分の人生をしっかり生きようとする前向きな気持ちが伝わってきました。
同時に、東大生のような次世代リーダー候補となる若者のキャリア観が大きく変わってきていることを強く感じました。まず、「成長スピード」に対する意識の高まりが顕著です。東大生の就職先人気ランキングを見ても明らかなように、コンサルファームやベンチャー企業を選ぶ人が増えています。自ら起業する人も珍しくありません。
こうした選択をして成功する先輩たちが増えるにつれ、厳しくても成長できる環境に身を置くことで、若いうちから社会に対して広く影響を与えていくことができるというキャリア観を持つ学生が増えています。
そして、大手企業に総合職で入社することによる「配属リスク」という言葉が学生の間に広がっています。就社の意識が薄まっている中で、専門性を磨いてキャリアを自ら切り開いていこうとする学生からすると、何の仕事をするのか分からない総合職採用はリスクが高いと認識されているのです。
若手社員からのキャリア相談が急増している理由
成長スピードと配属リスクを意識して就職先を選ぶ学生が増える一方で、引き続き、財閥系企業を中心とした大手企業の人気が高いのも事実です。しかし、若手が活躍できる環境がないことに気づいて入社後すぐに転職活動を始める人も少なくありません。
実際に当社にも大手企業の入社1~3年目社員のキャリア相談が急増しています。従来、当社の登録者はしっかりとビジネス経験を積んだ30代が最も多かったのですが、直近2年間で、新規の登録者全体に占める20代の比率が30%から45%にまで増えました。
特に目立つのが著名な日系企業の若手社員です。新卒採用担当者から「経営者人材になれる」と聞かされて選んだものの、仕事の内容は営業などの現場業務がメイン。子会社のマネジメントや投資事業にフォーカスして学生に話しすぎているため、実際の仕事とのギャップが大きく、ガッカリしてしまうようです。
いまだに東大生や京大生をどれだけ採用できたかで採用担当者が評価されている会社が少なくありません。採用担当者が高い評価を得るために何とか入社させようとするのは仕方がないことです。
また、採用担当者は数年で異動するため、入社後の活躍や育成に直接的な責任がありません。むしろ、このような仕組みを続けている社内体制に問題があると考えるべきでしょう。授業を受けた東大生からも「学生一人一人の適性や志向をあまり見ずに、東大生というだけで採用している」という採用姿勢に対する不信の声が多く聞かれました。
東京大学の授業で教科書として使用された『未来をつくるキャリアの授業』
・「ハブ・キャリア」で業界・職種を飛び越える―キャリア設計の“マジック”
・「キャリアビジョン」をつくる―自分の「好き・嫌い」を知るところから始まる
・「市況」を味方につける―あまり知られていない決定的要素
・「キャリアの上昇気流」に早く乗る―ワークライフバランスを長期スパンで考える
・ 女性のキャリア設計はどうすればよいか? ―高い不確実性に備える
・年収をアップするにはどうすればよいのか? ―まずは「壁」の存在を知る
・転職は何歳までにすればいいのか? ―年齢の都市伝説
「社内都合」ではなく、「人材市場」と向き合う
人事の皆さんも強く感じていらっしゃる通り、高度化するビジネスに対応できる人材とそうでない人材の差がとても大きくなっています。入社後の成長にも大きな差が生じています。全員を同じ初任給で新卒採用し、年功序列で給料が上がっていく仕組みは合理的ではなくなってきました。
また、近年の人材市場の発達で、採用戦略は大きく変化しています。新卒や正社員にこだわらず、必要とする人材とタイミングを見極めて、中途採用、派遣、クラウドソーシングなどの手段を活用する合理的な企業も増えてきています。このような環境下においては、人材を横並びで扱わず、一人一人が生み出す付加価値に応じた処遇が必要です。
そして、人材市場を活用した採用を行なう際の注意事項として、外部から入社する人材の処遇が不利にならないようにすることが大切です。いまだに中途入社の社員は、新卒入社の社員より不利になるという大手企業が少なくありませんが、優秀なリーダー人材からは関心を持ってもらえません。「社内都合」ではなく、「人材市場」と向き合っている企業が採用に成功しています。
リーダー人材の「リテンション」にも必要な施策
「自社でも既に成果主義の人事制度を導入している」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし大切なのは、活躍する人材にどのくらいの報酬を用意できるかです。成長意欲の高い若手を次世代リーダー候補として獲得したいのであれば、彼らが求めている処遇や働く環境を用意しなければなりません。
例えば、東大生の人気が高い外資系コンサルは30歳で1200~1500万円程度の年収は当たり前となっています。優秀な人材を求めるということは、こうした企業と競っているという意識を持ち、採用力を高めることが必要があります。そして、そのための取り組みは、採用のみならず、企業の中核を担ってくれている中堅・若手幹部候補のリテンションのためにも不可欠なものとなるでしょう。