【働き方改革推進の一手】テレワーク導入の実務と課題

多様で柔軟な働き方の実現のため、時間や場所を有効に活用できる「テレワーク」の導入が広がっている。テレワーク導入にあたり、よく聞かれる懸念点の解消法や導入のポイントについて、社会保険労務士の本間照美氏に解説してもらった。

日本人材ニュース

本間 照美 社会保険労務士(汐留社会保険労務士法人)

24時間働きづめから、多様で柔軟な働き方へ

日本人の働き方は、高度経済成長を牽引してきた「24時間働く企業戦士」に代表される昭和の働き方から、安定志向の「さとり・ゆとり世代」に代表されるIT活用による効率的な働き方へと変化し、今、新しい時代のうねりに直面しています。今回、多様で柔軟な働き方を実現するためにご紹介するのが「テレワーク」です。

最近よく耳にするテレワークとは、「情報通信技術(ICT)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」のことをいいます。一言でテレワークといっても、企業に勤務しているか、していないかによって「雇用型」と「自営型」に分かれます。自営型は「在宅ワーク」といわれる業務委託などフリーランスでの働き方ですので、ここでは「雇用型」について説明します。

雇用型の中にも「在宅勤務」、「モバイルワーク」、「サテライトオフィス勤務」の3つの区分があります。「在宅勤務」は、自宅を就業場所とする勤務形態です。育児や介護、病気や障害などのためにオフィスに出勤することが難しい従業員の就労や就労継続を可能にしますので、人材確保に効果的です。

「モバイルワーク」は、移動中の交通機関やカフェなどを利用して仕事を行うものです。最近はコーヒーショップに入ると見かけることが多くなりました。オフィスに戻らずにメールチェックや資料を作成することができるため移動時間の有効活用ができ、長時間労働の削減や営業の効率化に効果的です。

「サテライトオフィス勤務」は、オフィス以外の施設(会社が認める場所)などを就業場所として利用するものです。またテレワークの区分とは異なりますが、地方の実家や施設を利用して就業する「ふるさとテレワーク」も総務省の助成金を活用して、導入されはじめています。

効果の高いテレワーク、導入企業はわずか13.8%

厚生労働省が実施したアンケート結果を見ると、テレワーク導入により最も効果があったことは人材確保・育成で、次いで業務プロセスの革新、事業運営コストの削減です。さらに将来的に期待される成果として、海外拠点の事業拡大、連携・コミュニケーションの強化、マーケ
ティング力の強化、新規事業の開発など事業運営面での期待が高まっていることがわかります。

一方、従業員にとっても通勤時間・移動時間の削減、時間管理による業務の効率化、育児・介護離職の防止などワークライフバランスが充実したという効果があります。しかし、実際
にテレワークを導入している企業の割合は、2017年の調査結果によるとわずか13.8%です。うち、モバイルワークが56.4%、在宅勤務が29.8%、サテライトオフィス勤務が12.1%となっています。また、大企業はテレワークの導入に積極的で導入率も高くなっています。

政府は2020年までにテレワーク導入率を34.5%までに高めるため、2020年東京オリンピック開会式に当たる7月24日を毎年テレワーク・デイと定めて、大規模な官民一体のプロジェクトを行っています。国はもちろん、東京都も2012年ロンドンオリンピック開催期間中の通勤・通学、移動時の交通混雑回避に効果があったため、来年のオリンピック開催に向けてテレワークの普及に力をいれています。

テレワーク導入を支援するために、国や東京都の助成金などもありますので、導入をされる前に助成金が活用できるか検討されてみてはいかがでしょうか。

●テレワーク実施によって得られた/得られつつある効果

日本人材ニュース
(出所)厚生労働省「平成26年度テレワークモデル実証事業」(企業アンケート)

まずは対応できる仕事からスモール・スタート

テレワークを導入するにあたり、テレワークに対応できる仕事がない、社員の労働時間の管理や評価が十分にできないのではないか、社員間のコミュニケーション不足が心配など、悩みの種はいろいろあるでしょう。導入にあたって、100%の状態から始める必要はありません。まずはスモール・スタートから始めてみましょう。

