ソニー生命は、本社で働く女性社員のキャリア形成を支援する「主任女性向けメンター制度」や「女性管理職コミュニティ活動」を導入している。女性管理職比率の向上や社員がいきいき活躍できる環境づくりを目指す同社の取り組みについて、人材開発部DEI&B推進室の篠原千恵氏、中村次郎氏に聞いた。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部)

ソニー生命保険
人材開発部 DEI&B推進室 室長
兼 調査広報部 広報課 マネージャー
篠原 千恵氏

ソニー生命保険
人材開発部 DEI&B推進室 シニアマネージャー
兼 人事部 人事課 シニアマネージャー
兼 総務部 マネージャー
中村 次郎氏
事業概要を教えてください
篠原 当社は、ソニー創業者の一人、盛田昭夫の「ひとのやらないことに挑戦し、社会に貢献する」という思いをもとに、1979年に設立された生命保険会社です。開業以来、「合理的な生命保険と質の高いサービスを提供することによって、顧客の経済的保障と安定を図る」という使命に基づき、コンサルティングを通じてお客さま一人ひとりのライフプランにあったオーダーメイドの保障を提供してきました。
女性活躍推進に取り組んでいる背景について教えてください
篠原 DEI&B推進室の前身となるダイバーシティ推進室は、女性活躍推進法施行にあわせて2015年に組織が発足しました。同法の施行が前提ではあったものの、社員一人ひとりがいきいきと、働きがいをもって、生産性高く働いてもらいたいという経営側の思いが大前提にありました。
2015年当時は、女性管理職(本社事業所の内勤社員でかつ、係長級以上の社員を管理職として集計)の社員の割合が13%と低いことが大きな課題でした。
原因として考えられたのは次の二つです。一つは女性管理職というロールモデルが少なかったため、それを目指そうという考えが生まれにくかったこと。もう一つは、家事や育児と仕事の両立が難しいと思われていたことです。
一方、当社としては社員にいきいきと働いてもらうことが、お客さまに支持され、企業が成長していくために不可欠だと考えており、内勤社員の半数以上を占める女性社員が活躍できる環境づくりを進め、均等支援と両立支援の観点でいくつかの施策を展開してきました。
例えば、働きがいおよびキャリアイメージの醸成のために、女性社員とその上司を対象にしたキャリアデザイン研修、働きやすさ推進のためのフレックス勤務制(コアタイム無し)の導入などです。なお、ここでいう女性社員というのは本社事業所の内勤社員であり、ライフプランナーと呼ばれる営業社員の女性活躍推進については、別途進めています。
女性社員向け均等支援のうち、主任(新卒入社社員であれば入社5年目以降)女性向けメンター制度について教えてください
中村 この制度は、2020年度からスタートしました。男女含めた統括部長や統括課長がメンター、主任2年目の20、30代の女性社員がメンティとなり、業務などで関わりの無いペアをつくり、定期的にメンタリングを実施します。それにより、メンティ本人が一段高い視点や考え方を身に付け、キャリアを前向きにイメージできるようになることを目的としています。
流れとしてはまず、メンター、メンティ双方に事前研修を行い、メンティ側が自分の得意なことや不得意なこと、将来の希望や今悩んでいることを整理してもらい、その結果を最初にメンターに伝えることからスタートします。
メンタリングのやり方のガイドブックも用意しましたが、必ずしもその通りにやる必要はないとメンターには伝えてあります。その後5カ月間にわたり、月に1回業務時間内にメンタリングを行います。結果、上司部下の直属関係ではない斜めの関係がつくられ、キャリア意識の醸成と社内ネットワークの拡充につながる仕組を構築できました。

