組織・人事

【2017年労働法改正】人事担当者が押さえるべき注目ポイント

2017年は人事・労務に関する重要な法改正も行われる予定だ。その中でも最大の注目点は何といっても長時間労働の是正と同一労働同一賃金を目指した動きだろう。法改正によって何が変わってくるのか。人事担当者が押さえるべき注目ポイントを解説する。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

政府は時間外労働の上限を規制する方針

安倍首相を議長とする「働き方改革実現会議」で時間外労働の上限を規制する方針が打ち出された。安倍首相も「時間外労働の上限を何時間にするかがポイント。しっかり検討し、必要な法案をなるべく早く提出したい」とことあるごとに発言している。

上限規制とは労基法36条に基づく労使協定、いわゆる36(サブロク)協定における時間外労働規制の見直しである。36協定には1週間15時間、1カ月45時間、1年間360時間という限度時間が設定されている。

だが、特別延長時間に関する「特別条項付36協定」を労使で結べば限度時間を超えて事実上無制限に働かせることができる。

実際に厚生労働省の調査では1カ月の特別延長時間の内訳で最も多い時間帯は月間「70時間超80時間以下」でその比率は36.2%。ところが過労死基準といわれる「80時間超100時間以下」が16.0%、さらに「100時間超」の会社が5.5%も存在する。しかもその割合は大企業ほど高い。

EU加盟国では「7日ごとの平均労働時間が、時間外労働を含めて48時間を超えない」(EU労働指令)こととされている。この48時間は日本の法定労働時間とは意味が違う。

残業時間を含めて法定労働時間を超える48時間以上働かせてはならないとする“絶対的規制”だ。日本のように無制限ではなく、週8時間の残業しか許されないのである。

今回の上限規制を含む労働時間管理のあり方については現在、厚生労働省の有識者による検討会で審議されているが、与党の自民党も独自の検討を行うことにしている。

では時間外労働の上限はどうなるのか。現行の36協定の1カ月45時間が1つの目安になるだろうが、業種・職種・企業規模によって時限的な若干の例外規定を設けることも考えられる。

ある政府関係者は「上限規制は経営側だけではなく、労働組合も残業の極端な抑制を考えていない。落としどころは過労死ラインの月80時間になるだろう」と言うが、まだ推測の域を出ていない。

過労死基準を超えている割合は大企業ほど高い

●特別条項付36協定のある事業場の1カ月の特別延長時間

日本人材ニュース
(出所)厚生労働省「平成25 年度労働時間等総合実態調査」

労基法改正案と上限規制をセットで国会提出か

政府の「ニッポン一億総活躍プラン」の工程表によると制度の検討期間は18年度までとされている。安倍首相の最近の発言を聞いていると、17年中の改正法案の国会提出もあり得るかもしれない。

だが、そうなると問題になるのはすでに国会に提出されている労働基準法改正法案をどうするかである。同法案には有給休暇の取得の義務付けをはじめ「高度プロフェッショナル制度の創設」と「企画業務型裁量労働制の対象者の拡大」が盛り込まれている。

高度プロフェッショナル制度とは、管理職を除く労働者の時間外・深夜・休日労働に関する労働時間規制の適用を外そうというものだ。対象業務の例としては金融商品の開発、ディーリング、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務など。年収要件は1075万円以上とされている。

もう1つの企画業務型裁量労働制の対象者の拡大は、現行の「企画・立案・調査・分析」業務に加えて、①提案型営業と②プロジェクト業務の2つにも適用し、労働基準監督署への報告など手続きも簡素化しようというものだ。

政府関係者は「今の労働基準法改正法案を修正するのか、一度引っ込めて出し直すのか、廃案にして労働時間に上限をつけることを主眼にした法案として出すのか、決まっていない。場合によっては労基法改正案に上限規制を入れたものを17年の臨時国会に提出するかもしれない」と指摘する。

同一労働同一賃金は非正規の賃金是正がターゲット

一方、正社員と非正社員の格差を是正するための「同一労働同一賃金」に向けた法令改正も17年に大きく動く可能性もある。政府は主に「同一企業内の正社員と非正社員の賃金の違いの是正」をターゲットにしている。

政府は法律の改正によって裁判などを通じて処遇改善に向けて企業の背中を押そうとしているが、現時点で浮上している案は、欧州のEUの労働指令に倣って非正社員に対する「客観的合理的理由のない不利益な取扱いを禁止する」という差別禁止の条文を現行の法律に盛り込むことを考えている。

法律に「客観的合理的理由のない不利益な取扱いを禁止する」という条文を入れると、裁判では会社側が合理的理由を立証する責任を負うことになり、また、法の行為規範として正社員との処遇の違いについての説明責任も発生する。

現行法の不明確な規定と違い、余計な解釈が入り込む余地がなく、会社側が正社員と非正社員の賃金格差を正当化する合理的な理由がない限り、認められない可能性がある。つまり、非正社員にとっては机を並べて同じ仕事をしている正社員より給与やボーナスが低ければ「なぜ違うのですか」と言いやすくなる。

会社の説明が曖昧であれば裁判に持ち込み、会社側が合理的である根拠を示しても裁判官が合理的だと認めなければ正社員と同じ賃金を支払わなくてはならなくなる。

だが、欧州では職務分析・職務評価に基づいた職務等級(職務の格付け)について産業別労組と労働協約を締結するのが一般的であるのに対し、日本は年功要素を加味した職能給が主流であり、賃金体系も個々の企業で異なる。