例えば、テレワークに対応できる仕事がないと思ったら、本当に全ての仕事が対応できないのか、今一度考えてみましょう。現在の業務の中からテレワークでできる業務と仕組みを考え、拡充していきます。手始めは、個々の業務の棚卸(必要な資料・情報、作業時間測定、使用システムの確認など)から業務の見える化、そして仕分けを行います。これはテレワーク導入に限らず、企業の生産性の向上にも有効です。

究極のテレワークではないかという事例を一つ紹介します。昨年11月に期間限定のAIロボット・カフェがオープンしました。これはオリィ研究所が中心となって障がい者の就労支援を目的とした試験的実施の事業でしたが、カフェの店員は全てロボットです。それらのロボットたちと全国各地の寝たきりや、難病などで外出することが困難な人たちが情報通信技術によりつながり、自宅の端末から分身ロボットを操作しました。

お客様が来店されると、早速、ロボットを介して、座席へ誘導、注文、配膳や直接会話を楽しむ「接客」業務を自宅から行いました。会社によると、この取り組み結果をもとに2020年度中には常設カフェをオープンする予定で、事業化が進められているということです。

このように技術は日々進化しています。最初から無理だと決めつけるのではなく、「まずやってみよう」「できることからやってみよう」で始めてみることが大切なのではないでしょうか。

●テレワーク導入のプロセス

日本人材ニュース

今やテレワークは企業戦略の一つ

社員の労働時間の管理や評価が十分にできないのではないか、また在宅勤務者とのコミュニケーション不足などの懸念については、既存のネット環境や携帯電話などを活用して、就業に関する上司への報告ルールや勤怠システムの導入、サーバーへのアクセス管理で対応することができます。

また、長時間労働や休日労働を抑制するためには時間外・休日のサーバーへのアクセスやメール連絡の禁止などの方法もあります。社内、社員間でのコミュニケーション不足は、ビジネスチャットやWEB会議などのツールの活用により、随時情報共有を図ることで解消できます。

テレワークは一部の社員への福利厚生ではないのかという不平等感について耳にすることもあります。それについては、初めは対象者が限定的であったとしても、希望者全員が対象となるよう社内のハード、ソフトのインフラ整備を行い、対象者・希望者の拡大を啓発していきます。

具体的には週1回や月1回のテレワーク・デイを設けたり、外出や出張時にモバイル勤務を導入するなど、全従業員に対応できる仕組みを目指すことで理解を深め、不平等感をなくしていきます。さらにオフィスで勤務している従業員に対し、テレワーク勤務者増加による業務負担の状況についてあらかじめ確認を行い、配慮や代替措置を検討します。

オリンピック、万博などの大規模イベントのほか、大規模災害の発生、感染症のパンデミックなど不測の場合においても事業の継続性を確保できるよう、日頃からさまざまな形で全社的にテレワークを実践しておくことが企業にとっても有益です。今や、テレワークは福利厚生ではなく、企業戦略の一つであるといえるでしょう。

テレワーク導入のポイントは、労務管理方法、情報通信システム・機器、テレワーカーの執務環境について大きく3つに分けられます。当然ですが、テレワーク勤務の従業員に対しても全ての労働関連法が適用されるため、導入にあたっては就業規則の整備が必要になります。テレワーク規程の作成が必要な場合もあります。また、労働時間の取り扱いについては基準を満たせば、フレックスタイム制度・事業場外みなし労働制度・裁量労働制度の適用も可能です。

テレワークは、新しい時代の働き方改革推進の一手

働き方改革の目指すところは、単なる労働時間の削減や有給休暇の取得率向上ではありません。2016年社会生活基本調査によると、日本の平均通勤(・通学)時間は1時間19分ですが、東京・大阪など大都市近郊では1時間30分を越えています。

テレワークを導入することで、この時間の全てあるいは一部でも育児・介護、家族との時間や資格取得、趣味などの自己研鑽の時間に変えることができれば、従業員一人一人のワークライフバランスはより向上し、企業の生産性向上につながります。

現在の出産退職者は約20万人、介護離職者は約10万人、就業を希望している障がい者は約38万人との調査結果がでています。多種多様な働き方を選択できることは、潜在的な労働力の発掘や地方の活性化にも効果を発揮します。

このようにテレワークは日本の超少子高齢社会=人口減少の縮小社会の中であっても活力のある元気な社会を実現可能にする、新しい時代の企業の働き方改革推進の一手となることでしょう。

●テレワーク導入のためのチェックリスト

日本人材ニュース
PAGE TOP