角界最高位行司のセクハラ事件、企業ならどう裁かれるか

最近、角界でのセクハラ行為が大きな問題となった。同じことが企業で起こった場合どのように裁かれるか、人事担当者に聞いた。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

同性間でのセクハラ被害も増加

角界の現役最高位の行司である式守伊之助のセクハラ事案が話題になった。報道によれば巡業中の沖縄で未成年の若手行司に数回キスをしたり、胸を触ったりする行為におよんだという。

被害者の行司は被害届を出さなかったが、日本相撲協会は関係者への事情聴取のうえ、初場所から3場所の出場停止と自宅謹慎を命じた。伊之助本人から協会に辞職願が提出されているが、謹慎後に受理することにしている。

この事件は職務上部下に当たる弱い立場にある者になされた明らかなセクハラ行為というより、未成年にキスしているとすれば強制わいせつに当たるだろう。

セクハラは男性上司が女性部下に行うものというイメージがあるが、都道府県労働局に寄せられるセクハラ被害では同性間のセクハラも増えており、厚生労働省の男女雇用均等法の指針にも同性間の言動がセクハラに明示されるなど犯罪に変わりはない。

セクハラはパワハラに次いで2位

セクハラ自体も一向に減る気配はない。労働組合の中央組織である連合が実施した「ハラスメントと暴力に関する実態調査」(2017年11月16日)によると、職場で受けた、または見聞きしたハラスメントは「パワハラ」45.0%に次いで「セクシャルハラスメント」が41.4%と多い。誰から受けたかの質問でも「上司や先輩」が43.8%と最も多い。

セクハラの言動は様々だ。入社前後の飲み会の席で上司や先輩社員が「君かわいいね、彼氏はいるの?」と聞くのは完全なセクハラ発言だが、男性にも「彼女はいるのか、結婚はしないのか」と聞くのも同様に御法度だ。もちろんその程度によって会社が行う処分は違うが、伊之助が行ったわいせつ行為は「懲戒退職」処分に相当するだろう。

辞職願を提出したとはいえ、協会の処分は会社で言えば減俸と出勤停止であり、甘い処分といわざるをえない。それでなくても最近は厳しい処分を課す企業が増えている。

セクハラをすれば間違いなく降格

元銀行の人事部長は「セクハラをやったら絶対にアウト」と語る。「セクハラは今の時代は言語道断だし、間違いなく降格にします。そもそも女性と一対一で飲みに行くこと自体が完全にアウトです。上下の関係や既婚者の男性が部下の女性と一対一というのはありえない。もし2人でいるところを別の社員が見たら噂のネタにはなるし、ペナルティになる。当然に人事にも聞こえてくるし、それ以上の出世はありえません。セクハラにまで発展し、通報されたら間違いなく降格ですね」

処分するかはともかく、異性の部下との1対1の飲み会禁止は今では常識だ。

IT企業の人事部長は「異性の部下との1対1での飲み会禁止は今では当たり前です。管理職向けのコンプライアンス研修でも繰り返し、そのことは伝えています。1対1で飲んだら、たとえ何もなくてもセクハラで訴えられたら抗弁できません」と語る。

身に覚えがなくても、告発されたらアウト

実際にセクハラされたという理由で社内通報窓口を通じて告発された男性上司もいる。

食品会社の上司が部下の女性が元気がないので心配して食事に誘った。ところが相手の女性は上司が嫌いだったらしい。何回か食事に誘われた結果、セクハラされたと通報してきたそうだ。本人は身に覚えがないと主張したそうだが、酒の席でもあるし、真相はわからない。

同社の人事部長は「月に1回程度、社員の懲戒案件を裁いているが、セクハラで問題が起こるときは飲み会の二次会、三次会で一対一になってしまうことが多い。しかも1対1になると、口説きモードに入ってしまう男性は実際に多いですね」と語る。

セクハラを繰り返すと処分は重くなる

セクハラまがいの言葉をつい口走ってしまい、女性の部下から「その発言セクハラですよ」と言われる程度であれば、女性がセクハラ窓口に告発することはないだろう。だが、頻繁に繰り返すと告発されて何らかの処分を受けるのは必至だ。

IT企業の人事部長は「レベルにもよるが、まずアウト、懲戒処分は間違いないでしょう。レベルによっては1回ぐらいは大目に見てもよいケースもあるが、スリーストライク、3回目は完全にアウトでしょう。とくに役員がセクハラした場合は余計に厳しく、ワンストライクで辞職です。とくにセクハラなんかが株主総会で問題になったら大変ですから」と語る。

流通業の人事部長はセクハラを繰り返すと処分は重くなると言う。

「セクハラの場合は一定の禊ぎの期間をおき、たとえば1つの事件が発生し、3年以内で再び起こしたら退職を促すこともあります。かなり昔にやっていた場合はその時に出勤停止とか禊ぎも終わっているから大目に見ることはありますが」と語る。

外資系は処分が厳しく日本は緩すぎる?

運良く会社に留まることができたとしても昇進に響くことは先に述べたが、外資系企業ではとくに厳しく、たとえ社内不倫でも許されない。

外資系医療機器メーカーの人事部長はとくに厳しいのは役員昇進に当たっての“身体検査”だと言う。

「役員にする場合は必ず身体検査はします。一番わかりやすいのが過去の懲戒歴のチェックです。問題ありだなと思う人はまず避けます。外資系企業の身体検査では男女関係は必ずチェック事項に入っていますし、社内不倫のウワサが過去にあるだけでも見過ごすことはしません。その点、日本企業はそうでもないし、緩すぎると思います。男女関係のウワサが多い人が役員になっているというケースはよく聞きます」

社内不倫も関係がこじれると、怒った女性の側からセクハラされたと訴えるケースもあるようだ。触らぬ神に祟りなし。くれぐれも用心したい。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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