東京オリンピックやプロスポーツで活躍する選手を対象とする「アスリート研修」で高評価を得ているホープスに、企業の教育担当者からの問い合わせが増えている。同社の坂井伸一郎代表に研修の特徴を、研修実施企業の教育担当者に導入の狙いや教育効果などを聞いた。
ホープス
坂井 伸一郎 代表取締役
【PROFILE】成蹊大学卒業後、高島屋で社会人基礎力・礼儀マナー・顧客や店舗スタッフとのコミュニケーションを現場で学び、販売スタッフ教育も担当。ベンチャー企業役員を経て、2011年に起業。年間50本・2500人(製造業・サービス業・金融業など多岐にわたる)の企業研修、アスリート向け座学研修を行っている。座学慣れしていないアスリートへの指導経験が豊富ゆえに、「分かりやすく伝える」「印象にとどめるように工夫する」という指導法に対して、企業の人事担当者や受講者から高い評価を得ている。著書に『残念な部下を戦力にする方法』がある。
企業の教育担当者から問い合わせが増えている理由
私たちは、スポーツチームなどから依頼を受けて実施する「アスリート研修」のリーディングカンパニーとして、延べ1万2000人・580回を超える研修実績があります。
東京オリンピックで日本人選手の活躍に注目が集まりましたが、以前からトップアスリートの育成方法が企業の人材育成においても有効ではないかと考える教育担当者からの問い合わせが増えており、幅広い業種の企業で研修を行っています。
こうした企業で共通しているのは「目標達成に向けて主体的に動ける人材」や「チームで成果を出せる人材」の育成を目指している点です。アスリートは目標達成への強い意思を持って自らを律してトレーニングを積み重ねており、私たちがアスリート研修で伝えている内容やスキルは、ビジネスにおいて成果を出せる人材の育成にも役立ちます。
短時間で効果的な研修のノウハウが求められる
アスリートはトレーニング時間を確保する必要があり、座学慣れしていないため、研修は長くて3時間、多くは90分です。そのため、大事な点に絞って分かりやすく伝える工夫が講師にも内容にも必要です。
最近の企業研修では、短時間で効果的な内容を求めるニーズが高まっていますので、この点でも私たちがアスリート研修で培ったノウハウが求められているのです。
入社3〜5年前後の若手リーダー向け研修が増加
企業研修で増えているのは、入社3 〜5年前後の若手リーダー向けです。個人とチームの目標達成への強い意識を持たせ、リーダーとしての役割を理解させることが狙いです。
ある企業の研修では「個人の尊重」と「組織の統制」をテーマに、メンバーのやる気を高める手法、目標達成に向けたリーダーシップなどについて、ラグビーなどのチームスポーツの事例を用いて説明しました。一昔前の成功事例や超大手企業を参考に話しても若い社員には響きませんが、身近なスポーツの事例を用いると理解しやすいと好評です。
一人一人が具体的なアクションプランを作成
目標設定、リーダーシップ、チームビルディングなどをテーマとして、ニーズに応じてオーダーメードで研修内容を提案しますが、受講者一人一人が具体的なアクションプランを作成する点は共通です。
「研修で良い話を聞いた、気づきがあった」だけでは不十分です。ビジネスで継続して成果を出すためには、アスリートと同じく「今日から何をするのか」を徹底的に追求していくことが欠かせません。
研修導入企業の声
ヤクルト球団
事業内容:プロ野球球団の運営
研修内容:元プロ野球選手などの球団スタッフ向け研修を2017年から毎年実施。ビジネスの実践で役立つコミュニケーションやロジカルシンキングなどのスキル習得、ゲスト講師によるセミナーで異業種や市場の動きを知って視野を広げる
従業員数:110人
ヤクルト球団
野口 祥順 チーム運営部 一軍マネージャー
ビジネス経験が少ないスタッフのレベルアップを図る
プロ野球球団も企業と同様、厳しい競争を勝ち抜くための経営力が欠かせません。球団スタッフには元プロ野球選手も多く、私もその一人ですが、経営力を高めていくためには、スタッフ一人一人がビジネスパーソンとしてレベルアップを図ることが欠かせないという課題があります。
ビジネス経験が少ないスタッフに対して、必要な内容やレベルを見極めた上で適切なプログラムを提案してもらえる点が決め手となって、ホープス社には2017年から研修を依頼しています。スポーツ界の人材課題に精通していることに加え、企業研修でも実績を持つホープス社からは人材育成への助言も得られ、パートナーとして信頼できる存在です。
研修を継続してきたことで、リーダーが着実に育つ
ビジネスの実践で役立つコミュニケーションやロジカルシンキングなどのスキル習得のための講座、同世代のビジネスパーソンをゲスト講師に招いて異業種や市場の動きを知って視野を広げるためのセミナーなどを実施しています。
スタッフが研修に対して前向きに取り組んでくれるのかという不安が当初はありましたが、受講したスタッフによる口コミで研修が役立つという評判が広がり、年々、受講希望者が増えています。研修で学んだことを活かして仕事で成果を上げ、より上位のポジションに就くスタッフが出てきています。ホープス社の研修を継続してきたことで、球団経営を支えるリーダーが着実に育ってきていると感じています。
農協流通研究所
事業内容:農畜産物に関する調査研究・研修・指導等
研修内容:JA全農グループの新任管理職研修に2020年から導入。既存の枠組みにとどまらない柔軟性を持ち、多様な価値観を持つ人材を受け入れて職場をマネジメントできるニューリーダーづくり
職員・従業員数:約2万7000 人(JA 全農グループ全体)
農協流通研究所
高橋 まなみ マーケティング・研修部 研究員
新たな時代のグループを担えるニューリーダーづくり
JA全農グループには様々な事業規模、業務を担う会社があります。各社の受講者に対して適切な指導が実施できる講師を探す中で、大企業とベンチャー企業を経験して幅広い職務経験を持ち、多くの業界で研修実績がある坂井氏に、2020 年からグループの新任管理職研修を依頼しています。
新任管理職研修のテーマは、新たな時代のJA全農グループを担うことができるニューリーダーづくりです。世界と時代の変化に合わせた事業展開を進めていくためには、既存の枠組みにとどまらない柔軟性を持ち、多様な価値観を持つ人材を受け入れて職場をマネジメントできる人材を育てていく必要がこれまで以上に高まっていると考えています。
受講者へ的確に伝え、行動変容を促すことができる講師
研修プログラムでは、上司と部下を上下関係ではなく、個人と個人の関係で考える大切さを実感してもらい、コーチング手法を学べる内容などを取り入れています。坂井氏は、会社として受講者に必ず理解して欲しいポイントを受講者へ的確に伝えて、行動変容を促すことができる講師です。研修内容がいくら良くても受講者にその意図が伝わらず、理解が得られないような研修では意味がないと思います。
新任管理職研修は今年で2年目になりますが、坂井氏に担当いただいて良かったという声が多く、これまで研修をほとんど行っていなかったグループ会社からも新たな研修を依頼できないかという相談が出ています。