「人材を獲得できなければ事業が進まない」という採用担当者へのプレッシャーが強まっている。成長を続けるグローバル企業ネットアップの日本オフィスで採用を統括する田辺健一氏に、採用の状況や取り組みを聞いた。
ネットアップ
田辺 健一 人事本部 HRスペシャリスト&リクルーター
事業の特徴や強化している分野を教えてください。
当社は1992年に米カリフォルニア州のサニーベールで創業し、データを保存・管理するためのストレージを世界中で販売しています。また、リモートへのデータのバックアップやSnapshotなど、データ保護といった観点でもお客様のビジネスを支援しています。
ストレージ専業ベンダーということもあり、ストレージ、データマネジメントに対して集中した投資が行え、常に最先端の製品を提供出来ることが強みの一つです。
日本オフィスは1998年に設立され、当社の製品を扱う販売パートナーの支援を行っています。社員数は174人(4月時点)です。最近の業績(2013会計年度)は前年度比24%の伸びで、12四半期連続で二けた成長を達成しています。
日本のストレージ市場はクラウドなどの技術的な要因に加え、東日本大震災後のデータ管理のバックアップに対する意識の高まりに伴い、今後も成長が見込まれています。
当社は自らお客様を開拓したり、ソリューション型のよりハイタッチな営業活動を強化することによって、事業のさらなる拡大を目指しています。昨年は東京、大阪、名古屋に続く拠点として福岡に進出しました。
採用の状況や求めている人材を教えてください。
新卒採用はなく、中途採用のみを行っています。採用数は事業部門が決めますが、昨年の採用実績は34人で今年も同水準の採用を予定しています。職種は営業20人、SE10人、バックオフィス・サポート数人という割合です。
ポジションによって必要なスキルと経験は異なりますが、営業職では、先ほどお話したようにハイタッチな営業を目指しているため、企業のキーマンに対して効果的なアプローチができる能力や経験を持つ人材を求めています。
単に製品を売るのではなく、製品を活用してお客様の様々な課題解決のための多様な提案を行っていくために、ストレージ以外の周辺分野出身の人材を採用するケースも増えています。今年については、入社後の育成を前提とした若手の採用やダイバーシティのための女性の採用を増やす方針です。
若手の採用を増やす理由は、即戦力となる中堅以上の採用が難しくなっているということでしょうか。
採用が難しくなっているのは間違いありません。ストレージは狭い分野ですので採用の対象になる高度な専門性を持つ人材は限られ、市場も成長しているため人材が不足しています。ソリューション営業ができる人は特に人気で、同じIT業界でも他の分野へ転職してしまうこともあります。
また、社員の年齢層が上昇傾向にあるため、若手を今のうちから確保することも理由の一つで、5月には若手を育成していくことも踏まえた組織変更を行いました。スキルや経験のある人材は報酬も高くなりますので、バランス良く若手を採用していく必要があると考えています。
人材の募集はどのように行っていますか。
採用数の6割が社員紹介による応募で、特にSEはほとんどが社員紹介で決まっています。残り4割は人材紹介会社を利用した募集です。
社員紹介の割合が高いのは、設立当初からネットアップの文化にマッチした実力のある人材を自ら探して仲間にしていかないと会社が成長しないという意識を社員が強く持っているからです。
社外で様々な人と会う機会に、「この人がネットアップに入ったらどうなるかな」と考えてくれて、求人の状況を人事に聞いてくる社員も多くいます。社員紹介が当たり前の文化で社員全員がリクルーターになってくれているので、人事は人材紹介会社や面接の対応などに時間を割くことができ、大変助かっています。
社員が採用に協力的な文化を維持していくために気をつけていることはありますか。
機会があるごとに採用の重要性を社員に話すようにしています。ビジネスの状況やどのような人材を求めているのかを社員に知ってもらい、そういう人がいたら会わせてほしいと。こうした日頃のコミュニケーションを通じて、当社に様々なチャンスがあることを伝えていくことが人事の役割だと思います。
社員数がまだ170人程度で人事が動きやすいという面もありますが、急に500人になるわけではありませんので、毎年入社する社員には特に丁寧に伝え、良い文化が引き継がれていくように努めています。
