人事部の経営戦略組織への転換、コア業務への人材の集中投入が求められる現在、アウトソーシングサービスのマーケットが拡がる余地は大きい。日本で初めての給与計算に特化したアウトソーサーであるペイロール。代表取締役社長の湯淺哲哉氏に、同社の事業展開と日本企業のアウトソーシング活用の見通しを聞いた。
ペイロール
湯淺 哲哉 代表取締役社長
事業開始のきっかけを教えてください
1989年に記帳代行のベンチャー企業として創業し、1997年からは給与計算アウトソーシング事業に特化しています。日本でアウトソーシングという言葉がまだメジャーでなかった当時、アメリカの実態調査で給与計算アウトソーシング会社を見学したことが事業転換のきっかけです。
米国の大手企業の7割程度が給与計算をアウトソーシングしています。大手3社がマーケットシェアを握っていて、ソフトウェア・業務処理事業が大きな企業に成長していることにとても驚きました。近い将来、日本にも浸透するだろうという見通しと、アウトソーシングをしっかりと社会に根付いたインフラビジネスにしたいという強い思いで事業を開始しました。
事業コンセプト、特徴を教えてください
当社は事業開始時からフルスコープ型のアウトソーシングということで展開しています。給与計算のうちコンピュータでできることは半分です。残り半分は「財形貯蓄に入りたい」「祖父を扶養家族にしたい」のように社員から連絡を受けたり、確認をしたり、人がどうしても対応しなければならないことで、企業の人事部にとって負担が大きい部分です。
当社が事業を開始する前から銀行系計算センターが給与計算アウトソーシングを行っていましたが、いわゆる計算代行としてコンピュータを貸しているというもので、人が対応する部分は請け負っていませんでした。
当社は人がやらなければいけない部分もカバーした日本で初めての給与計算に特化したアウトソーサーです。当社の顧客企業の社員は、当社へダイレクトに連絡を入れるようになっていますので、人事部の負担は大きく減ることになります。
現在のお客様は社員1000人以上の企業が中心です。グループ全体で依頼を受けることも多く、コストダウン効果が大きくなります。グループの中で様々な業種を展開されるお客様も多いのですが、複数の給与制度があっても1つのシステムの中で動かすことができます。
時々、グループで給与計算システムを統合するために、給与制度や評価制度を統一しようとする会社がありますが、事業や仕事が異なる会社の制度を統一するのは本末転倒ではないかと思います。
人事制度は、社員のモチベーションを高く保ち、元気に働けるようにするためのものですから、各社で異なっていて当然です。グループ内に制度が複数あっても、統合した給与計算に対応できるのがアウトソーサーの付加価値なのです。
日本企業のアウトソーシング活用の現状、今後の見通しは?
多くの企業で人事部門の人数がかなり絞り込まれていますが、給与計算は簡単な定型業務に見えて、実際はノウハウや専門知識が必要な仕事です。税金、社会保険、年金といった制度変更が毎年のように繰り返されますから、新しい知識を吸収してしっかりと対応できる人材が必要です。
しかし、労働人口が減り、どこの会社も人材確保に苦労する時代に、優秀な人材を常に確保することは難しくなっています。そこで、アウトソーサーに頼んだ方が安定的で継続的なサービス提供が得られるという考え方が出てきています。
特に、日本でも内部統制制度の導入が進む中で、アウトソーシングの効果は非常に大きくなるでしょう。内部統制に対応するための人員を抱える負担が重いことはもちろん、人材を採用することも簡単ではないでしょう。
当社は給与計算に関する内部統制の米国基準レポートの取得を目指していますので、お客様も基準をクリアすることになります。人材が活躍できるための施策を企画・実行するために、人事部が経営にもっと貢献できるようにならないと日本企業は成長しないと思います。人事部がコアとなる業務に集中するために、アウトソーサーは支援ができます。
また、日本企業は給与計算パッケージソフトを導入してカスタマイズすることも多いのですが、法律や制度改正の度に変更費用が必要で、これを各社で繰り返すことは社会的に見ても効率的ではないと思います。当社の顧客は約200社、社員30万人ですが、1つのコンピュータシステムで運用していますので、制度改正にも一括で対応できます。つまり、多くの会社がアウトソーシングを利用することで社会全体のコストメリットが生まれるという面もあるのです。
人材採用、人材育成に対する考え方を聞かせください
設立当初は人事経験者を中心として中途採用がメインでした。今では一定のノウハウを持つ人材がかなり充足してきました。豊富な経験を持つ優秀な人材を外部から獲得できれば良いのですが、容易なことではありませんので、未経験者や新卒社員を育成していくことがこれまで以上に重要だと考えています。
社内で人材育成プロジェクトを複数立ち上げて取り組んでいますが、もっと充実した内容にしたいと考えています。今年は27人の新卒社員を採用することができました。日本のアウトソーシング市場はまだまだ小さいので、これを大きくするために一緒に挑戦していくことに共感を得られたようです。今年7月に携帯電話で給与明細が確認できるサービスを出しましたが、このような新しい提案を世の中に出していくことを一緒にやっていきたいと思います。
今後の事業展開を教えてください
これまで当社のお客様は大手企業が中心でしたが、社員300人程度からのお客様にも使っていただける新しいサービスをリリースする予定です。カスタマイズせずに使えますので、ご利用料金も抑えることができます。会社としては売上60億円、4年以内にIPOすることが目標ですが、マーケットが大きくなっても、当社の対応が追いつかなければ意味がありませんのでバランスが大切です。しっかりと確実に伸びていこうと考えています。