エグゼクティブや若手リーダーのキャリア支援を行うコンコードエグゼクティブグループが、そのノウハウを活用して、東京大学で全12回にわたる本格的なキャリア設計の授業を開講した。授業のコースディレクターとして、全体企画・登壇をした同社代表の渡辺秀和氏に、東大生に伝えた内容や感じたことなどを聞いた。
コンコードエグゼクティブグループ
渡辺 秀和 代表取締役社長 CEO
一橋大学商学部卒。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立し、代表取締役社長CEOに就任。戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家などへ1000人を超えるビジネスリーダーの転身を支援。第1回「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門で初代MVPを受賞。東京大学×コンコード「未来をつくるキャリアの授業」コースディレクター。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)、『未来をつくるキャリアの授業』(日経新聞出版社)。
今回、東京大学で授業を行うことになった経緯を教えてください。
私たちは、「自分の夢や志を通じて、豊かな社会を創造したい」と願う未来をつくるリーダーのキャリア支援を行っています。現在は、エグゼクティブ・若手リーダー向けの「キャリアコンサルティング」、「キャリア教育」、「ソーシャルスタートアップ支援」の活動に取り組んでいます。
キャリア設計はどなたにとっても大切なスキルですが、残念ながら日本の教育環境ではその技術を学ぶ機会がありません。そこで、キャリア設計のノウハウを広く知っていただくために、書籍の出版や一橋大学をはじめとする講演などのキャリア教育活動を行ってきました。
今回は、東京大学経済学部の松島斉教授、岡崎哲二教授から依頼をいただき、2017年9月よりキャリア設計の授業「キャリア・マーケットデザイン」(全12回)を行いました。
講義では、どのような内容を話されたのですか。
講義全体の特徴は三つあります。一つ目は、自分の好きなことや志を通じて、社会へ貢献するためのキャリア戦略を考えるという点です。十分なスキルや経験なしに、やりたい仕事ができるわけではありません。社会の中で、望むキャリアを実現するための実践的なキャリア設計法を解説しました。
二つ目は、リアルなケースを学ぶ機会を用意した点です。各界の第一線で活躍されている方をゲストに招いて、設計したキャリア戦略を実践してどう人生が変わったのか、困難をどう乗り越えてきたのかなどを話していただきました。
三つ目は、社会人として良いスタートを切るための心構えについて紹介した点にあります。豊かなキャリアを実現するためには、キャリア設計しただけでは不十分で、入社した組織内で活躍することも必要不可欠です。社会に貢献する立場への変化と、周りの人と協力して仕事をするという二つのマインドセットの大切さを話しました。
これは学生に限りませんが、若い世代の中には、将来に対する大きな不安があるようです。確かに現代は、大企業の雇用安定神話が崩壊して不安定な時代となっています。しかし、人材市場の発達により、キャリア設計をしっかりと行えば、自分の好きなことを通じて社会に貢献できるようにもなりました。チャンスにあふれた時代になっていることや働くことの喜びを伝えたいと考えました。
講義を通じて、学生に対して感じたことはありますか。
毎回300人近い出席で、大教室は熱気に満ち溢れていました。各授業終了時には大きな拍手が沸き起こり、キャリア設計への高い関心がうかがえました。働くことがこんなにも面白いんだということを理解してもらえたのではないでしょうか。
各講義後のアンケートには、自分の人生をしっかり生きようとする熱いメッセージにあふれていて、読んでいる私たちの胸も熱くなりました。一方で、若い世代の仕事に対する考え方が大きく変わってきており、採用企業が変化していく必要性も感じました。例えば、「配属リスク」という考え方が学生に広がっています。就社の意識が薄まっている中で、専門性を磨いてキャリアを自ら切り開いていこうとする学生からは、何の仕事をするのか分からない総合職採用はとてもリスクが高いと認識されているのです。
また、キャリア形成のスピード感という点でも企業と学生の間の認識にギャップがあります。今では、コンサルファームに3年ほど勤め、スタートアップ企業に幹部として転職し、20代後半で起業するような人も珍しくありません。ハイスピードで成長できる環境を用意しなければ、優秀な人材を採用することも、リテンションすることもできないでしょう。
●学生のコメント
「 授業を受けるまでは、周囲の人が就職するような会社に入り、そのまま年老いていくのではという暗い気持ちで、大学も苦痛になっていた。しかし、一歩外へ出れば世界は狭くなく、努力していけば、様々な道が開けていくことが分かり、将来への視界が開けて気持ちが楽になった。登壇いただいた皆さんが情熱を持って仕事に取り組み、社会に貢献している生き方に憧れます。仕事は与えられるものと思い込んでいただけかもしれない。知恵と経験を高め、責任を持って仕事を掴みとっていきたい」
「 自分の意思で仕事を実現し、幸せに生きている人たちを見ることができたのが凄くよかった。楽しそうに働いている社会人を見て、自分もそのように活き活きと仕事がしたいという想いをもった。好きなことをどうやって知るかといったことや、ハブキャリアといったことまで大切な考え方を学んだ。自分が幸せだと思える目標を人生に据えて、それを実現するために必要なことまでブレイクダウンし、日々充実していきたい。人生設計全体まで考えを向けられる授業だった」
今後はどのような活動を考えていますか。
他大学、中学校や高校でもキャリア設計についてお伝えする機会をつくり、日本のキャリア教育に貢献していきたいと考えています。当社のエグゼクティブコンサルタントの役割がより重要になりますので、私たちに加わってくれる方が増えれば嬉しく思います。