【JT】リモートキャリア制度で多様な働き方を進化させる

JT (日本たばこ産業)は、育児や介護等の制約がある社員が遠隔地で働ける「リモートキャリア制度」を導入した。事業競争力を高めるために優秀な人材の確保が多くの企業で課題となる中、制度導入の狙い、制度設計の工夫や運用方法などを人事部課長代理の田中佳奈子氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

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田中 佳奈子 人事部 課長代理

事業概要を教えてください

当社は世界130以上の国と地域でたばこ製品を販売するグローバル企業です。たばこ事業に加え、医薬事業と加工食品事業も展開しています。

たばこ事業は、2022年よりスイス・ジュネーブに本社機能を設け、世界各国でたばこ製品を製造販売しています。医薬事業は、「循環器・腎臓・筋」「免疫・炎症」「中枢」の3領域を中心に、医療用医薬品の研究開発、製造販売を行っています。加工食品事業では、冷凍麺、冷凍お好み焼、パックごはんを主力とする冷食・常温事業、調味料事業を展開しています。

社員の働く環境と成長支援について、基本方針を教えてください

多様性は事業を前進させる原動力になると考え、性別、性自認、性的指向、年齢、国籍だけではなく、経験、専門性など、異なる背景や様々な価値観を尊重しています。

すべての社員が仕事にやりがいを感じ能力を最大限発揮できるよう、職場におけるダイバーシティ&インクルージョンを推進して多様な働き方を支える制度を整え、一緒に働く仲間の多様な働き方を受容する組織風土の醸成に努めています。

成長支援という点では、社員一人一人が将来のありたい姿を思い描くとともに、様々な経験を通じて、自分なりのキャリアを創造し行動していくことが重要だと考えています。

そのための手段として、当社は様々な研修機会や制度を設けており、公募などを通じて自ら行きたい部署や参加したいプロジェクトに手を挙げてもらう等、自分のキャリアについて能動的に考え、行動してもらう仕組みづくりを行っています。

リモートキャリア制度について、制度開始に至る背景を教えてください

組織の活性化や社員の成長を目的に、全社員が転居を伴う転勤の可能性がある総合職として働いています。ただ、プライベートの事情などによって、居住地の変更が困難な社員もいます。共働き世帯の増加、高齢化、就労観の変化など、社会環境は大きく変化しています。

このような事情があるからといってキャリアを諦めてしまうのは非常に残念です。より前向きにキャリアを志向できる状況にすることが、本人のモチベーションや今後の成長につながり、会社としても事業競争力を強化していく上で重要なことであると考え、今回「リモートキャリア制度」を導入することにしました。

転居に対する不安がキャリアを考える上で大きなハードルになっていたということでしょうか

年に1回実施されるキャリア面談を通じて、上司は社員から勤務地に関する状況や意向を確認しています。本面談シートを見ると、「育児や介護のために居住地の変更ができないため、現状を維持したい」というコメントが散見されました。近年これだけリモートワークが浸透してきているだけに、遠方であっても同じ条件で働くことができれば、新たなキャリア形成を目指せるのではないかと思い、制度導入を進めることにしました。

制度設計はどのように進めましたか。工夫した点を教えてください

リモートワークは浸透しているものの、リモートで勤務することが難しい業務特性や職場事情があるといった状況を踏まえ、実運用面を考慮しながら設計しました。特に悩んだポイントは、対象要件と手当の取扱いでした。 当社は支店・工場を保有しており、業務特性によってはリモートで勤務することが難しいです。ただ、リモートでも対応可能な業務もあるため、全社では難しくても対象となる事業場を絞り込みながら、少しでも広く利用できる制度内容にしたいと思いました。

リモートキャリア制度の概要について教えてください

育児や介護等を担う社員の転居に対する不安が、前向きなキャリア形成への阻害要因の一つとなっている現状を踏まえ、多様な人財の最大限の活用を企図して本制度を導入しました。

制度の具体的な内容は、育児・介護、配偶者の転勤などへの対応のために、本社の通勤圏内に居住することが困難な社員であっても本社業務に従事することができます。働き方は大きく分けて2つのパターンがあります。

1つ目は、本社所属社員が、家庭の事情などで通勤圏外に居住せざるを得なくなっても、通勤圏外の居住地から本社業務を継続することが出来ます。

2つ目は、地方に在住する社員が家庭の事情などで転勤が困難であっても、居住地を変更せずに新たに本社業務にチャレンジすることが出来ます。

「リモートキャリア制度」の概要

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実際の運用方法を教えてください

本社勤務の社員は、随時、本制度の適用希望について上司に申出が可能です。また、地方に在住する社員は、年に1回実施されるキャリア面談等でプライベートの事情や今後のキャリアの方向性を上司と共有するとともに、本制度の適用について意向を伝えます。原則その上で、異動先の業務において本制度の適用が可能であると判断した場合、適用されます。

対象となる事業場は本社に限定しており、本制度に適した業務付与・組織編成等は、業務特性や職場事情を勘案する必要があるため、所属長が適宜判断していくことになっています。また、対象社員については自律的に業務が遂行でき、遠隔地からの勤務であっても、通常と同等の成果が出せる人であることを基本要件としています。

なお、本制度の適用にあたり評価や昇格などには影響がないため、社員は安心して利用できます。

制度利用者はフルリモート勤務となります。コミュニケーションやモチベーションなどで問題はないでしょうか

今まで自分が担当していた仕事をそのまま別の勤務地に持っていくのはそれほど難しくないと思いますが、新たに本社業務を遠隔地から行う場合は容易ではないと想定しています。そのため、約2~3週間の一定期間は本社で働くことでインプットの時間を与え、その上でフルリモートに入る等、組織ごとに適宜対応するようアナウンスしています。

また、業務遂行の停滞や関係者とのチームワークの不調等が生じた場合には、本制度の適用を終了するというルールにしています。

今後さらに拡充したい取り組み内容や展望を教えてください

就労観は時代とともに大きく変化しつつあります。こうした変化を踏まえ、会社がどのように環境を整えていけば、社員の働きがいにつながるのか、さらには優秀な人財を確保できるのかを常に考えていかなければならないと思います。 多様なバックグラウンドを持つすべての社員が力を発揮できる職場環境の実現に向け、必要な施策を引き続き考えていきたいと思っています。

JT(日本たばこ産業株式会社)

代表者:代表取締役社長 寺畠正道
設立:1985年4月1日 資本金/1000億円
従業員数:(連結)5万3239人 (単体)5940人(2023年12月31日現在)
事業内容:たばこ製品、医薬品、加工食品等の製造・販売
本社:東京都港区⻁ノ⾨4-1-1
売上高:2兆8411億円(2023年度)

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