世界的な人材獲得競争によって人材採用の難易度が高まっている。企業の中途採用の手法や採用担当者の役割はどのように変化しているのだろうか。日本ヒューレット・パッカードの山岸雅己リクルーティングコンサルタントに、採用の状況や取り組みを聞いた。
日本ヒューレット・パッカード
山岸 雅己 リクルーティングコンサルタント
ビジネスの状況と中途採用で求めている人材を教えてください。
ヒューレット・パッカード(HP)は世界最大級のIT企業として、ハードウエア、ソフトウエア、ITサービス、サポート、さらには現在ニーズが高まっているクラウドやセキュリティなど、IT分野においてフルポートフォリオでお客様にサービスを提供しています。
2011年に就任したCEOメグ・ホイットマンも、このようなフルポートフォリオでサービスをお客様に提供できることがHPの強みであると言っています。グローバルなデリバリーを可能とする基盤やコストメリットを活かして、お客様にとって真のパートナーとして存在感を高めることが今後ますます重要となります。
日本は他地域や国に比べて企業向けビジネスの売上比率が高く、サーバー、ストレージ、ネットワーク等のハードウエアを販売するだけではなく、その上に高度なソリューションやサポートを組み込むことを求めるお客様が多いという特徴があります。
中途採用の状況ですが、ここ数年多少の前後はありますが、毎年数百人の採用を行っています。中でも、セールス、エンジニアの2職種で全体の7 ~8割を占めています。インフラ、アプリケーションなどのHPが強みを持っている分野のみならず、最近ではクラウド、ビッグデータやセキュリティなどの新しい分野での求人も増えています。
同時に、社内公募で社員を内部からも抜擢しますので、世界中のHP社員がそれぞれのポジションに応募して自分のキャリアを広げているのも採用の特徴の一つでしょう。
日本HPは日本市場向けにビジネスを行っているため、お客様の多くは日本人です。ただ、特にここ数年で外国人と仕事をする機会やレポート先が海外であることが増えており、ビジネスレベルの英語力はもちろんのこと、相手の文化を理解した上で仕事を進めなければいけないという意識が社内で急速に高まっています。
海外留学経験や英語の実務経験を求めるポジションが多くなり、求人票も英語のJob Descriptionのみで行うケースも珍しくありません。
人材の募集はどのように行っていますか。
HPには一部の例外を除いて、人材を採用する場合には、まずは世界中のHP社員から社内公募を募る必要があり、社外に出ている求人は全て社内に公開しなければならないグローバル統一のルールがあります。
また、「自分のキャリアは自分でつくる」という人材育成の方針に基づき、主体的にキャリアを開発する機会が設けられています。昨年の当社の応募経路別の採用実績を見ても、人材紹介会社や転職サイトに比べて社内公募が高い割合を占めています。
日本の採用は、他国に比べてコストが高いという課題があり、費用対効果を高める取り組みを進めています。求人広告は大手転職サイトも利用していますが、通常広告のみならず、人材紹介会社との契約のように採用時のフィーが発生する成功報酬型も取り入れています。
人材紹介会社は障がい者専門の会社を含めて約数十社と契約しています。人材紹介会社を利用する求人は、原則マネジャー以上に限定しているため、ここ数年で契約社数をかなり絞っています。
最近の動きとしては、ダイレクト・リクルーティングの強化を図っていることが挙げられます。ソーシャルメディアや様々なネットワークを通じて、人事が直接候補者とコンタクトを取り、より優秀な候補者の採用へ結び付けたいからです。
また、応募当時はスキル不足で見送りとなった方も、その後経験を積んでいれば候補者になり得ますので、過去の応募者データベースを確認し、可能性のある人には再度コンタクトを取り、新たなポジションを紹介することもあります。
人材紹介会社の契約社数を絞り込んだ理由は?
当社のグローバルの方針として多くの人材紹介会社と広く浅く付き合うのではなく、限定した会社と太いパイプを築くことで採用の効率や質を高めていくという考え方が根底にあります。
また、求人開始から候補者の入社同意書を得るまでの期間がグローバル基準で定められており、スピーディーな採用を行う必要があります。人材紹介会社の得意分野に応じて紹介してほしいポジションを明確にすることによって、2~3人の紹介から1人を決められるような効率的な採用を目指しています。
たまに、候補者が当社への応募を希望しているからという理由だけで人材紹介会社からレジュメを送られることがありますが、それでは採用には至らず、互いに無駄な時間を費やすだけですのでコンサルタントには候補者の質にこだわってほしいと思います。
年間、一人も決まらない人材紹介会社がある一方で、当社の狙いを正しく理解して売上を2倍以上に伸ばしている会社もあります。
選考プロセスにおける採用担当者の役割は?
面接は2回程度が標準ですが、海外の面接者がかかわる場合は5回程度になることもあります。中途採用の面接はスキルと経験を中心とする見極めになりますので、現場のマネジャーが担当し、採用担当者が同席することはありません。
採用担当者はレジュメから過去の経歴や実績を把握し、HPで成果を上げることができるか、本人のやりたいことはHPで実現できるのか、会社の風土に合うかといった点を確認します。そのため、必要に応じて面接前に電話インタビューを行うこともあります。
採用は現場のマネジャーが最終的に決めるわけですが、採用担当者にはマネジャーの人材ニーズを吸い上げるとともに、当社の人材採用はどうあるべきかをマネジャーに伝えていく役割があり、積極的な情報提供を心掛けています。最近はストレス耐性の見極めも重要ですので、現場のマネジャーのための面接トレーニングなども行っています。
当社では性別、年齢、学歴などに関係なく、そのポジションで最も会社に貢献できる人材を採用するという考え方が徹底されています。幸いにも中途採用者の1年以内の早期退職はほとんどなく、採用人数を考えると非常に少ない数字になっています。採用した人材が定着してくれないと、結果的に現場の負担も増えますので注意している点です。
採用業務の変化を感じていますか。
現場からは、「優秀な人材を採用できないと事業が進まない」「新規の人材採用を見越してお客様にプロジェクトを提案している」「来月あと10人採用したい」と言われることも増え、より優秀な候補者を、よりスピーディーに採用するようプレッシャーは年々強まっています。
ダイレクトリクルーティングが浸透したことにより候補者との距離がぐっと縮まり、以前は転職サイトや人材紹介会社に頼らなければできなかったポジションの採用も実現できるようになりました。既存のやり方にとどまることなく、優秀な候補者を探し続ける必要を切に感じています。
日本ヒューレット・パッカード株式会社
代表者:小出伸一代表取締役社長執行役員
設立:1999年7月
資本金:100億円
従業員数:5100人(2012年4月現在)
所在地:東京都江東区大島2-2-1
事業内容:コンピューター、コンピューター周辺機器、ソフトウエア製品の開発・製造・輸入・販売・リース、ITサービス
セールス・サポート拠点数:全国24カ所
売上高:3649億円(2011年10月期)
http://www.hp.com/jp