多くのネット系の成長企業が、経営企画やマーケティング、海外事業などの重要ポジションを担う経営幹部や幹部候補として、コンサルティング会社の出身者である「ポストコンサル」を積極的に採用しているという。企業のポストコンサル採用を数多く支援している人材紹介会社コンコードエグゼクティブグループの渡辺秀和社長に、ポストコンサル採用の実態を解説してもらった。
コンコードエグゼクティブグループ
渡辺 秀和 代表取締役社長 CEO
一橋大学商学部卒。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立し、代表取締役社長CEOに就任。戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家などへ1000人を超えるビジネスリーダーの転身を支援。第1回「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門で初代MVPを受賞。東京大学×コンコード「未来をつくるキャリアの授業」コースディレクター。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)、『未来をつくるキャリアの授業』(日経新聞出版社)。
ネット系の成長企業の経営者がポストコンサルを採用する理由
インターネット業界の伸びは著しく、様々な業態の企業が成長を遂げています。グリーやDeNAのようなゲーム・エンターテインメント系のビジネスもあれば、エムスリーやエスエムエスのように社会問題の解決にインパクトを与えるビジネスや、クックパッドやカカクコムのように生活の中に欠かせなくなっているビジネスも多数あります。
今、そのようなネット系の成長企業で、コンサルティング会社の出身者であるポストコンサルを積極的に採用する動きが活発になっています。その背景には、①経営について論理的かつ定量的な視点から一緒に考えてくれるパートナーがほしい、②比較的若い経営陣にとって20代や30歳前後で経営全体が分かる部下がほしい、③新サービスや海外事業を立ち上げるための責任者を任せられる人材がほしいという3つのニーズが挙げられます。
ポストコンサルは、若い時期から様々なプロジェクトを通じて経営課題を解決する経験を積んでいます。そのため、ネット系の成長企業では経営者のニーズに応える貴重な人材としてポストコンサルに注目し、経営幹部や幹部候補のポジションで積極的に採用しています。
リーマン・ショックで激変したポストコンサルの採用環境
ポストコンサルの採用を取り巻く環境は、リーマン・ショックを境に激変した経緯があります。リーマン・ショック以前は、コンサルティング会社、ファンド・投資銀行、外資系企業などが積極的にポストコンサルを採用していたため、まだ社員の給与水準が低かったネット系企業に転職するポストコンサルは多くありませんでした。
しかし、リーマン・ショック後に状況は一変しました。多くのコンサルティング会社や外資系企業では、部門ごと閉鎖するような大規模なリストラが行われました。優秀な人材が一気に市場に流出し、多くの企業が採用を停止する中で、採用の門戸を開いていたのがネット系の成長企業でした。
業績が伸びていたネット系企業は高い給与水準を提示することができたため、優秀なポストコンサルの採用に成功したのです。その後、ネットビジネスはますます拡大し、ネット系の成長企業に転職して活躍するポストコンサルが急激に増えてきました。その勢いはとどまることなく、現在では、ネット系の成長企業がポストコンサルにとって有力な転職先の一つになっています。
ポストコンサルを引き付けるネット系の成長企業がもつ魅力
ネット系の成長企業に転職するポストコンサルは、今後一層増えると考えています。ネットビジネスでは、リアルタイムで大量のデータを入手して分析を行うことで、効率的なビジネスモデルをつくることが求められます。定量的な分析を得意とするポストコンサルのスキルとの親和性が高く、ポストコンサルが力を発揮しやすい分野であると言えます。
また、事業会社への転職を考えるポストコンサルに対して現在最も高い給与を提示しているのは、ネット系の成長企業です。若い経営者が多いことから、能力があれば若くても役員や事業責任者として採用されています。高い給与で大きな仕事ができることは、ポストコンサルにとって強い魅力になっています。
さらに、キャリア設計の観点からも、ネット系企業は多くのポストコンサルを引き付けています。様々な業態の企業がネットビジネスの経験者を求めており、ポストコンサルにとってもネット系企業で経験を得ることは将来の可能性を広げます。
また、今のネット系ベンチャーの経営者は事業の立ち上げ当初から海外進出を視野に入れており、海外事業の立ち上げを経験するチャンスがあります。ポストコンサルには海外事業経験を積みたいと考える者も多く、ネット系企業での海外事業にも注目が集まっています。
ネット系の成長企業によるポストコンサル採用の事例
優秀なポストコンサルを獲得する採用方法の工夫
ポストコンサルにとってネット系の成長企業が魅力的な転職先になっているとはいえ、優秀なポストコンサルを獲得するには採用上の工夫が必要です。ポストコンサルには自身の仕事における社会的意義を重視する人が多く、入社した企業で長く活躍したいと考えています。
そのため、募集や面接においては、自社のビジネスモデルや将来性、社会的意義をどのように説明するのかを十分に考えて伝える工夫が必要です。
ある企業では、いきなり面接を行うのではなく、ポストコンサル向けの「インフォメーションセッション」という機会を用意して、ざっくばらんな雰囲気で会社の魅力を伝えたり質問を受けたりしています。採用したいポストコンサルに対して特別な扱いをすることは効果的な仕掛けです。
また、成長途上の企業で高い給与を用意できない場合には、給与以外の工夫によって採用力を高める必要があります。ストックオプションや魅力的なポジションを用意することも効果的です。有力なネット系の成長企業が増え、他の業界も積極的で競争が激しくなっているため、優秀なポストコンサルの獲得には採用の工夫が求められています。