2023年度の転職市場動向は、業界によっては活発である一方、本当に必要な人材のみに採用を絞る動きも見られるということが、リクルート(東京・千代田、北村吉弘社長)がレポートした「2023年度 転職市場動向」で指摘された。(文:日本人材ニュース編集部)
企業の採用動向についてリクルートでは「“快晴”と“曇り”が入り交じっている」と指摘する。
自動車業界(ここでの対象は完成車メーカー・自動車部品サプライヤー)の一部企業では数百~1000人に近い規模の採用計画、建設業界で過去最高の求人数など、業界によっては採用活動のアクセルは全開。
一方、米国のリセッションへの懸念などから、本当に必要な人材のみに採用を絞る動きも見られる。
いずれの場合も「DX」推進を担う人材採用の手は緩めていない。IT人材の獲得競争は激化しており、とはいえ未経験・微経験者よりも、経験者採用をより強化する傾向も見てとれる。
主要17業界の動向について、リクルートがレポートする。
●IT・通信
求人抑制の動きもあるが、即戦力のニーズは引き続き高い。「生成系AI」の求人も発生。働き方の柔軟性は前提条件。その上で「賃金」「労働条件」を重視して企業を選ぶ傾向
●コンサルティング
「生成系AI」、「SaaS」、「クロスインダストリー」などのキーワードで採用ニーズが上昇。業界内では中堅・ベンチャーへの転職が増加。異業界出身者は「キャリア形成」を求める
●Web・インターネット
経験者・即戦力採用に意欲的。IT・ネット専門職は他業界を意識した採用力の磨き込みが必要。求職者はネット業界内だけでなく、他業界の事業会社も視野に転職を検討する傾向
●自動車
「電動化」、「コネクテッド領域の進化」を背景に、求人数の増加幅が拡大。自身の手がけた製品が世界へ広がることに魅力を感じ、多様な異業界からの転職も
●総合電機・半導体・電子部品
半導体業界は再編や工場新設に伴い採用が活発。総合電機はIT事業で人材を強化。求職者には、幅広い業界から半導体業界へ転職するチャンスが広がる
●建設・不動産
建設・不動産ともに、事業の多角化にあたり、異業界人材の迎え入れも。求職者は「柔軟な働き方」を求める傾向。企業は「ABW」への取り組みが課題
●銀行・証券
銀行は活況、証券は変わらず堅調に推移。銀行の新規事業などでは異業界出身者も歓迎。制度・環境変革が進み、離職防止につながるケースも。銀行では幅広い業界から流入
●環境・エネルギー(グリーン)/サステナビリティ
新たな市場の創出に向け、これまでにない求人が続々。求める人材要件の言語化が課題。求職者は社会への貢献実感を求め、求人企業の「経営の本気度」に注目
●スタートアップ・ベンチャー
宇宙ビジネス・ロボティクス・生成系AI・メタバースなど成長領域の求人が続々。
求職者は、成長やスピードを求めて大手からスタートアップへ。自由な働き方にも期待
●生保・損保
生保ではDX関連・代理店営業、損保では「総合職」の求人が増加。いずれも異業界出身者の受け入れに積極的。同業界内で職種チェンジのチャンスも
●消費財・総合商社
消費財メーカーで営業・マーケ・購買の求人が増加。商社では通年採用を導入する動きも。求職者側は、これまでは採用要件に満たなかった人にもチャンスが広がる
●外食
業績回復で、店舗運営人材の採用が活発化。「商品開発」「海外店舗開発」の求人も。求職者側は、勤務地の選択や短時間勤務など働き方の制度が充実している企業を好む傾向
●小売
「海外出店の強化」、「OMO」、「PB展開」などを背景に、企画・推進人材のニーズが高い。コンサル・総合商社・メーカー等異業界からの転職者も。「リモートワーク」も選択基準
●医療・医薬・バイオ
「創薬」から「育薬」への戦略転換でMSLのニーズが増加。ヘルステック企業も活発。求職者は将来のキャリアを考え、異業界を目指す。CROはリモートワークで働きやすく
●化学
全体の求人はやや減少。「新規事業」「サステナビリティ」「環境」などの採用は継続。求職者は、自身の専門分野に注力する企業、ライフスタイルに合う企業を求める
●人材
人材紹介・人材派遣ともに新規事業を拡大。「営業」「無期雇用派遣スタッフ」を採用。求職者は「成長」を求める一方で、「ワークライフバランス」も重視
●教育
教室長の採用は堅調。マーケティング・Web・映像関連の人材ニーズも増加傾向。異業界出身者は「教育理念」で企業を選択。ただし「働き方」への懸念は根強い