新卒・中途採用の売り手市場化で始まった人材採用の新手法

慢性的に人材が不足する時代が訪れつつある。リーマン・ショック後の買い手市場はなりを潜め、景気回復とともに企業の求人数が急増して企業の人材採用は一層困難になっている。売り手市場化で始まった採用手法の変化を取材した。

日本人材ニュース

新卒採用の手法として注目されるインターンシップ

新卒採用では、2016年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.73倍で前年の1.61倍より0.12ポイント上昇した(リクルートワークス調べ)。

応募者が集まりすぎる大手の人気企業はこれまで通りの採用方針で十分だろうが、知名度の低い企業や中小ベンチャー企業では昨年と同様の採用活動では人材が集まらない。採用計画数を充足させるためには、採用手法の見直しを含め一層の工夫が必要だ。

今年、新卒採用の手法として注目されているのがインターンシップだ。マイナビの調査によれば、2016年新卒採用から22.5%の企業が体験型インターンシップを新たに始めている。 参加した学生に会社の実態をより深く理解してもらえる、会社と学生双方のミスマッチをなくすことができるなどがその理由だ。

インターンシップの実施で重要なことは内容の充実度と実施体制だ。単なるワンデー・インターンシップでは、エントリーを得るだけの結果に終わってしまうだろう。 社員約90人、上場を目前に控えたインターネット関連のベンチャー企業では昨年からインターンシップに取り組み始めた。

2016年新卒採用は12人の入社を計画し、大手企業の内々定出しが集中することが予想される8月までに、25%の内定辞退者を想定して15人に内定を出す予定だ。 5月にはすでにMARCHクラスの学生10人に内定を出し内諾を得た。このうちの6人は昨年のインターンシップへの参加者だった。この規模の企業でインターンシップ参加者6人に内定を出すことができたのは大成功といえる。

同社では、今年から新卒求人サイトへの掲載を取りやめた。採用担当者は「少しでも認知されている企業であれば会社情報を検索してエントリーしてもらえますが、ほぼ無名な当社ではそもそも検索されることもなく、あまり効果がありませんでした」と話す。

一方で、まずは会社をよく知ってもらうため始めたのがインターンシップだった。インターンの募集はベンチャーへの人材支援を専門にしている人材会社に依頼し、ベンチャーを志向する学生20人強から応募があったという。

インターンシップの期間は5日間で、経営理念や具体的な事業の説明のほか事業に関連する社長主催のビジネスコンテストなどを実施している。インターンシップ期間は4人程度のグループに若手社員1人が付き、たえずコミュニケーションを図ったという。

「若手社員は学生との年齢や考え方も近く相談しやすい存在ですからインターンシップ期間中に信頼関係ができ、連絡先を交換したりして実際に就職活動に入るまで就職の相談にのるなど関係性を深めていました」(採用担当者)。

この若手社員はインターンシップ期間終了後には、本来の業務以外に2016年新卒採用チームのリクルーターとして採用活動に携わり、インターンシップ参加者を中心に学生をスカウトして内定につなげた。内定出し後も入社まで引き続きサポートする。

インターンシップをきっかけに若手社員が学生と信頼関係を築けたことが内定につながっている。「やる気のある学生の就職の決め手となるのは給与や福利厚生ではなく、経営理念への共感やこの人と一緒に働きたいという思いです」と採用担当者は指摘する。

採用手法の多様化を求めて利用が拡大しているのが、新卒における人材紹介だ。人材支援サービス各社によれば、特に今年は大手から中小企業まで幅広く利用が拡大しているという。

以前は中小・ベンチャー企業を中心に利用されてきたが、最近では応募者が集まりすぎる企業で母集団を絞り込むための採用手法としても注目されていた。今年は採用スケジュールの変更で内定辞退者の増加が見込まれるため、例年以上に内定者を出さなければならない企業が利用を始めている。

また、エントリーと会社説明会の開催が3月から集中したため、採用担当者が不足している企業でもエントリー・会社説明会・選考と一連の採用活動をすべて代行する新卒紹介を活用するケースが増えた。 こうした需要の拡大を受けて、ディスコ、マイナビ、アイデムなどの人材会社が新卒紹介事業を強化している。

中途採用でダイレクト・リクルーティング、ミドル層のサーチへの関心高まる

中途採用でも人材が不足しているという声は多くの企業から聞こえてくる。インテリジェンスが運営する転職支援サービスにおける5月の求人数は、前年比23.9%増と6カ月連続で最高値を記録した。 特に「技術系(IT/通信)」(3.10倍)、「専門職」(2.17倍)、「技術系(電気/機械)」(2.12倍)などは求人倍率が高く採用が困難な状況だ。これまで通り求人サイトに広告を掲載しただけでは、なかなか候補者が集まらない。

