日本で最も歴史のある人材紹介会社のケンブリッジ・リサーチ研究所は、コンサルティング業界に強い人材紹介会社であるアクシスコンサルティングのグループ会社となり、荒木田誠氏が社長に就任した。「Cambridge100-業界初の100年企業になる」を標榜する同社の新たな経営戦略について聞いた。
ケンブリッジ・リサーチ研究所
荒木田 誠 代表取締役社長
1996年金融系SI企業に入社。米系コンサルティングファームを経て、2003年アクシスコンサルティング入社、執行役員を歴任。17年3月ケンブリッジ・リサーチ研究所代表取締役副社長、同年7月同社代表取締役社長に就任。
最近の企業の人材ニーズと、それに貴社が強みを踏まえて、どう応えられるかお聞かせください。
企業の人材ニーズは、採用難の若年層や専門人材、企業承継や経営変革に伴う幹部社員やCxOに集まっています。
当社では、従来から強みであった製造業やヘルスケア、IT・通信、経営幹部候補においては、年齢層では40代以上、年収では800万円以上といった管理職・専門職に数多くの実績があります。
また、専門的な職種であればあるほど、求める人材像が細かく設定されていることが多いため、当社ではクライアントが求める細かい人材像に沿って、業種や職種を問わず当社独自のサーチ力でピンポイントに合致した人材を見つけてくることができます。
特に製造業においてはとりわけエンジニアに強く、例えば、「化学プラントの試運転のプロ」「香料メーカーの調香師」といったスペシャリストの採用ニーズに次々に応えています。
クライアントの求める細かい人材ニーズにも対応
●直近5年間の紹介実績(2011-2016年度)
社長就任に至った経歴を教えてください。
私が外資系コンサルティング会社に在籍している時に、創業間もなかったアクシスコンサルティング(以下アクシス)から、ほかのコンサルティングファームへのスカウトを受けました。しかし、当時「転職するならベンチャー」と考えており、私をスカウトしたアクシス代表の山尾にそう伝えたところ、「ならうちでやりませんか」と声をかけてもらいました。
当時、私は中小企業診断士を受験するためにかなり中小企業白書を読み込んでおり、「中小企業が一番困っているのは人材採用」という認識がありましたので、人に寄り添う仕事もいいだろうと考えてアクシスへの入社を決めました。
2003年8月に入社しましたが、当時のアクシスは完全なサーチ型のビジネススタイルで、私も候補者リストから順番に電話をかけてアプローチする業務を行いました。その年の11月に初めて企業への人材の紹介を決定して以来、15年間ひと月も切らすことなく決定し続けています。これは、サーチや候補者のフォローにひたすら愚直に取り組んできた成果だと考えています。
一方のケンブリッジ・リサーチ研究所は、創業55年という日本で一番歴史のある人材紹介会社として「Cambridge100- 業界初の100年企業になる」というステートメントを掲げていましたが、次の45年間を生き抜くために必要な組織基盤やITインフラなどのリソースが不足していました。
そこで先代社長で現会長の橋本は、事業承継も含め2016年7月にアクシスの傘下に入りました。アクシスを選んだ理由として、山尾も橋本も理念経営を行ってきましたが、その理念が似通っていたことと、製造業やヘルスケア業界に強い当社とコンサルティング業界に強いアクシスという相互補完性もあるということで、両者がベストマッチと判断しました。
半年ほど経ったタイミングで私がアクシスから当社の代表取締役副社長に転じ、2017年7月、代表取締役社長に就任しました。現会長との橋本からはスムーズにバトンの受け渡しができたと思います。
新社長としてどういった課題を挙げ、施策を講じているのでしょうか。
当社は歴史が長く、良い時期もリーマンショックを始め苦労した時期もあります。その結果、ミドル年代以上のビジネスパーソンには知られていても30代以下には業界内外ともに認知が足りていない現状です。
また、ここ数年は業績回復を優先していたこともあり、理念経営を謳っていながら、十分浸透しきれていない状態でありました。これらを一気に変える必要があると感じています。
