人材採用

【改正派遣法が施行】難しい運用で問われる実効性

改正労働者派遣法が10月1日、施行された。これまで短期労働者を活用していた事業者は労働力の確保が難しくなる。一方で、例外規定の運用次第では規制が形骸化する可能性もあり、その実効性が問われることになる。(文・溝上憲文編集委員)

人事制度

グループ企業派遣を8割以下に規制

2008年に自公政権が国会に提出して以来、紆余曲折を経てきた改正労働者派遣法が10月1日、施行された。政府案の目玉であった「登録型派遣・製造業派遣の原則禁止」が民主党と自民・公明党の協議で削除されたものの、派遣会社・派遣先に大きな影響を与える内容を含んでいる。

改正法案の主なポイントは①30日以内の日雇派遣の原則禁止②グループ企業派遣の8割規制③マージン率などの情報公開を義務化④違法派遣の労働契約申込みみなし制度の創設だ。特に注目を集めているのが、グループ企業派遣の8割規制と日雇派遣の原則禁止である。

旧法では特定の派遣先のみへの派遣は「専ら派遣」として禁止されていた。本来の労働者派遣事業とは、民間の労働力の需給調整機能を果たす役割を担うことが最大の目的であり、特定の派遣先にだけ労働力を提供するのは、その趣旨に反するというのが規制の理由である。

今回はさらに踏み込んで「関係派遣先への派遣割合(関係派遣先に派遣している労働者の総労働時間を、すべての労働者の総労働時間を除した割合)が100分の80以下となるようにしなければならない」としている。つまりグループ企業の派遣会社がグループ企業に派遣する人員の割合を8割以下とすることを義務づけたものだ。

ただし、定年退職者は除外され、その中には継続雇用後に離職した者や継続雇用中の者も含まれる。派遣割合は、全労働者の総労働時間を分母、全派遣労働者のグループ企業での総労働時間から定年退職者のグループ企業での総労働時間を差し引いた時間を分子として計算する。派遣会社はその派遣割合を毎事業年度終了後3カ月以内に都道府県労働局に報告しなければならない。

ところでなぜ8割なのか。じつは当初の厚生労働省の実態調査ではグループ企業に派遣している約7割の事業所が8割以上の派遣をしていた。そのため、8割以下とすれば7割に規制が及ぶという実効性の高さに着目したからである。

グループ企業の範囲は、連結決算を導入している企業グループの場合、派遣元事業主の親会社と派遣元事業主の親会社の子会社も含まれる。連結決算を導入していない企業も例外ではない。その範囲は連結決算導入企業と同様であるが、親子関係は、外形基準(議決権の過半数を所有、出資金の過半数を出資等)により判断する。

また、もう一つの事業規制として、離職した労働者を元の企業に派遣する場合、離職後1年間は禁止する条項も盛り込んでいる。これは直接雇用すべき労働者を派遣労働者とすることで、労働条件の切り下げなどリストラ策として使われる可能性があるために設けた規定だ。派遣会社はもちろん、受け入れる派遣先も禁止義務を負う。

禁止対象となる派遣先はあくまで「事業者」単位であり、「事業所」単位ではない。また、派遣先事業主は受け入れた派遣労働者が離職後1年以内であるときは書面などでその旨を派遣会社に通知しなければならない。ただし、この場合の派遣労働者は60歳以上の定年退職者は除かれる。

また、もう一つの事業規制として、離職した労働者を元の企業に派遣する場合、離職後1年間は禁止する条項も盛り込んでいる。これは直接雇用すべき労働者を派遣労働者とすることで、労働条件の切り下げなどリストラ策として使われる可能性があるために設けた規定だ。派遣会社はもちろん、受け入れる派遣先も禁止義務を負う。

禁止対象となる派遣先はあくまで「事業者」単位であり、「事業所」単位ではない。また、派遣先事業主は受け入れた派遣労働者が離職後1年以内であるときは書面などでその旨を派遣会社に通知しなければならない。ただし、この場合の派遣労働者は60歳以上の定年退職者は除かれる。