こうした中、ダイレクト・リクルーティングに対する採用担当者の関心が高まっている。ダイレクト・リクルーティングとは、企業が人材会社などを介さずに直接人材を集め、採用することをいう。

具体的には、①採用担当者が候補者を集める②採用担当者が直接候補者にコンタクトして面談に導く③面談して採用する、といった段階を踏む。 ③の面談から採用までは、これまで通り企業が行っていたところだ。違うのは人材会社などが行っていた①の「候補者集め」と②の「候補者とのコンタクト」を自社で取り組むところだ。

候補者のリストアップが終わったら、次に候補者とのコンタクトだ。メールや電話で面談のための連絡を取るが、候補者は転職希望者でないときもあるため慎重に接触して面談を説得する。

候補者集めでは、従来からの求人広告の掲載以外に、LinkedInなどSNSの活用、社員による候補者紹介制度の確立、採用ホームページの刷新、候補者データベースの構築などがある。これらを活用して人材が必要になったときには、この中から最適な候補者を抽出する。

候補者のリストアップが終わったら、次に候補者とのコンタクトだ。メールや電話で面談のための連絡を取るが、候補者は転職希望者でないときもあるため慎重に接触して面談を説得する。

求人サイトを利用する場合は、登録者にスカウトメールを出す機能があるのでふさわしい人材がいたならばこれを活用する。この場合は相手が転職希望者であるためコンタクトは容易だ。

しかし、他の会社や人材会社も同じデータベースを閲覧して利用できるため他社より早く連絡を取ったり、候補者から返信があるような関心を持たれるスカウトメールを出して面談に導かなければならない。

このようにさまざまな採用テクニックや社内の仕組みづくりが必要なため、これまでのリクルーティング体制では不十分なことが多い。本格的にダイレクト・リクルーティングに取り組む企業では、人材会社出身者を採用担当者として新たに採用するなど体制を拡充している。

体制が不充分な場合には人材会社を併用している場合がほとんどで、コストを低減したいという動機で取り組むと導入に失敗することもある。 人材紹介会社の活用方法も変える必要がある。人材紹介会社は成功報酬だからといって数十社に求人を出していては時間が無駄になるばかりで良い人材は採用できない。

経験者採用は依然として厳選採用であるため、人材コンサルタントには求人内容や背景、社風やキャリアパスなどを時間をかけて正しく伝える必要がある。付き合いの浅い人材紹介会社にメールで求人案件を一斉送信しても意図はまったく伝わらない。

また、大量採用の場合は、人材紹介会社を一度に集めて説明会を開催するなど工夫が必要だ。ただし、採用数の少ない求人を多くの人材紹介会社に依頼すると求人が放置されることもある。

成功報酬型の人材紹介会社は紹介に成功しなければ活動コストを吸収できないため紹介可能性が低い求人はサポートしない。人材紹介会社の仕組みを理解して、包括契約や活動経費の一部負担などをすれば、優先的に優秀な人材を探し出してもらえるだろう。

人材採用が経営戦略に直結するような企業では、実力のあるミドル層の採用に迫られている。「人材さえいれば、まだまだ事業を拡大することができる」という経営者も多い。そのような企業では新しい採用手法として、30代や40代のミドルマネジメント層のヘッドハンティングを利用するようになっている。

一般的にヘッドハンティングといわれるリテーナー型のエグゼクティブ・サーチには、広く業界の人材情報を集めて候補者を絞り込むサーチやあらかじめ採用したい他社人材にアプローチする指名サーチなどがある。これがミドルマネジメントや技術者の獲得に活用が広がっている。

ただし、リテーナーとは着手金を支払う方式のためサーチに失敗した場合は着手金は戻らない。そのため依頼をためらう採用責任者も多い。利用にあたってはコンサルティング方針やサーチの手法が明確な信頼できるサーチ会社を選ばなければならない。

ミドル層のヘッドハンティングを手がけるプロフェッショナルバンクの兒玉彰社長は、企業が人材紹介会社に求人を依頼するポイントについて次のように話す。

「まず、会社として“求められる人物像”を固めることは必須です。また、優秀な人材で転職を決意する人は現状の仕事に物足りなさや限界を感じていることが多いので、なぜ採用したいのか理由をきちんと説明できるようにしなければなりません。さらにミドル層の採用では、今のポテンシャルから5年後はこんな活躍をしているというように逆算して考え、入社後は採用した人材を育てることが非常に重要になってきます」

