創立10周年を迎えたA・ヒューマンが、黒字基調へと回復し、新たな成長を目指し始めた。その背景には、2009年の不景気の真っ只中に社長に就任した吉安乙起社長の志とさまざまな経営改革の実践がある。業績回復への道筋と今後の経営への取り組みを吉安社長に聞いた。
A・ヒューマン
吉安 乙起 代表取締役社長
1957年生。一橋大学法学部卒業。日本興業銀行(現みずほファイナンシャルグループ)に入行。2004年、A・ヒューマン入社。2007年、同社取締役を経て、2009年、代表取締役社長に就任。
リーマン・ショック後に社長に就任されています。現在の事業の概況を教えてください。
当社は、ヒューマン・アソシエイツの一員として2000年11月に設立された人材コンサルティング会社です。おかげさまで、2010年に創立10周年を迎えました。私は、経済が世界同時不況の真っ只中の2009年4月に社長に就任しました。リーマン・ショック後は、業界全体の売上が減少し、多くの人材紹介会社が赤字経営に陥りました。
当社にとっても厳しい経営となりましたが、無駄を徹底的に無くすことと人材紹介の基本に立ち返ることで、2010年度の決算では黒字に転換する予定です。10周年という節目に、黒字転換し、新たなスタートを切れることを大変うれしく思っています。
人材紹介の領域は20代後半~40代のミドル・マネジメント層が中心となっています。業界経験が豊富で、幅広い知識を持ったコンサルタントが多数在籍しています。私自身、銀行、証券会社等の金融業界の経験が長く、現場感覚と実務経験を活かしたコンサルティングサービスを提供してきました。
専門性を活かした業界別の「金融」「情報通信」「メディカル」「産業流通」「消費財」の5チームがあり、コンサルタント25人が在籍しています。現在、コンサルタントの採用を再開していますが、専門性の高いコンサルテーションの質を維持するために、業界知識が豊富で、人脈も備えた業界経験者を中心に募集をしています。今年は、専門性の高いコンサルタントの確保が、経営課題の1つになると考えています。
100年に一度といわれる不況時の経営となり、大変なかじ取りが求められたと思います。
ここに至るまでの経営改革では、経費節減のほか、報酬制度の変更、コンサルタントの表彰制度導入、求人の再開拓等に取り組みました。企業の採用活動が一時的に全面ストップするという状況の中で売上が激減し、これまで実績連動比率が高い報酬制度を取っていたこともあり、コンサルタントの収入が大きく減少しました。そこで、コンサルタントのベース給与を安定させ、同時にインセンティブ給与も狙えるように報酬体系を見直しました。
さらに、コンサルタントの志気を高めるために、四半期ごとの社内表彰で内容の素晴らしい成約案件に対して特別賞(ベストディール)を決定しています。特徴的なところは、コンサルタント同士が互いに素晴らしい取り組みに対して投票するという方法で受賞者を決定している点です。この制度によって、コンサルタント自らが、積極的にコンサルテーション力を向上させ、売上至上主義ではない、より良いサービス提供に努めるようになりました。
一方で、売上を向上させる施策では、これまでの顧客企業をコンサルタントが再訪問をしたり、トップ自らが顧客を訪問するなど、顧客とのリレーションシップを強化することで、優先的に求人を依頼してもらったり、一部では独占的な求人案件の獲得に成功しています。クライアント企業の経営戦略に深くかかわることで、タイムリーな人材調達に貢献できた結果だと考えています。
昨年は、アライアンスの強化にも取り組みました。当社が扱う専門領域以外を補完し、強化することが目的です。地方では、地元に根ざして活動している有力人材紹介会社20社と業務提携し、提携先との協賛でU・Iターンセミナーを開催するなど、北海道から九州まで全国規模の人材のマッチング機会を創出しています。首都圏では、大手から中小規模の特色のある人材紹介会社37社とアライアンスを組み、実績を上げています。
人材紹介の仕組みはどのような方法をとっていますか。特徴を教えてください。
人材紹介のシステムですが、1人のコンサルタントが求人企業と転職者の双方を担当します。求人企業の中途採用に関する相談から転職者の入社後のフォローまで、業界経験豊富な専任コンサルタントが一貫してサポートします。 求人企業の採用目的、要件によっては、内部登用を勧めたり、転職者のキャリアプランの観点からは、転職するよりも現職にとどまるようにアドバイスしたりすることもあります。求人要件のみならず、企業側と転職者双方の「思い」までマッチングできるように努めています。
人材紹介という仕事は、手掛けた案件すべてが成約するわけではありません。しかし、例え当社では決まらなくても、常に質の高いサービスと専門的なアドバイスによる魂のこもったコンサルテーションを行うことで、企業の採用担当者から感謝されます。入社決定後も、転職者が新しい会社に定着するまで3カ月から1年間、精神的なサポートや仕事上のアドバイスなどのアフターケアを行うことで、定着率を高めています。
転職者に対しては、一般的によく「キャリアアップのための転職」という言い方をしますが、私はキャリアにはアップもダウンもないと考えています。報酬に関しては、金銭面で確かにアップ、ダウンというのはあります。 しかし、キャリアに関しては、たとえ異業種に転じて一からスタートすることになったとしても、他業種を経験したことにより身についたスキルがあります。何よりも、一番チャレンジしたい仕事に就くことで、その後のキャリアがよりハッピーになるかもしれないからです。
転職者支援では、キャリア形成に真剣に取り組む求職者を対象に、転職情報を提供することを目的とした転職相談会などを頻繁に開催しています。こうした地道な取り組みで、当社独自のデータベースを築いており、約5万人が登録しています。登録者の7割をミドル・マネジメント層の20代後半から40代前半が占めています。
今年の目標を教えて下さい。また、その目標にはどのように取り組みますか。
今年も企業の中途採用は、引き続き慎重姿勢継続と考えています。国内景気の低迷が続く中で、人材紹介会社も優勝劣敗が一層はっきりしてくるでしょう。イエローハット創業者、鍵山秀三郎氏の言葉に「凡時徹底」があります。平凡を非凡に努める、当たり前のことを当たり前にやるのではなく、当たり前のことを人には真似できないほど愚直に取り組むという意味です。人材紹介業にも当てはまると思います。
創立10周年を機に1つの求人、1人の求職者を決しておろそかにすることなく、企業の成長とキャリア形成に真摯に取り組む転職者の双方に貢献するという高い志を再確認し、プロフェッショナルとして専門性の高いコンサルテーションができる人材紹介会社を目指します。