日本に適用した場合、何が合理的理由となり、合理的理由とならないのか、使用者も裁判官もわかりにくい。そこで政府はそのことを示すガイドラインの原案を16年末に発表している。

今年はガイドラインを正式に決定するとともに、具体的な法改正の作業が行われる運びだ。工程表では新法が19年施行の予定だ。政府関係者は「施行の1年前の18年の通常国会で法案を成立させて、春闘も含めて1年かけて自社の賃金体系を見直すなど労使協議をしてもらいたいと考えている。

そのためには少なくとも17年の臨時国会に法案を頭出ししておいて、18年通常国会で成立、19年4月施行に持っていきたい」と語る。

また、政府関係者はガイドラインを踏まえて自社の正社員と非正社員の賃金格差について労使の議論が今年から始まることを期待している。法令改正による賃金格差の是正は中小企業にも求められる。さらに派遣事業者も対応を迫られることになる。

派遣社員も同一労働同一賃金の対象に

現在の労働契約法20条では有期契約社員と正社員である無期契約社員、また、パートタイム労働法9条には正社員とパート社員の均等待遇を求める規定はあるが、派遣社員と派遣先の社員の待遇を同じにしなさいという規定はない。

新法ができれば派遣社員も派遣先の社員と同じ仕事をしているのであれば同じ賃金にするというのが基本原則となる。

EUでは労働条件などを統一するためにEU本部が「労働指令」を出し、加盟国が法制化する仕組みになっている。まず1997年にパート社員との合理的理由のない差別を禁止したパートタイム労働指令が出され、99年に有期労働契約指令、2008年に派遣労働指令が出された。

派遣指令が出されるのが10年遅れた理由は、使用者が派遣元と派遣先の2つに別れているので議論が長引いたことによるが、結果として同じルールを適用することになった。

派遣労働指令では「派遣労働者の基本的な労働・雇用条件は、派遣先に派遣されている期間中は、少なくとも同じ職務に従事するために派遣先から直接雇用されるとした場合に適用される条件としなければならない」と規定している。

つまり、派遣社員の仕事が派遣先の正社員の仕事と同じであれば、給与やボーナスだけではなく福利厚生も含めて同じにする必要がある。

フランスではこれに基づいて派遣先社員と同じ交通手段や食堂などの施設を利用することができるという規定もある。ドイツでは子どもの養育施設の利用も正社員と同じにしなければならない。

日本に例えれば、総合商社や大手広告代理店に派遣されている社員が事務職社員と同じ仕事をしていれば、給与・ボーナスだけではなく交通費の支給はもちろん、各種の研修講座の受講、保養施設などの福利厚生施設も利用できるというものだ。

たとえば社内食堂の利用では、正社員に一定額の食券を付与していれば、派遣社員にも同じの額の食券を付与しなければならないという裁判例も欧州にはある。

だが、派遣先企業の社員と同じ給与を派遣元が支払うのは難しい場合もある。派遣社員の給与は派遣先から派遣元が受け取る派遣料金から支払われている。だが、欧州では派遣元が派遣先の社員と同じ給与を支払えない場合は派遣先が支払うことを命じる判決も出ている。

フランスでは派遣先に雇用されたとしたら支払われたであろう賃金と残業手当と実際に受け取っている賃金との差額を支払うように派遣元事業主に求めた裁判がある。判決では「派遣先で支払われるであろう賃金を支払う義務は雇用主である派遣元事業主にあるが、この義務を履行するに当たり派遣先事業主に落ち度がある場合には、派遣先事業主に支払い義務がある」と言っている。

正社員を含めた賃金体系の見直しが加速か

では日本では派遣労働者の取扱いはどうなるのだろうか。政府が示した「同一労働同一賃金ガイドライン案(暫定版)」では有期雇用労働者とパートタイム労働者については詳しく記しているが、派遣労働者についてはこう書いている。

「派遣元事業社は、派遣先の労働者と職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情が同一である派遣労働者に対し、その派遣先の労働者と同一の賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない。また、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に一定の違いがある場合において、その相違に応じた賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない」

職務内容や配置、その他の事情が同じであれば、派遣先労働者と同じ待遇、また、一定の違いがあった場合は均衡待遇、つまりバランスのとれた処遇にしなさいと言っている。派遣労働者については派遣元の正社員との格差、派遣先の社員との格差の是正という二重の違いがある。今後、具体的な検討を進めていくことになるだろう。

欧州のような「同一労働同一賃金原則」が日本でも適用されたら、派遣社員の待遇の見直しは避けられないだろう。今後のガイドラインや法案の内容次第では派遣社員に限らず、有期契約、パート社員を含めた非正社員の待遇、正社員を含めた賃金体系の見直しが進むことになる。

折しも18年4月から5年超の有期契約社員の無期転換申し込み権が発生し、有期から無期に転換する労働者が大量に発生すると見込まれている。無期転換のための教育、賃金体系など人事制度の見直しは待ったなしである。65歳までの継続雇用制度のあり方も問われている。17年は日本企業全体で賃金体系の見直しが加速することが予想される。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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