採用の責任者である事業部門のマネジャーたちも採用コストに対する意識が高いので、社員紹介をメンバーに働きかけてくれています。社員紹介による応募でも採用に至らないことがもちろんあります。
優秀な人材でも、事業計画や求めているスキルと合わないことがあるからです。ただし、社員紹介の場合はほぼ必ずマネジャーが候補者と面接を行い、紹介してくれた社員に対して選考結果の理由をフィードバックしています。こうしたプロセスがないと社員が納得せず、社員紹介は機能しなくなるでしょう。
人材紹介会社はどのように利用していますか。
人材紹介会社の特徴を正しく理解することによって採用のスピードアップや効率化を図ることができます。例えば、大手人材紹介会社のコンサルタントにはキーワードを3つぐらい渡してできるだけ多くの候補者を出してもらうようにしています。その分、私とマネジャーで多くのレジュメをスクリーニングしなければなりません。
一方、専門分野の人材紹介会社には、採用条件にピンポイントで合致する人材の紹介を期待しています。
出身企業を指定することもありますし、候補者を探し出して当社の魅力を伝えてもらうには、コンサルタントに当社のことを深く知ってもらうことが必要ですので、直接コミュニケーションを重視し、ビジネスパートナーとして信頼関係を築けるようにしています。
採用まで1年以上かかる場合もありますので、我慢強いコンサルタントでないとお付き合いが難しいかもしれませんね。
事業部門のマネジャーとはどのような連携を図っていますか。
採用に慣れていないマネジャーもいますので、募集要項の作り方や面接での質問内容をアドバイスしたり、人事が様々なサポートを行います。採用の結果が事業計画やマネジャーの業績に直結しますので、候補者一人一人に合わせて、入社後にどうしたら成功できるのかを常にイメージしながら選考を進めていくことを大切にしています。
社員紹介による応募以外では候補者を絞って面接に力を使っているので、書類選考のハードルは高くなります。内定までのすべてのプロセスでマネジャーとがっちり組んで戦略を考え、候補者にとって何が入社を決めるポイントかを探りながら当社の魅力を伝えたり、キーマンになる社員に会えるようにします。
面接は5人が平均ですが、多いときは10人になることもあります。面接スタートから内定まで3週間程度をめどにしていますが、一気に進めるケースもあり、様々な選考パターンを想定し、候補者に応じてどの進め方が適切なのかを見極めて使い分けます。
今後の課題や採用担当者の役割について教えてください。
ダイバーシティの促進や障がい者採用は課題です。グローバルでは女性管理職が多くいるのですが、日本にはいません。現在は女性の営業職が2人ですので、最低3割にすることが将来的な目標です。
社員が成功していくためにどのようなサポートが必要か、今後、社員が増えていく中で様々な課題が出てくると思います。独自の社員意識調査は行っていないのですが、Great Place to Work社による「働きがいのある会社」の調査をグローバル統一で実施しており、社員の働く意識の変化やミスマッチのない採用ができているかを確認しています。
経営陣からは採用のスピードを上げるように言われています。ビジネスの準備から開始までが非常に短く、2カ月後には採用を完了してほしいという感覚で指示がでます。それに応えられるように、社内外にアンテナを張り、準備をして結果が出せるようにしなければなりません。採用に限らず、ビジネスのスピードに対する要求は強まっています。
採用はハイスキルな人材を獲ることができれば良いというわけではなく、ビジネスのタイミングや限られたコストとのバランスなどを的確に見極めることが重要です。
採用担当者が企業成長に対して貢献するためには、採用業務の専門性を高めるとともにビジネス全体が深く理解できているパートナーとして認められることが欠かせないと思います。
ネットアップ株式会社
代表者:代表取締役社長 岩上純一
設立:1998年5月1日
資本金:1000万円
従業員数:174人(2013年4月現在)
所在地:東京都港区虎ノ門4-1-8 虎ノ門4丁目MTビル
事業内容:ストレージ機器・ソフトウェアの販売支援、アフターサービス・保守支援、その他関連事業
http://www.netapp.com/