新年度の始まりから2カ月目を迎え、新入社員の様子はいかがでしょうか?研修係の先輩社員に伺うと「毎日頑張っているし、ようやく職場になじんできたようだ」と安堵の声が聞かれることが多いのですが、かたや新入社員はといえばメンタル不調が増加する時期でもあります。新入社員の「心」に寄り添う取り組みを、講じていきましょう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)
「入社3カ月目」のメンタルケアが重要な理由
「入社3カ月の壁」という言葉をご存知でしょうか?
入社して3カ月ほどが経過する時点で、労働者が心のバランスを崩したり、退職したいと考えるようになったりする現象のことを指します。
4月入社であれば、ちょうど6月に「入社3カ月の壁」を迎えることになりますから、6月以降のメンタルケアがとても大切なのです。新入社員のメンタルヘルス対策を検討するにあたり、まずは入社3カ月目の新入社員の心の中を理解しておきましょう。
心身共に疲れが出やすい時期
入社以来、気を張りつめていた新入社員も、3カ月目に入り少し気持ちが緩み始めたタイミングで急に疲れが出る傾向にあります。
ひと口に「疲労」といっても、身体的なものだけでなく、精神的な要素を多く含みます。精神面のストレスの場合、単に身体を休ませれば良いというわけではないため、改善には時間を要す傾向にあります。
「3カ月も経つのに、まだまだできない・・・」のジレンマ
入社3カ月目というと、仕事面では徐々に教育係の先輩の手を離れ、一人でできることが増えてくる時期です。一方で、まだまだ「うまくできない」「仕事を覚えきれていない」といった状況も多く、もどかしさに悩み、精神的に疲弊するケースは少なくありません。
仕事上、注意を受けることが増える
研修期間を終えて、実務に携わる機会が多くなれば、当然、仕事上のミスを指摘されたり、注意や叱責を受けたりする場面が増えます。このような仕事上のマイナス要因と4月から蓄積する疲労が重なり、心が折れてしまうこともあります。
人間関係や働き方に悩み始める人も
また、入社から3カ月ほど経って、冷静に周囲を見渡せるようになると、入社当初には感じられなかった悩みを感じるようになる人もいます。
典型的な例としては、今の仕事への適性、上司や同僚との関係性、職場のルールに対する疑問、労働時間や賃金への不満足等です。これらの悩みは、徐々にメンタルに悪影響を及ぼす原因となります。
「入社3カ月の壁」対策としての新入社員のメンタルヘルス施策 4選
一見すると順調そうな新入社員も、実は入社3カ月目特有の悩みを抱え、ひょっとしたらすでにメンタル不調に陥っているかもしれません。
必ずしもすべての新入社員が同様の状況にあるとは限りませんが、従業員の健康確保措置、さらには離職防止策の一環として、会社は「入社3カ月の壁」を意識したメンタルヘルス対策に取り組む必要があります。
ここでは、メンタル不調への予防策として有効な4施策を解説します。
一人ひとりとの面談の実施
「入社3カ月の壁」を踏まえれば、6月以降なるべく早期に、直属の上司が新入社員一人ひとりと話をする機会を設けるのが得策です。
面談では、仕事や人間関係のことで困っていること、労務管理や待遇面で疑問に感じていること、心身面で不安に思っていること等を丁寧に聞き取ります。その上で、説明すべきことは説明する、対応できることは対応策を提示する、必要に応じて専門家へつなぐといった対処ができると良いでしょう。
安心して働ける職場風土の醸造
個別面談の実施が難しい場合は、上司や部下、同僚同士がコミュニケーションしやすい職場環境作りに取り組む他、人事担当者や社会保険労務士、産業医等の専門的な対応が可能な相談窓口の創設・周知を行います。会社の支援体制を具体的に示すことで、悩みを抱える新入社員が安心して働けるようになります。
メンタルヘルス研修の実施
あえて入社して3カ月のタイミングでメンタルヘルス研修を行うことで、入社直後よりも前向きな姿勢で受講してもらえる可能性が高い他、「この時期にメンタル不調を抱えることは何ら珍しいことではない」ことの周知につながります。
「自分だけではない」ことが分かれば、過度に不安を感じることがなくなり、物事に前向きに対処できるようになります。併せて、研修では心のバランスを整えるセルフケアの方法を紹介することで、適応障害やうつ病への予防効果も期待できます。
また、違った観点では、新入社員の指導にあたる先輩社員や管理職を対象としたラインケア研修の実施も有効です。メンタル不調は時間の経過と共に深刻化しますから、早期のケアがカギとなります。そのため、直属の上司の気付きや対応が肝心なのです。
適切な労務管理の徹底
一見すると関係が無いように思われますが、職場におけるメンタルヘルス対策を考える上では、意外にも「法律の定めに沿った労務管理の実施」が重要です。
なぜかというと、「働き方や処遇への疑問」は、新入社員が心のバランスを崩すきっかけとなり得るからです。特に、長時間労働や低賃金、ハラスメントは、モチベーションの低下、疲労・ストレスの蓄積に直接的に影響し、やがては働く人の心を蝕みます。
法令遵守の観点からはもちろんですが、メンタルヘルス対策としても、不適切な労務管理は直ちに改善される必要があります。
メンタル不調を「個人の問題」で片付けるのではなく、会社の責任として対応を
入社間もない社員のメンタル不調に関しては、ともすれば「元々の性格が影響している」「単なる甘えだ」等と考えられがちです。
しかしながら、一歩踏み込んでみると、多くのケースで、「会社に起因するストレス」が背景となっていることが分かります。
もちろん、どんなことがストレスになるのか、そのストレスがどの程度精神面に影響を及ぼすのかは人それぞれです。だからと言って、それらを単に「個人の問題だから・・・」で片付けてしまうのは会社対応としては不十分です。
2015年12月のストレスチェック義務化以降、会社は労働者の心の健康の保持増進に取り組むべきとされています。 心のバランスは、一度崩れてしまうと立て直すためには相当の時間を要します。労働者が深刻なメンタル不調に陥ることのないよう、会社として必要な取り組みに目を向けてまいりましょう。
丸山博美(社会保険労務士)
社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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