改正育児・介護休業法が今国会で成立、”男性優遇”の新制度は世界に遅れる日本の焦り

日本の社会問題である男性の育児休業取得を促すために、改正育児・介護休業法が今国会で成立した。改正のポイントは男性の育休取得に向けて柔軟性が増したことだ。本法案の成立によって企業の取り組みはどのように変化するだろうか。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

現行制度より柔軟な改正法の4つのポイント

男性の育児休業の取得を促す改正育児・介護休業法の今国会で成立した。改正法のポイントは以下の4つだ。

 1.子の出生後8週間以内に4週間まで取得できる出生時育児休業制度の新設(①申出期限は2週間前まで、②分割して2回取得可能、③休業中の就業も認める)
 2.取得しやすい雇用環境の整備と申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認措置の義務付け
 3.育児休業の分割取得(新制度を除き、2回まで取得可能)
 4.育児休業取得率の公表の義務付け(従業員1001人以上が対象)

現行の育児休業制度は原則子が1歳になるまで取得できる。それを2つに分けて女性の産後休業中の8週間以内に4週間まで取得可能とするのは明確に男性を意識した制度だ。また、8週間以内に限定して2回の分割取得ができるほか、この期間内については休業中の就業も可能とするなど柔軟な仕組みになっている。

さらに新制度の出生時育児休業制度を除く育児休業期間については、現行の制度は原則分割することができないが、分割して2回までの取得を可能にする。男性の場合は出生後8週間以内の2回分割に加えて、8週間以降も含めて計4回の分割取得が可能になる。例えば妻が産後休業の8週間を終えて職場に復帰し、代わって夫が育休を2カ月取得し、その後妻が育休を取得し、さらに妻が職場復帰した後に夫が取得するなど夫婦交代の育児が可能になる。個別の周知・意向確認措置については、現行制度は努力義務であるが、これを義務化することで取得を促す。

法改正によって男性の育休取得がどれだけ進むのかわからないが、使い勝手がよくなっているのは確かだ。建設関連会社の人事部長は「従来の法律はあまり柔軟性がなかったが、今回の新制度は育休中の就労を認めており、結構柔軟な仕組みになっているようだ。本人に対する意向確認については上司が単に本人に投げかけるだけでは、その効果は今までと変わらないかもしれない。人事と上司、本人が三位一体となって取り組むような仕組みやルール化が必ず必要だ」と指摘する。

男性の育休取得率は女性の83%に対してわずか7%

ところで新設の「出生時育児休業制度」は産後休業中の男性の育休取得に限定した制度だ。じつは法案を審議する厚生労働省の審議会では、男女共通の権利を定めた育児休業法に男性に限定した特別の制度を設けるのはおかしいという意見もあった。確かに育児休業取得は女性に限らず、男性にも認められた権利だ。育児・介護休業法は「事業主は、労働者からの育児休業の申出があったときは、育児休業申出を拒むことができない」(6条)と規定している。それでも女性の83.0%が育休を取るのに対し、男性の取得率は7.48%(2019年度「雇用均等基本調査」)にすぎない。

あえて“男性優遇”の制度を設けたのは、そこまでしないといけないほど日本の男性の育休取得率が世界に遅れているからだ。国連児童基金(ユニセフ)の報告書(2019年6月)によると、OECDまたはEUに加盟する41カ国の中で取得可能な産休・育児休業期間に賃金全額(賃金と比べた給付金額の割合を加味)が支給される日数に換算した結果、日本の男性は30.4週相当で、男性の育児休業制度は第1位にランク。2位の韓国(17.2週)、3位のポルトガル(12.5週)を大きく引き離している。

報告書は日本を「父親に6ヶ月以上の(全額支給換算)有給育児休業期間を設けた制度を整備している唯一の国」と賛美する。しかし一方で「2017年に取得した父親は20人に1人」(5.14%)と、取得率の低さを指摘している。同じく低取得率と言及された韓国の17%(2018年)よりさらに低い。制度は充実しているのに男性の育休取得率が低いのは世界から見たら不思議な国だろう。

言うまでもなく男性育休が進まないのは性別役割分業意識など日本社会の風土や企業の文化・体質が深く関わっている。それを変えて行くには、若い世代の社員の意識以上に政策決定権限を持つ幹部社員や経営層の意識を抜本的に変えていく必要がある。とりわけ重要なのが、経営トップが前面に出て、陣頭指揮を執ることだ。

男性の育休取得率が低く、取得日数が短いと、妻が長期間育休を取らざるをえず、結果としてキャリアのハンディになり、その後の男女の格差にもつながる。女性活躍推進の観点からも男性の育休取得は緊急性が高い課題といえる。

女性管理職増加へ 企業経営層の今後の取り組みに期待

世界経済フォーラム(WEF)が3月末に発表した報告書の2021年版「ジェンダー・ギャップ指数」で日本は156カ国中120位になったことが大きく報道された。前年の121位から一つ順位が上がったとはいえ、主要7カ国(G7)で最下位、アジアでも韓国、中国よりもさらに下に位置することが世界にさらされたことになる。

管理職に占める女性比率を示す管理職ジェンダーでは139位と前年の131位より悪化。評価点は最も低い17.3点で経済カテゴリー全体の足を引っ張っている。女性管理職比率は14.8%(総務省「令和元年労働力調査」)だが、民間企業はもっと低い。日本経済新聞が調査した大手企業の「社長100人アンケート」によると8.8%にすぎない(『日本経済新聞』4月2日付朝刊)。

女性管理職が増えない背景には様々な事情があるだろう。WEFの報告書では男女のギャップを推進する要素として「男性と女性が無給の仕事(主に家事とボランティアの仕事)に費やした時間に関する統計は、女性がこれらの仕事に男性の少なくとも2倍の時間を費やしていることを示し続けている」と指摘している。つまり女性が家事・育児に費やす時間が多いことが男女間のギャップを生んでいるということだ。

前出の社長アンケートでも女性管理職が増えない理由として「性別による無意識の偏見」(50.7%)と並んで「女性に家事・育児が集中」していることを挙げた社長が44.3%もいた。ではどうやって女性管理職を増やすのか。社長アンケート企業の対策で最も多かったのは「性別偏見解消」(67.1%)、続いて「男性の家事・育児を奨励」(65%)だった。日本のトップ企業の経営者は企業風土改革と男性の育児休業取得の必要性を自覚しているのである。世界で恥をかかないためにも今回の法改正を契機に男性の育児休業取得対策に真剣に取り組む必要がある。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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