組織・人事

2016年に顕在化した人事・労務の6テーマ【働き方改革が本格始動】

2016年の人事・労務の特徴を一言でいえば、人材不足の顕在化に対応した採用力強化や定着を促す官民を挙げた「働き方改革」が本格的に始動した年だった。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

1998年をピークに生産年齢人口は減少傾向にあるが、景気回復基調を受けて今年最も顕在化した。11月の有効求人倍率は前月比0.01ポイント上昇の1.41倍。1991年7月以来25年4カ月ぶりの高水準だった。正社員の求人倍率も0.90倍と2004年の集計開始以来、最高となった。

国立社会保障・人口問題研究所の推計(2012年)によれば2025年の生産年齢人口は2016年よりさらに約600万人の減少が見込まれている。このままでは日本経済の地盤沈下は避けられないが、もちろん国も企業も手をこまねいているわけではない。政府は女性と高齢者の就業を促そうと躍起になっている。

女性管理職比率に数値目標

その一つが4月に施行された女性活躍推進法に基づく事業主行動計画の策定(労働者301人以上の企業)だ。目指すべき女性の採用数や女性管理職比率などの選択肢から数値目標としてどれか一つを行動計画に定め、その情報を公表しなければならない。

企業にとっては重荷であるが、公表数字が採用と直結するたけにそのインパクトは大きく、人事担当者の会合では女性管理職比率や女性採用数の数値を打ち出したという企業が多かった。

新卒採用の広報期間短縮でインターンシップ実施企業が増加

新卒採用でも新たな動きが顕著になった。経団連は会社説明会など採用情報の解禁を3月、選考開始時期を6月としたが、17年採用では実質的な選考開始は6月以前に行われた。また実質的な会社説明会と予備選考となるインターシップ実施企業が急増した。

インターシップは18年採用でもさらに増える見込みだ。主要就職サイトに掲載されているインターンシップ実施企業は16年10月時点で前年比2.4倍増となり、12月以降の実施企業は延べ1万社を超える。うち7200社が17年2月に集中し、中でも実質的な会社説明会である「1dayインターンシップ」実施企業が約71%を占めている(採用アナリストの谷出正直氏調査)。 優秀な学生をいち早く囲い込みたいという企業の思惑の裏で採用情報・選考開始時期が形骸化し、通年採用化の様相を呈している。

長時間労働の是正

採用・定着率向上と直結する「働き方改革」も官民を挙げて始まった。政府は一億総活躍国民会議、ニッポン一億総活躍プランの策定、それに続く「働き方改革実現本部」では重点項目として長時間労働の是正を掲げた。

また、行政部門では厚生労働省に「長時間労働削減推進本部」を設置し、過重労働撲滅キャンペーンを展開し、働き方の見直しを経団連などに呼びかけるとともに取り締まりを強化した。 労働基準監督署はこれまで月100時間超の残業が疑われる事業場の重点監督対象としてきたが、4月から月80時間超の2万事業場も対象にすることにした。

異例の事態に発展した電通過労自死事件

11月1日から実施された過重労働解消キャンペーンの対象には「過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等」も対象になったが、その象徴的事例が入社1年目の女性社員が過労自殺した電通だった。

東京労働局の「過重労働撲滅特別対策班」(通称「かとく」)を含む労働基準監督官が電通本社と支社に強制捜査に踏み切るなど異例の事態に発展した。 実は臨検や是正勧告を受けた大手企業は多い。筆者が知る大手企業では是正勧告を受け監督官から「改善されなければ次は社名を公表することになる」と言われ、人事部や上層部が大騒ぎになったこともある。

「健康経営」の推進で働き方改革

一方、企業の側でも「働き方改革」を宣言・推進する企業も増えた。「ノー残業デイ」や定時退社を促すなど時間外労働時間の削減に取り組むところも多い。

社員の健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践する「健康経営」を謳う企業が増えたのも今年の特徴だ。例えば伊藤忠商事は6月に「伊藤忠健康憲章」を打ち出し、経営トップ主導による「長時間労働削減」と「メリハリのある働き方」を推進している。 大和証券グループ本社のほか、ロート製薬、テルモなどの大手各社は社内にCHO(最高健康責任者)を選任し、健康経営の推進を担当している。

伊藤忠商事は終業時間後の残業を減らし、始業前の「朝型勤務」の推進企業として知られるが、今年の夏以降、始業時間を早めるなどの朝型勤務導入企業も増えた。その賛否は社員内では分かれるものの、ワークライフバランス重視の政策を鮮明にする企業も増えている。

高齢者雇用の処遇制度のあり方が課題に

最後に高齢者雇用に関しては、定年後の継続雇用社員の処遇問題について東京地裁と高裁の二つの異なる判決が世間の注目を集めた。

地裁では定年前とまったく同じ仕事をしているトラック運転手の継続雇用後の賃金を引き下げるのは違法とした。だが、高裁では違法ではないとの判決が下され、最終的に最高裁の判断を待つことになった。

定年後の雇用形態として圧倒的多数を占める再雇用制度では賃金の引下げが従業員のモチベーションを低下させているとの調査もある。今後増えると見込まれる高齢者雇用の処遇制度のあり方も大きく問われることになるだろう。

人材不足という基調の中で、若者、女性、高齢者の採用、定着を図る処遇を含めた施策が2017年も引き続き求められてくることは間違いない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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