メンター、メンティの反応や感想はどうですか
中村 メンターに関しては、「若い世代の悩みや考えに触れることができ、ありがたかった。自部署の部下も同様のことで悩んでいないか、自身のマネジメントを見直すことができた」という意見が寄せられました。
意外に多かったのが「女性若手社員へのアンコンシャス・バイアスに気づくことができた」というものでした。アンコンシャス・バイアスとは、「知らず知らずに抱いている無意識の偏見」のことです。
例としては、「若年層は視野が狭く、自分の手元しか見えていない」「子育て中の女性は残業や出張はしないほうがいい」「未婚や、既婚であっても子どものない女性社員は時間に余裕を持った仕事の進め方をしている」といったもので、メンティから話を聞くことで、それらが偏見であることに気づいたそうです。
メンティからは、「経験の深いメンターの話を聞き、会社についての理解を深めることができた」「他部門とのつながりを認識できた」「俯瞰して物事を見られるようになり、自信がついた」という声を聞くことができました。
その他、「かねて話を聞いてみたかった役員にメンターがつないでくれ、いい刺激になった」「訪問したことがなかった営業拠点にメンターが見学に連れて行ってくれ、メンバーとランチ会まで開いてくれた」「キャリアプランを考える上で、上長以外の人から話を聞けて、助かった」といった声もあります。
女性管理職コミュニティ「Connect(コネクト)」の活動についても教えてください
中村 「Connect」は、統括部長、統括課長をはじめとする女性管理職および管理職を目指す社員を対象に、2021年度に組成された1年単位の活動です。
発足の目的は三つです。一つは女性管理職の数が少なかったので、切磋琢磨して成長し合う横のつながりを整えるということです。二つ目は彼女たちが将来、経営や管理を担う際の意識と意欲を醸成し、そのために必要な知識を拡充することです。最後はこの活動を通じて、社内へのDE&Iの理解と浸透を図り、多様な視点を生かす風土を醸成することです。
第1期は、私が3人の管理職に声をかけ、制度の趣旨と狙いを伝えて、活動を担ってくれるようにお願いしました。3人とも受け入れてくれたので、それぞれ志を同じくする仲間4人を連れてきてもらい、5人一組の3チームができました。
この第1期目15人がまず取り組んだのが、社内へのDE&Iの理解と浸透のために課題に感じることを、取締役へ提言することでした。提案内容をすぐに形にすることは不可能ですから、次の期、あるいはその次の期のメンバーが引き継ぐというように、課題のたすきがけが行われ、改善に向けて動き続けています。
当初は参加メンバーを集めることに奔走した活動も、昨年から完全公募制に変わっています。今年で第5期になりますが、延べ参加人数は40人を超えました。
形になった提案としては、「マイキャリアポータル」があります。女性社員が管理職を目指す際に抱く不安を解消するべく、女性役員や「Connect」メンバーのインタビュー記事を掲載した社内向けのホームページのことです。さまざまなバックグラウンドやキャリア志向を持つ社員がいると思うので、より多くの人の事例を紹介できるように努めました。
メンバーや社内にはどんな反応がありますか
篠原 私は第1期のメンバーでした。その時によく他の人と、「本当は男も女も関係ないのに、なぜ女性に特化して女性活躍が叫ばれるのだろうか」という話をしていました。そんな疑問が1年間の活動を通じ、「女性は、出産や育児といったライフイベントによるキャリアへの影響が、今はまだ、男性と比較するとやはり大きい。また、男性と比較するとキャリアに対する自信を持ちづらい方が比較的多い。これらに加え、当社では女性管理職が少ないという現状もあり、女性を対象に活躍を後押しする活動は重要だ」という認識に変わっていきました。
中村 2024年度の活動では、育児や介護と仕事の両立について、社員の実体験を踏まえたトークイベントやソニーフィナンシャルグループの管理職によるキャリアセッション、経営幹部とのランチイベントなどを行い、延べ455人の社員が参加しました。
「Connect」が、社内のDE&Iの理解と浸透に向けた活動を実施すると、「後押ししよう」と、どこからか支援の手が差し伸べられる。そういう雰囲気が社内にあります。
今後の展望を教えてください
中村 今後の「Connect」に関しては、当社社員が自分らしくいきいき働くために必要な要素を取り入れたイベント等を企画運営し、社員への情報提供や語り合う場を提供し続けていきたいです。加えて、Connect活動の経験が通常業務では体得できないスキルを身に着けることができる場にしていきたいと考えています。
また、女性社員が管理職を目指す際にConnect活動が管理職になるための登龍門的な存在になり、メンバーとして参画するためには毎年抽選が必要になるくらいの魅力的なコミュニティにしていきたいと思います。
篠原 当社は、7月から新たなコーポレートスローガン「生きがいを、愛そう。」を掲げています。この「生きがい」には、多くの方々が日々の生活の中で特別な瞬間(=生きがい)を感じ、自分らしく生きることを支えたいという思いが込められています。お客さまはもちろん、社員もそうです。一人ひとりの女性社員がいきいきと働ける、まさに生きがいを愛することを支援していきたいと思っています。
(2025年8月1日 インタビュー)
ソニ-生命保険株式会社
代表者/代表取締役社長 髙橋 薫
設立/1979(昭和54)年8月10日
資本金/700億円
従業員数/9747人(ライフプランナー数 5795人、2025年3月末現在)
本社/東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