「組織開発」で新たな組織文化を創造 診断のフレームワークを公開【行動をエンジニアリングする 連載第1回】

激変する経営環境の中で生き残り、持続的な競争優位を築くため、多くの企業が組織力の強化に取り組んでいる。その取り組みを成果に結びつけるために必要な視点について、戦略組織・組織生産性向上のコンサルティングを実践してきたカタナ・パフォーマンス・コンサルティング代表の宮川雅明氏が紹介する。

カタナ・パフォーマンス・コンサルティング
宮川 雅明 代表取締役

因果関係を構造的に整理できていない

外部環境の変化に目を奪われて経営の原理原則を見失い、やるべきことをやっていないということが多い。例えば、予算制度についての相談をよく受けるが、そもそも予算とは何なのか。

目標を達成するために難易度別にどういう対策をとらないといけないのか、その対策の検討に時間を投資するべきだが、予算の数字を一つ作り上げることに右往左往しているのでは意味がない。

そして本来、数字は確認として見るものだが、今はあまりにもIT化が進みすぎて現場の動きを見ている人が少ない。デスクで資料を見てネットで検索ばかりしているので現場感覚が乏しく、皆が評論家のようだ。

課題に対して深く考え、因果関係を構造的に整理できていないから、機能別の戦略が優先されてしまい、様々な方法論をどう活用するかに思考が偏っている。

組織開発で方法論ありきの対処療法から脱却

組織開発とは、新たな組織文化(行動様式)を創造することである。例えば、社長が経営会議で「この案件をやりたい」と語ったときに、上級職全員が「どうせできないだろう」と思った瞬間に、やる前から結果は見えてしまっている。

このような行動様式は、組織の歴史の中で蓄積された無意識のまま行われる習慣(暗黙的仮定)であり、経営課題を解決していくためには、因果関係を構造的に理解して、変えていかなければならない。

組織開発の重要性が浸透しないのは、コンサルティング業界の問題でもある。組織開発のコンサルティングの中で最も重要な手法はインタビューと観察だが、経験の深いコンサルタントが行わないと適切な仮説が出てこない。

多くのコンサルタントは表面的な分かりやすい事象だけを見て「戦略の見直しだ」、「人事制度を変えましょう」と方法論ありきの対処療法を出してしまう。

ところが、戦略を実践する体験(組織文化)を持たない組織であれば、立派な戦略も価値を全く持たない。そうすると、やるべきことは、戦略の見直しではなく、徹底実践の組織文化を作り上げるための取り組みになる。

新たな顧客を創造するための学習する力

組織開発に加えて日本の企業に致命的に不足しているのは創造性である。最近も円高で産業の空洞化が問題だという人がいるが、人口減少で内需が縮小すれば海外でのビジネスを拡大していくのは自然の流れだから、外で稼いだお金をどうやって国内に循環させるのかという戦略が重要になることは分かっていたはずだ。

私が長くお付き合いしているクライアントはすでに1980年代から、そうした戦略を意識して海外でのビジネスを行っている。マーケティングの原則は、顧客を探すのではなく顧客を創造することと言われるが、組織開発ができず、創造性が欠けている組織は、既存顧客に依存し、新たな顧客を創造するための学習する力を失ってしまう。

組織文化診断で社員の行動様式を明らかにする

組織文化診断は、組織開発をサポートする一つのツールで、より短時間で定量的かつ構造的に経営課題の因果関係を把握することが可能だ。

組織文化診断は、社員の思いや意識を聞くような調査とは全く異なり、社員の具体的な行動様式を問う。行動様式の相関係数から分析し、その行動を変えると何が良くなるのかが分かるようになっている。行動を変えないと結果は変わらず、行動を変えていくことこそがマネジメントの基本である。

今回、一般社団法人組織研究会と協力して「組織開発研究会」を立ち上げ、企業の実務家とともにオリジナルの組織文化診断のフレームワークを新たに開発した。研究会参加企業(※)においてモデル診断を行い、英語版と中国語版も用意している。ウェブサイトでは、組織文化診断のフレームワークを公開しており、デモを行うことができる。

※ 組織開発研究会参加企業:アドバンテージ・リソーシング・ジャパン、伊藤忠商事、オムロン、オムロンパーソネル、コニカミノルタオプト、日本マイクロソフトなど

●組織文化を構成する12の因子(ドライバー)と36の要求事項(リクワイアメント)

組織文化診断の活用と対策への取り組み

組織文化診断はツールであり、診断結果だけで経営課題を解決するための具体的な対策を出すことはできないが、標準のアウトプットは分析しやすいものになっている。健康診断のように組織の体質を定点観測するには有効だ。

組織開発のコンサルティングでは、インタビューで出した仮説を組織文化診断の結果で検証し、対策を出す前にインタビューやディスカッションを更に行う。実践できない対策は意味がないからである。診断結果のフィードバックでは、社員に対して直接、丁寧に何度でも説明することが最も大切だ。

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