人材採用

2020年 人事動向の振り返り

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって企業経営を直撃しただけではなく、働き方にも大きな影響を与えた。コロナ禍で人事担当者はどのような対応を迫られたか、今年1年間で起こった人事動向を振り返る。(文・溝上憲文編集委員)

日本人材ニュース

働き方が大きく変わった1年

出社制限よって在宅勤務を軸とする働き方に変わり、コロナ前は定時に全員揃って出社していたが、出社する社員も半分、しかも時差通勤で出社も退勤もバラバラになり、職場の風景も大きく変わってしまった。

その節目は緊急事態宣言だ。解除されるまでの約2カ月間、多くの企業は自粛による在宅勤務を余儀なくされた。5月末の解除以降、徐々に出社が始まったが、従業員の中には不可解な”現象”も発生した。広告業の人事部長はこう語る。

「6月から週2~3日は在宅という50%ルールを目標に在宅勤務を維持することになった。自粛明け初日は待ってましたとばかりに一斉に出社してきた。一方で退職届を出してきた社員が若干名いた。感染するのが怖くて出社したくないというのが理由だ。さらに驚いたのは出社2日目に『うつ病で会社に来れません』と40代の男性社員が医師の診断書を持ってきたこと。コロナ鬱とか在宅鬱と言われるが、在宅が長すぎたせいなのか、原因がよくわからない。今までにないことでありとまどってしまった」

就活中の学生にも多大な影響

感染拡大による影響は、企業の従業員ばかりではない。コロナ禍で業績低迷による採用予定数の削減や採用中止が就活中の学生を直撃した。航空・観光・旅行・宿泊・外食・アパレルなどへの就職を目指していた学生は進路変更を余儀なくされた。東京都内の私大の外国語学部や観光系学科はCA(客室乗務員)など航空会社やホテル業の志望者が多い。ANAやJALなどに就職実績を持つが、今年は5月以降、相次いで採用を中止した。

同大学のキャリアセンターの担当者は「学生の中には入学した頃からCAを目指していた人もいる。航空各社はすでに説明会を開催し、一部は面談も開始していたところもある。5月に入りANAグループが中断を発表したが、JALグループは通常通りやると言っていたのでANAを目指していた学生は『ではJALでがんばります』と言っていた。ところが2週間後にJALが採用中断となったが、学生にとっては二重のショックだった」と、学生の落胆ぶりを語ってくれた。

志望職種や企業の採用中止で来年の就活を期すこともできるが、「大学としてはCAを目指す学生には『結構中途採用もあるよ。培った語学力やホスピタリティを発揮できる企業に一回就職し、中途採用が出たときに再チャレンジしてはどうか』とアドバイスした。ホスピタリティは顧客と接する機会の多いサービス業でも生かせる。面談しながら徐々に気持ちを切り替えさせるようにした」と語る。

在宅勤務中は家庭内感染が増加

新型コロナウイルスは夏にはいったん収束すると思われたが、秋以降も再び感染拡大に転じた。各社はBCP(事業継続計画)に沿って感染予防対策を行っているが、従業員の感染も徐々に増え、予防対策というより感染者の対応に追われはじめた。

最大の盲点は在宅勤務中の家庭内感染だ。大手イベント会社では在宅勤務中の部長が感染した。すぐに自宅待機を命じ、本人は入院。保健所と連絡を取りながら2週間前からの行動履歴を調査したところ、1回出社し、会議に参加していたことがわかった。参加者全員が濃厚接触の疑いがあるということで2週間の出勤停止とし、全館消毒を実施した。ところが、ようやく一安心というところに想定外の事態も発生した。

同社の人事担当者は「社員の感染をホームページで社外に告知したところ、取引先から各部門に問い合わせが殺到し、中にはまったく関係のない部門の担当者が『うちに来るならPCR検査を受けて来い』と言われたらしい。検査費用が高く、全員はとても無理なので、しかたなく会社負担で担当部署の社員を受けさせた」と語る。

また、教育・研修会社でも家庭内感染が発生した。同社の社員は息子から感染したが、最初に発熱した息子に続いて父親も発熱。その後、息子と一緒に会食した友人が陽性と判明し、濃厚接触者である息子も感染が疑われたが、保健所からPCR検査の許可がなかなか下りず、自費で検査を受けて陽性と判明し、会社に連絡してきたという。会社は社員に感染者が出たことを社内外に告知したが、社員は感染の前後は2週間以上在宅勤務中だったために職場の消毒の必要もなくてすんだ。

しかし、想定外の事態も発生した。同社の人事担当者は「社員の感染者が出たというだけで部署名と名前は個人情報なので通知しなかった。人事部としては感染経路もわかり、在宅勤務中で他の社員が感染することはないとわかっていたが、社員がどの部署の誰なのかわからないために自分も感染しているのではと騒ぎ出した。人事部には『取引先にどこまで伝えていいのか、わかっていれば教えろ』という突き上げもあった。社内で協議し、結果的に本人に了解を取り、また保健所のお墨付きを得て社外に口外しないことを条件に社員に知らせてようやく沈静化した」と語る。

家庭内感染は必ずしも子どもから感染するとは限らない。ある倉庫会社では最近、同居の両親が感染し、息子の社員が濃厚接触者として2週間の自宅待機中という話も聞く。一方、対面営業主体の企業は感染対策にも限界がある。

住宅販売会社の人事担当者は「営業部門はお客さんが来いと言えば行くしかないし、現場に出向いてなんぼの世界。実際には70%近い社員が外に出ている」状況にあると言う。社員の感染者も徐々に増えており、これまでに全国で8人の感染報告がある。

コロナ禍が続くなかで、いかに対策をとるか

こうした事後的対応しかできないことにいらだちも隠せない。

人事担当者は「予防対策には限界があり、正直言って防ぎようがないのが実態だ。消毒作業をするにも今は消毒業者が手一杯で混んでいる。今日発生しても明日に来てくれる保証はないらしい。社内イントラネットで感染予防情報を流し続けているが、それでも家庭内で感染すれば防ぎようがない。発症の2日前から感染力が上がると聞いているが、本人も感染していることを気づかずに、発症2日前に出社し、多くの人と接触していたら被害も大きくなる」と語る。

新型コロナウイルス感染者は全国的に増加しているが、社員の感染者の増加は当然、今後の事業の継続にも影響を与える。

コロナに振り回された1年だったが、コロナ禍は来年も続くことは確実だ。先が見通せない中で人事担当者の悩みは尽きない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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