組織・人事

「週休3日制」は日本に定着するのか

昨今の働き方改革の流れを受けてか、「週休3日制」というワードがちらほら聞かれはじめている。 現状の「週休3日制」はどのように運用されているのか。実例とともに紹介していく。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

週休3日

今話題の週休3日の本当の意味

「週休3日制」の働き方が話題になっている。週休3日と聞けば、土日以外の平日にもう1日休みが増えるわけで、羨ましいと思う人が多いのではないか。

かつて土曜日が午後半休の状況が長く続き、週休2日制が叫ばれてから定着するまでに10年もかかった。さらに週休3日になれば家族と過ごしたり、趣味などのプライベートも充実できる。

ただし、週休3日でも給料は以前と変わらず、平日に働く時間も変わらないという前提があっての話だ。ところが今話題になっている「週休3日制」はそうではない。給料は変わらなくても労働時間が増える、あるいは平日の労働時間は変わらないが、1日分の給料が減る。つまり、トータルでは何も変わらないのだ。

各社の週休3日導入事例~佐川急便~

話題のきっかけは佐川急便の週休3日でのドライバーの募集だ(東京都と山梨県)。転職サイトに掲載された同社の募集広告には「『週休3日』で、家族との余暇も収入アップも実現可能」。その下に「水曜お休み。朝から趣味の釣りに出かけて、ゆっくり過ごす。土曜お休み。家族みんなで、日帰り温泉を満喫!日曜お休み。今日は子どもと一緒に近隣の公園へ。」というキャッチコピーが目を引く。

佐川の通常の週休2日のドライバーの実働時間は1日8時間、5日勤務で週40時間。週休3日の場合は、1日8時間の法定労働時間の例外を認める「変形労働時間制」を使って1日の労働時間を10時間にして同じ40時間にするものだ。もちろん1日の労働時間が8時間を超えても残業代がつくことはなく、週の労働時間を4日に固めて週休3日を実現させている。


同社のドライバーの基本月給は、週休2日も3日もほぼ同じ「18万円~26万円」(関東地区)。だが、運送業界では定時に退社できる人は少なく、生活を考えて残業代を含めた給与で生活設計をしている人も多い。

佐川の募集広告にも週休3日の月収例として「26万5924円~35万5057円」(東京、残業手当20時間)と、残業代込みの給与を紹介している。


週休3日の月の勤務日は17日。20時間ということは1日1時間ちょっとの残業時間になる。実働10時間といっても間に1時間の休憩時間を取る必要があるため通常の拘束時間は11時間になる。つまり、残業込みの月収をもらうには1日計12時間拘束される。

仮に9時始業の会社であれば夜の9時終業ということになる。しかし、配達後の残務整理などでさらに残業することもあるかもしれない。しかもシフト制なので週の真ん中に休めるとは限らない。そうなると、3日の休みがあるといっても、労働実態を考えると1日は家でぐっすりと寝ていたい気分になるかもしれない。


一方週休3日にもメリットはある。それは、働く日数を短くし、1日の規定労働時間を延ばすことで、1日の残業時間を減らす効果が期待できるところだ。

通常残業時間としてカウントされていた、もしくは場合によってはサービス残業となっていた時間が勤務時間内となるため、残業時間にあたる部分が短くなる。それでも残業時間が減らない場合は、勤務間インターバル規制に違反するため、長時間の残業を是正することができる。

各社の週休3日導入事例~ファーストリテイリング、ヤフー~

週休3日制は佐川急便以外に、すでにユニクロを運営するファーストリテイリングが転勤のない「地域正社員」を対象に導入している。同社も変形労働時間を活用し、1日10時間、週4日勤務と佐川急便と同じ仕組みだ。

ただし小売業なので休みは平日に取得することになっている。こちらも週休3日を「『仕事と家庭を両立させたい』『オンもオフも充実させたい』そんな声にお応えして導入した」同社HP)としている。

ヤフーは週休3日を今年4月から家族の育児・介護をしている社員を対象に導入した。同社の1日の労働時間は変わらず、休みが1日増える分2割程度給与が減額される、いわゆるノーワーク・ノーペイの原則に基づいている。

週休3日は多様な働き方の1つにすぎない

どの会社も週休3日制といっても、1日8時間、週5日勤務という働き方の大枠を変えてはいない。週休3日制は1日5~6時間働く育児・介護の短時間勤務の週休版ともいえるもので、今流行の多様な働き方の1つにすぎないのである。多様な働き方の社員とは「一般的な正社員の働き方とは異なる働き方をする社員」のことであり、人件費の観点では、普通の社員の給料を基本に、勤務時間の短縮に応じて減額することで、人手を確保するための手法でもある。

実際に企業の定年後の再雇用社員の中には、週休3日というのは決して珍しくはない。しかも平日は定時に帰り、仕事の中身も定年前の現役時代に比べて軽度の仕事をしている人が多い。ただし、給料は現役時代の半分程度という企業が圧倒的に多い。

週休3日は日本に根付くか

完全週休3日制が今の日本で可能なのだろうか。結論から言えば難しいだろう。

実は月末金曜日の午後3時の早帰りを奨励するプレミアムフライデーでは多くの企業が実施を見送った。最大の理由は顧客への対応とビジネス上の損失だ。

ある医療機器メーカーの人事部長は「土日は病院が休みになるので金曜日は検査機器類の納入で忙しくなる。営業職の社員が午後3時に帰れば、顧客対応ができないためにビジネスの損失が大きい。普通の日でもライバル社としのぎを削っており、定時以降は対応できませんとなると顧客を奪われてしまう」と指摘する。もちろん顧客やライバル企業も週休3日ならいいが、自社だけ導入してもビジネス上の損失は免れないだろう。

働き方の多様化が進んで、ライフスタイルに応じた選択肢が増えることはうれしいが、完全週休3日制を実現させるには、まずは日本の商習慣・業界慣行を見直すこと、また、それが生み出している長時間労働体質を徐々に変えていく必要がある。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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