優秀な人材を採用できる採用力のある会社とは、人材の育成力のある会社でもあるのだ。

アセスメントで人物像を明確化して、採用と育成に活用する取り組み始まる

中途採用に失敗した、いつまでたっても採用が決まらないという企業は、ジョブ・ディスクリプションがあいまい、あるいは存在しないような採用基準を掲げている場合が多い。

あらためて職務内容を詰めていく過程で、社内に適任者が存在することに気づくこともある。そもそも外部から人材を採用するのか、社内の人材を育成して登用するのか、このような悩みから社内の人材アセスメントを実施する企業が増えている。

最近の例では、日立製作所がグループ・グローバルの人材データベースの構築を進め25万人分の従業員一人一人の基本的データを一元化し、世界共通のジョブグレードでマネジャー以上の5万ポストをマッピングした。

良品計画では、経営人材を「パフォーマンス×潜在能力」の2軸でプロットし、さらにツールを用いてパフォーマンスを発揮するための潜在的資質を見て主張力や積極性、影響欲などの8項目のリーダーシップを可視化し、昇進・昇格や海外派遣、新事業への異動の際などに確認している。

このようなアセスメントによって企業として社内で“求められる人物像”を明確化し、採用や育成に活用しようとする取り組みが始まっている。

専門家に聞く「採用力を高めるための企業の取り組み」

会社として“求める人物像”を固めることが必須

プロフェッショナルバンク

プロフェッショナルバンク
兒玉 彰 代表取締役社長

あらゆる業種・職種で人材需要は高まっている。年齢や職種の幅を広げないと採用が難しい状況で、対象年齢を上げてよい人材が獲得できている企業もある。
採用部門強化のためにリクルーターが欲しいという経営者も多い。現職で活躍中の転職願望がないような人材にアプローチしていくヘッドハンティングの依頼が増えているが、まず、会社として“求める人物像”を固めることが必須だ。
また、優秀な人材で転職を決意する人は現状の仕事に物足りなさや限界を感じていることが多いので、なぜ採用したいのか理由をきちんと説明できるようにしなければならない。さらにミドル層の採用では5年後はこんな活躍をしているというように逆算して考え、入社後は採用した人材を育てることが非常に重要だ。

持続的成長をもくろむ企業で、会計人材が活躍する例が増加

レックスアドバイザーズ

レックスアドバイザーズ
岡村 康男 代表取締役

経理財務部門の採用要件は、①補充目的のスタッフ職、②体制構築・育成を期待されるマネジメント職、③高度な業務に対応する専門職等があげられる。
会計人材はスキルアップできる環境を求める傾向があり、業績が低迷することで定着率が低下する懸念がある。状況により業務水準を維持できるアウトソーサーの活用が合理的だ。効率化には会計人材をコストではなく資源として生かす工夫も必要だ。経験に富みリーダーシップのある人財は経営者の参謀に、ITに強い人財は業務改善に貢献する。
そしてM&Aや事業再生で持続的成長をもくろむ企業で、会計士や税理士のように業態業種を問わず対応でき、会計原則や税制を習熟した人財が活躍する例が増えた。経理財務が後処理のみならず経営戦略を担っている証だ。

経営者がぶれることなく理念を浸透させることができるか

インテリジェンス

インテリジェンス
藤田 芳彦 クリーデンス事業部 事業責任者

私たちが支援しているアパレル業界の企業からは、中途採用だけでなく入社後のトレーニングや人事制度設計などの相談が増えている。採用が難しくなる中、他社の給与水準や雇用形態の工夫などの情報を収集し、人材の定着と活躍につなげるための施策に活かそうとしている。
どのような業界でも人材を確保、育成、活用する上で大切なのは“理念経営”だろう。経営者がぶれることなく理念を浸透させることができるか、その理念が人事制度や育成に反映されているかによって社員の働くモチベーションや定着率は大きく変わるからだ。
同時に、今大変厳しいアパレル業界の経営環境において今後の構造改革や業界再編などに対応していくには、異業界で経験を積んだ人材も積極的に受け入れて経営基盤を強化する必要があるのではないか。