日雇派遣「原則禁止」の例外規定で実効性を危ぶむ声も

日雇派遣については、日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者の派遣を原則禁止とするものだ。政府案の2カ月以内の禁止から自公政権時代に提出した「30日以内」に逆戻りした。

そもそも日雇派遣を禁止する理由は、短期の就労は教育訓練をはじめ派遣会社・派遣先双方での適切な雇用管理が果たされず、派遣労働になじまないというもの。実際に派遣会社が労働者と顔を合わせないケースも多く、派遣先も雇用主でないことから雇用管理責任が希薄であり、労働災害が発生しているという指摘もある。

だが、30日以内の派遣を禁止しても実効性を危ぶむ声もある。すでに31日以上の契約を結んで従来の日雇派遣と変わらないサービスを提供しよう目論んでいる派遣会社もある。

厚労省は「31日の契約であっても労働実態が1日だけというのは明らかな脱法的行為であり、厳しく指導していく」(需給調整事業課)としている。しかし、10日や15日の場合については「個別の中身を見て判断するしかないが、あまりにも横行するなら運用を厳しくしていく」(同)という。

また、「原則禁止」であることから例外も認めているが、この例外の範囲がじつに幅広い。 政令では以下の人は日雇派遣で働くことができる。①60歳以上の者②雇用保険の適用を受けない学生(昼間学生)③生業収入が500万円以上の者(副業)④生計を一にする配偶者等の収入により生計を維持する者であり、世帯収入の額が500万円以上(主たる生計者以外の者)。

例外規定が設けられたのは、修正案の提出者である民主党の岡本充功衆議院議員が参議院厚生労働委員会で、原則禁止の例外として述べたことがきっかけだ。

日雇派遣は雇用管理責任が果たされないので原則禁止になったが、その趣旨を前提に「生活のためにやむをえず仕事を選ぶことができないでいる人以外の人は含まれない」という理屈から生まれた例外だ。簡単に言えば、日雇派遣に頼らなくても生活ができ、かつ日雇派遣のリスクが大きくない人については認めましょうというものだ。

雇用管理責任が果たされないから禁止にするという前提に立てば、本来なら日雇派遣は全面禁止にすべきであるが、妙な理屈をつけたことで例外が生まれた。安全衛生上問題だというのに、高齢者や昼間学生は日雇派遣ができますよ、というのはおかしい。厚労省としては国会で決まった以上、それに則り、できるだけ矛盾のない政令を作ったつもりなのだろう。

世帯収入の確認義務に派遣業界は反発

問題点はまだある。例えば「世帯収入500万円以上」ある主たる生計者以外の家族は日雇派遣で働くことができる。夫が500万円以上の収入があれば、妻や子供は働けるが、実際は500万円以上あることを証明しなければならない。

具体的には本人・配偶者等の所得証明書や源泉徴収票の写しを派遣会社に提示することになるが、これについては派遣業界から反発の声が上がっている。所得証明書や源泉徴収票といったあまり人に見せたくないプライベートな書類を提出する人はもちろん、派遣会社にとっても心理的負担が大きく、結果的に働くことを希望する人の就業意欲を損なうというものだ。

厚労省はこうした意見を考慮し、実際の運用では、所得証明書を提出する代わりに、本人が500万円以上あることを示す誓約書を出せば、それも認めることにしている。そうなれば仮に500万円の収入がないのに日雇派遣で働いていたことが後で発覚しても、派遣会社の責任は免れることになる。だが、こうした運用の結果、脱法行為が横行し、結果的に「原則禁止」が骨抜きになる可能性もある。

自公政権が国会に提出して以来、4年の歳月を経てようやく成立した改正派遣法。実効性を担保できるかどうかは今後の行政の運用にかかっている。場合によっては脱法行為が頻発しかねない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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