人材採用

働き方改革に影響を受ける学生の最大の関心事【2018年新卒採用の面接対策】

3月から2018年新卒採用活動が本格的に始まる。企業の「働き方改革」の取り組み、とりわけ長時間労働の問題に学生の関心が高まっており、企業説明会ではこれに関する学生の質問が飛び交う可能性もありそうだ。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

主要就職サイトに掲載されている17年1月以降のインターンシップ実施企業は延べ1万社を超えるが、うち約8500社が年2月に集中している。

そのうち実質的な会社説明会である「1dayインターンシップ」実施企業が約72%を占めている。本来は採用情報の解禁は3月であるが、優秀な学生をいち早く囲い込みたい企業が多く、採用情報・選考開始時期が実質的に 形骸化していることを物語る。

そのことの是非はともかく、今年の学生の最大の関心事は企業の「働き方改革」の取り組み、とりわけ長時間労働の問題になるかもしれない。 学生は新聞、テレビのニュースに非常に敏感であり、就職先選びにも大きな影響を与えることはよく知られている。たとえば2006年にライブドアの元社長の堀江貴文氏が逮捕されたとき、マスコミが盛んに報道した影響でWebなどIT系企業が悪者扱いされ、IT業界を志望する学生が激減したこともあった。

また、2014年は安倍政権が女性管理職登用など女性活躍推進を強く呼びかけたこともあり、テレビでも盛んに報道された。企業もそれに呼応した動きを見せる中、仕事と生活の両立支援を打ち出す企業に女子学生だけではなく、男子学生の応募も増加した。

当時の採用面接で男子学生から「御社の育児休業期間はどれくらいですか」と聞かれて驚いた人事担当者もいたほどだ。おそらく両立支援策が充実している会社ほど「社員にやさしい企業に違いない」と考えたのではないか。

そして今年は少し前のブラック企業と併せて電通の長時間労働問題が連日のように大きく報道されたこともあり、働き方に対する関心が高まっている。

すでに大学での説明会に参加した食品会社の人事担当者は「会社の事業内容や仕事のやりがいなどについて話しても、学生からは『定時に帰れますか』『残業時間はどれくらいですか』『社員の有給休暇の取得率はどのくらいですか』という質問が圧倒的に多かった。明らかに去年とは風向きが変わっている」と語る。

確かに過労自殺した電通の女性社員は入社後半年余りだっただけに学生にショックを与えた可能性もある。1995~96年生まれの学生の中には第1次電通自殺事件は知らない人も多く、有名な大企業でもそんなことが起きるのかと志望企業の労働時間や残業時間に敏感になっても不思議ではない。

実際に新卒ダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」を運営するi-plugが就活生に実施した「働き方」関する意識調査(2017年1月12日~18日)にも現れている。学生が最も気にしているポイントとして「長時間労働やサービス残業があるか」(59.9%)、「ブラック企業かどうか」(56.5%)、「有休休暇が取得しやすいか」(46.2%)がトップ3を占めている(複数回答)。

自由回答では「長時間労働やサービス残業があるか」に関しては「仕事は賃金を得るための手段と考えたい。自分のプライベートや家族など、その他の生活を犠牲にして働くことは避けたい」「働くためには身体が資本であり身体を健康に保つためには仕事と休息をバランスよく取らねばならないから」といったプライベートや健康への関心を表明している。

「ブラック企業かどうか」に関しては「近年、ブラック企業がマスメディアに取り上げられることが増え、自分自身の意識が根本的に変わった」「生きるために仕事をしているのに死んでしまったら本末転倒」といった明らかに電通の過労死事件を意識した声が挙がっている。

にもかかわらず、採用面接で「残業や休日出勤ができるか」を聞いている企業が36.6%に上ることが労働組合の連合が昨秋調査した結果でわかった。また「転勤ができるか」を聞いている企業も43.9%もあった。

勤務時間限定や勤務地限定の社員ならともかく、正社員でしかも総合職の採用であれば、仕事の繁閑によって残業や休日出勤が発生する当たり前である。法律上も労使で取り決めた時間外労働時間の上限(36協定)の範囲内で、かつ残業代を支払えば業務命令で働かせることができる。もちろん転勤も日本では企業の裁量に任されている。

だから他の企業は“残業・転勤含み”での採用が前提なのであえて聞くことはしない。ではあえて聞く企業の意図はどこにあるのか。調査した連合は「残業しにくい人が多い女性を採用しないことにつながる」点を懸念しているが、そればかりではないだろう。

残業なくしてはビジネスが成り立ちにくい企業も多いだろう。24時間フル稼働の運輸業や発注先での常駐勤務もあるIT・ソフトウエア業界だけではなく、取引先・顧客に対応する営業や販売主体の業種では定時に帰れること自体が難しい。企業にとっては残業が続いて短期間に辞められては困るという意識も働いているのかもしれない。

しかし、安易に「残業や休日出勤ができるか」と質問すれば、学生は残業が常態化し、場合によっては長時間残業が蔓延している企業かもしれないと思われる可能性もある。今年の就活戦線では墓穴を掘ることになりかねない。

例年のように「残業や休日出勤ができますか」と聞いたら敬遠されるかもしれない。逆に「1カ月の平均残業時間はどのくらいですか」「労働基準監督署の臨検や是正勧告を受けたことがありますか」「36協定の特別延長時間はいくらですか」と、突っ込んだ質問が来ないとも限らない。

それよりは長時間労働対策など働き方改革に取り組んでいる内容をまとめて、真摯に対応したほうが無難だろう。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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