そこで、「CAMBRIDGE REBONE」と題する経営改革案をまとめて社員に説明し、会社全体で同じ方向を向けるように改革案に対する同意を求めてきました。改革案のテーマは「洗練されたプロフェッショナル集団へ生まれ変わる」というもので、そのために理念・ビジョンの徹底、人事ポリシーの策定および新しい人事制度の導入、コスト削減、そのポリシーにあった社員の採用を完遂させるなどのプログラムを並べています。
“洗練されたプロフェッショナル”とは、どういったものですか。
プロフェッショナルとスペシャリストは異なり、成果を出せることを前提として働き方を問います。そしてケンブリッジのプロフェッショナルとは“人間性”“成果責任”“公共奉仕”“極めて高度な知識・技術”の4つを目指し続けるというものです。
最も重要な“人間性”とは、人材を扱うビジネスの特性上、高い倫理観と謙虚な人間性、プライバシー保護の意識をもって行動することで、“成果責任”は、一人ひとりが自立したプロフェッショナルとして成果および会社の発展に責任を持つことです。そして“公共奉仕”は、チームプレイに徹し、深い知識や高い技術を個人だけでなく組織に貢献できる人のことで、“極めて高度な知識・技術”は、日本における人材紹介のパイオニアとして誇りと責任を持ち、コンサルタントとしての見識とスキルを向上させるために常に自己を磨くことです。
これらはすべて目新しいものではなく、以前から行動規範として掲げてきたもので、今一度社内全体で徹底し、この考えに見合った活動をしていこうという方針を改めて浸透させています。
「他社では捕まえられないような優秀な人材を、クライアントにしっかり紹介できるところが大きな強みです」
具体的に、どういった施策を講じたのでしょうか。
成果と対価が明確にわかる人事考課制度の導入、既存クライアントのシャッフル、組織のフラット化、バックオフィス機能のシェアードサービス活用による効率化、CRMシステムの導入によるITプラットフォーム強化、サーチを専門とするユニットの設置といった様々な施策を講じています。
人事考課制度は、それまで経営側とコンサルタントが相対で決めていたところから、業績によりグレードが自動的に変動する仕組に変更しました。一部、行動規範を元にして目標管理制度を導入して理念経営の浸透性を狙います。今後は、業績だけではなく、会社のビジョン・行動方針に沿った行動がとれる人材をリーダーやマネージャーに登用します。
クライアントのシャッフルは、担当コンサルタントとして対応しきれないクライアントを放出し、担当を変えてクライアントのニーズに応えることです。会社の資産であるクライアントを個人の資産にすることは人材紹介会社では起こりがちですが、これを一定のルールの中で囲い込みを外しました。
組織のフラット化では、コンサルタントは全員同じステイタスとし、よりフラットな関係性の中で業務を遂行し、より異業界を担当しているコンサルタント同士の交流を活性化させていく狙いです。
シェアード化は、アクシスグループ各社のバックオフィス機能を集約するメリットを活用するもので、特に求人情報や求職者情報のシステム入力にインパクトが大きいと思っています。従来はシステム入力の不徹底により、結果的に担当の情報の囲い込みにもつながっていました。これをシステム化することで、情報はすべて会社全体の資産となり、全社員で活用できるようにしました。CRMシステムの導入も同様です。
そして、サーチユニットの設置は、専門性の高い人材ニーズ獲得に対応するため、手間のかかる人材サーチ業務を組織化し、これを会社として重点的、専門的に行うことで組織としての付加価値を高めていこうとしています。
転職サイトをはじめとする各媒体に頼らない人材サーチを行う同業他社が減っていますが、このような他社では捕まえられないような優秀な人材をクライアントにしっかり紹介できるところに大きな強みを持ちたいと考えています。
一連の施策は4 ~ 5カ月ほどかけて導入し、人事制度はこの1月から施行します。全員の意識・行動も変化しつつあると実感しています。
当社には、経営層や幹部、狭く深い専門職採用における知見を持つ優れたコンサルタントが揃っており、これからの採用難においても、クライアントの多様なニーズに対して、強みであるサーチ力を活かして企業に優秀な人材を紹介していき、業界初の100年企業を目指していきます。