業務の切り分け、シフトを見直すなどの柔軟な雇用管理を導入

フルキャストホールディングス

フルキャストホールディングス
坂巻 一樹 代表取締役社長CEO

アルバイトを十分に確保できていない企業が圧倒的に多い。求職者は以前に比べて賃金に加えてライフスタイルに合った仕事を探す傾向が強まっているため、短時間でも勤務可能な求人の方が応募者が集まりやすくなっている。
企業が人手不足で業務が回らないという状況を防ぐためには、学生や主婦、複数の仕事で就業するような、働ける時間に制約のある人たちのニーズにできるだけ合わせて、一つの業務を切り分けたりシフトを見直すなどの柔軟な雇用管理を導入することが必要になる。
短期の仕事の場合、働く人たちに強い帰属意識を持たせることは難しいが、仕事へのモチベーションが業務品質を左右するため、一人一人と丁寧なコミュニケーションを図り、働きやすい環境を整えることが職場のマネジメントでは重要になる。

チャネルを増やし、多彩な人材を採用する取り組みが増加

ヒューマネージ

ヒューマネージ
齋藤 亮三 代表取締役社長

マスに働きかけ一括で採用する方法では質・量を満たせないということで、特に「採用強者」ではない企業において、チャネルを増やし、それぞれの入口から多彩な人材を採用する取り組みが増えている。
奇をてらうのではなく、「自社らしさとは何か」を考え抜いた多様な入口が設けられており、多面的な魅力をアピールするものとなっている。時期の多様化(分散化、通年化など)も合わせて、この傾向は続くと考えている。
応募者の興味・関心を強め、「貴社で働きたい」と志望度を高めて入社までつなげる“リテンション採用”の考え方はますます重要になる。人材獲得競争が激しい状況下では、①応募者一人一人をなるべく早く・正確に見極め、②一人一人に応じたきめ細かい働きかけを続けることが欠かせない。

人事主導で「自社らしさ」にこだわったインターンシップを設計

シーズアンドグロース

シーズアンドグロース
河本 英之 代表取締役社長

新卒採用の手法で注目されているのはインターンシップだ。すでに16年卒の選考が進んでいる企業からはインターンシップ参加学生からの内定者が多いという連絡が入っている。また、16年卒の結果をしっかり検証して17年卒向けの内容に活かしたいという相談が増えている。
インターンシップで成果を上げている企業に共通するのは、人事主導で「自社らしさ」にこだわった内容を設計している点だ。採用ターゲットの学生を集めて実際の事業や仕事に沿ったリアルケースを使い、自社への理解を深めた学生が選考に応募してくるようになっている。
内定後のフォローが課題の企業も多いが、内定者を次年度の採用に関わらせることが有効だ。内定期間から育成の視点を持って取り組ませることが入社後の活躍につながる。

PUSH型の採用手法がUターン志向の学生確保の糸口

マイベース

マイベース
蔭山 尊 代表取締役社長

例年、地方出身の学生が地元就職を強く意識するのは、就活開始直後の年末年始で帰省した際、親と話をして、気持ちが芽生えるというケースが多かった。
しかし、採用時期の変更によりきっかけがなくなりつつある。8月に大手の採用が活発になると、就活生は、内定獲得のために帰省意欲が下がり、地方企業の新卒採用はかなりの苦戦を強いられると危惧する。
都心に拠点がない地方企業の場合、同郷が集まる学生コミュニティや採用支援企業を通じ一定数の学生を集め、都内で集中的に説明会から内々定までの採用選考を行うなどして、これまでのPULL型の採用から、企業の人事や役員自らが出向いて、学生目線に立ったPUSH型に手法を変えることが、「地元に戻りたい」と強く希望するUターン志向の学生確保の糸口となると考える。

最新テクノロジーを組み合わせた採用プロモーションに注目

LOCUS

LOCUS
瀧 良太 代表取締役

大手求人メディアだけに頼らない採用が注目されている。景気上昇により、多くの企業が採用に積極的であり、雇用形態を問わず加熱している。長年、求人メディアへの参画を主体とする採用活動が定着してきたが、「採用できない」「コストが高い」といった理由から、“脱・求人メディア”の声が広がっている。
採用Webサイトおよび動画やパンフレットなどの採用クリエイティブを通じた魅力付けの強化はもとより、リスティングやFacebook、YouTubeなどのWeb広告、さらにジオターゲティングなど最新テクノロジーを組み合わせたリクルーティングプロモーションに注目が集まっている。
本当に採りたい人材の母集団形成として、求人メディアだけに頼らない独自のマーケティング戦略は採用全体の効率化につながると考える。

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