組織・人事

パワハラ、痴漢、不倫・・・、企業が直面する社員の不祥事への対応実態

パワハラ防止法の成立を受け、企業は今まで以上に社員犯罪やコンプライアンス違反などへの厳しい対応を迫られる。社員の不祥事にどう対応しているのかを企業の人事担当者に取材した。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

日本人材ニュース

パワハラ防止法成立

自動車メーカーの不正検査問題をはじめ企業の不祥事が目立っている。また、パワーハラスメント(パワハラ規制)やセクハラ規制の強化策を盛り込んだ法律が通常国会で成立するなど、従来以上に企業に対するコンプライアンスの視線が厳しくなっている。

民間企業では社員の不祥事に対しどのように対応しているのか。すでに社内にパワハラ規制を設けている会社も少なくない。大手食品メーカーの法務課長はパワハラをした社員の処分についてこう語る。

「すでに就業規則に『職務上の地位や人間関係の優位性において業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的に傷つける行為をしてはいけない』という規定がある。でも社員のパワハラの通報のうち、明らかに人権侵害のパワハラは半分、残りの半分は言われた本人も責任があり、処分まで発展しないケースだ。部下を育てたい思いで上司が多少きつい言い方をした場合は注意だけに留める。でもなかなか部下は納得しない。処分されるのは継続的に暴言を吐き、被害者だけではなく周囲もその人の言動に嫌な思いをしている場合に限る。懲戒解雇まではいかないが、減給処分に至るケースもある」

中には上司を追い落とすためのウソも

ただし、多くの上司はパワハラの事実を否定する。

IT企業の人事部長は「パワハラの加害者はどんなにひどい言動をしていても大体『僕はそんなことは言っていません』と否定する。そのためにも被害者本人や周囲の信頼できる人の話を事前に聞いて問いただす。具体的な発言した日時の状況をぶつけていくと、上司もしぶしぶ認める。事実関係がはっきりし、周囲にも悪影響を与えていたら降格処分もあり得る」と指摘する。

だが、中には上司を追い落とすためにウソの告発をする場合もあるという。製薬の人事部長はこう語る。

「気に食わない上司を追い出すためにパワハラをされた、という通報があった。しかも説得力を持たせるために複数の社員が同時に告発してきた。だが、よく調べてみたらパワハラの事実はなかった。告発した社員に『どういうつもりで告発したのか』と問い詰めて、そのときは注意だけにした。ただし、同じことをやったら『職場の秩序を乱した』という理由で厳正に処罰するからと警告した」

逮捕された社員は懲戒解雇か諭旨解雇が主流

会社の法律である就業規則には犯罪の種類に応じて処罰を定めた懲戒規定がある。最も重いのが懲戒解雇、続いて諭旨解雇、降格、減給、出勤停止、譴責だ。

懲戒解雇は「刑法その他刑事罰に該当する行為」に限定され、犯罪事実が明白になれば解雇される。一般的には社員の告発があれば社内の倫理委員会や懲罰委員会に報告し、それから調査に入る。いきなり加害者に接触することはなく、被害者や周囲の人間の話を聞いて証拠を固めてから本人を尋問するという流れだ。

最近では総合商社の社員が就活中の女子学生に対し性的暴行をしたことが話題になったが、当然、懲戒解雇となる。

製薬業の人事部長は「社員が刑事事件を起こして逮捕されると懲戒解雇か諭旨退職になる。比較的軽い罪でも諭旨退職を迫るが、それでも聞き入れない場合は懲戒解雇にする。たとえば児童買春で逮捕されたら即解雇だ」と指摘する。

冤罪でも解雇に陥る可能性

問題になるのが痴漢で逮捕されるケースだ。

サービス業の人事部長は「痴漢でも刑事事件になると危ない。ただ、中には罪を認めて略式起訴で5万円の罰金を払ってすぐに出てくるケースもあるが、その場合は会社にはわからないので処分のしようがない。逆に『私はやっていない、冤罪だ』と否認し、3日間取り調べを受けたケースがあった。会社に出勤せず、居場所がわからないために行方不明状態になった。結局ばれたが、たとえ冤罪でも解雇になる可能性がある」と厳しい。

会社が最も気にするのは外部に知られて、イメージダウンになることだ。人事部長はこう語る。

「就業規則にある『会社の信用を著しく傷つける行為』とは、要するに犯罪が『外部に漏れて会社の名前が出た場合』という意味だ。たとえばセクハラでも『私、お尻を触られました』と、労働局に訴えたり裁判沙汰になれば、会社の信用を著しく傷つける行為に該当する。懲戒解雇もあり得るだろう。表に出なければ異動させるなどの処分で終わる場合が多い。要するに外部に漏れなければ甘い処分もある」

役職によって懲罰内容が異なる場合も

また、同じ犯罪でも平社員と幹部では処罰が違うと語るのは食品メーカーの法務課長だ。

「たとえばグループ企業の社員が痴漢行為をしたとか、暴力行為で警察沙汰になった場合、一般社員と幹部社員とで対応が違う。部長クラスが私的時間内で痴漢行為や児童買春で新聞に名前が出れば「会社の信用を著しく傷つける行為」として懲戒解雇にする。だが、平社員が痴漢の容疑者になり、本人が否認している場合は事実が確定するまで処分は下さない。揉み消すわけではないが、会社として公表することもない」

ちなみに会社によって対応が異なるのが社内不倫だ。大手メガバンクの中には不倫が発覚した時点で異動させる場合もあるという。食品メーカーの法務課長はこう語る。

「社内不倫をしているだけで、今まで処分したことはない。妻子持ちの男性社員が社外で不倫をしている場合はそれほど問題にしない。つまり私的時間内の非違行為なのか、社内の秩序を乱す行為なのかに分けて考えている。仮に某部署の部長と秘書役の女性が不倫をしているのを見たという通報があった場合、そのことを職場の誰もが知っていて、嫌な思いをしていれば調査に入るだろう。不倫の事実が判明し、部長の信頼が職場で失われていれば役職の剥奪や降格の処分をすることになる」

これに対してサービス業の人事部長は「噂になっている程度だったら何もできない。職場内の不倫が周囲に知られていても問題にすることはない。ただし、業務に支障を来すようなことがあれば別。痴話ケンカ状態になっているとか、奥さんから電話がかかってきたとか、職場に迷惑をかけているようであれば調査に動き出す」と指摘する。

いずれにしても今後、社内不祥事やパワハラなど社員の犯罪に対する処罰は厳しくなっていくことが予想される。くれぐれも気をつけてほしい。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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