人材採用

バイリンガル人材の採用激化 「攻め」の採用で候補者を発掘

外資系企業が必要とするバイリンガル人材の採用競争が一層激しさを増している。従来の採用手法だけでは十分な応募を集めることが難しくなっており、必要な人材を確保するためには潜在的な候補者にもアプローチしていくことが欠かせなくなっている。(文:日本人材ニュース編集部

バイリンガル人材の採用激化 「攻め」の採用で候補者を発掘

人材採用に苦しむ外資系企業が増加している。経済産業省の「外資系企業動向調査」によると、日本で事業展開する上での阻害要因として「人材確保の難しさ」を挙げた企業は前年比4.1ポイント増の53.6%となり、初めて5割を超えた。

外資系企業が特に必要とするバイリンガル人材の不足感は強く、給与水準は上昇している。外資系人材紹介会社ロバート・ウォルターズ・ジャパンの「給与調査2019」によると、専門スキルを備えたバイリンガル人材の転職時の給与水準は前職に比べ平均10~19%上昇したことが明らかになっている。

バイリンガル人材の需要が高まる背景について、同社のジェレミー・サンプソン社長は「技術革新に加えて、国内企業の海外事業の拡大、海外拠点の増強と外資系の新規参入・国内事業拡大、クロスボーダーM&Aの増加などグローバリゼーションの流れも加速しています」と指摘する。

バイリンガル人材を必要とする日系企業が増加

海外ビジネスの拡大を重要な成長戦略と位置付ける日系企業では、以前に比べ高い語学力を備えた人材を一層必要とするようになった。

重要なポジションの採用で外資系企業に負けない給与水準を提示する企業も出てきており、「外資系企業よりも日本のグローバル企業を転職先として優先的に考えるバイリンガル人材が増えている」(人材紹介会社幹部)

インバウンド需要に伴うバイリンガル人材のニーズも拡大している。中国や東南アジアからの観光客が日本製品を買いまくる“爆買い”は落ち着いたが、今年上半期の訪日客数は前年同期比4.6%増の1663万人に達し、過去最高となった。

日本貿易振興機構の調査によると、約6割の企業が訪日外国人向けビジネスの拡大に意欲を示しており、ホテル・旅行関連、免税小売店の出店や売り場面積拡張に伴う多言語対応が可能な販売員や商品説明のためのコールセンターなどの求人も多い。

バイリンガル人材の採用で日系企業と外資系企業が競合

●日系企業の海外ビジネス(輸出・海外進出)の課題

日本人材ニュース
(出所)「2018年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(日本貿易振興機構)

外資系企業の対日投資が拡大

日本に進出する外資系企業が増えていることもバイリンガル人材の需要につながっている。主な外資系企業の情報を網羅している「外資系企業総覧2019」(東洋経済新報社)の掲載社数は前年比20社増の3224社。新規収録企業は118社で、掲載社数の増加が続いている。

人材サービス会社パソナの関大樹グローバルサーチ事業部長は、日本に新たに進出してくる外資系企業の採用動向について次のように話す。

「多くの進出企業が最初に必要とするのは国内営業のネットワークを構築できる業界知識と人脈を持つ方であり、そのような人材は採用のニーズが非常に高く、引く手あまたです。もちろん本国とコミュニケーションを図るための高い語学力は欠かせません。また最近はIT分野で日本のマーケットに拡販をしたいという企業が増えており、それに伴い、一気に事業成長するために大規模採用を目指す動きも見られます」

また、欧米企業だけでなくアジア企業の進出が増えており、最近も中国ネット大手テンセントがクラウドサービス事業で日本市場に参入したり、車載電池の世界最大手、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が住宅・産業向けに低価格の蓄電池を日本で発売すると発表した。

外資系企業の設備投資額は過去5年でほぼ倍増し(経産省調べ)、日本での研究開発・製造、営業・サプライチェーンの体制強化、日系企業への資本参加やアライアンスなどの動きが活発になれば人材需要はさらに拡大する。

●外資系企業の雇用見通し

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(出所)外資系企業動向調査(経済産業省)

応募を待つだけでなく、 潜在的な候補者にもアプローチすることが必要

日本の人材不足は慢性化しており、優れたスキルと経験を持つ候補者には複数のオファーが集中し、従来の採用手法では人材を確保できない企業が続出している。一方で採用担当者は採用業務の効率化や採用のスピードアップも図らなければならない。

こうした課題を解決するため、採用チャネルの多様化やプロセスの最適化などを支援する新しい手法を提供するサービスも出てきている。そのため、これまでの「待ち」から「攻め」の採用手法へ転換し、候補者を積極的に発掘する企業が成果を上げている。

そして、企業が候補者に直接アプローチするダイレクト・リクルーティングへの採用担当者の関心は年々高まっている。

外資系・グローバル人材専門の求人サイト「キャリアクロス」を運営するシー・シー・コンサルティング社長の平山博之氏は「これまでは規模が大きい外資系企業だけが取り組んでいましたが、現在では日系企業でも広がっています。採用競争が激しさを増す中で必要な人材を採用するためには、求職者からの応募を待つだけではなく、潜在的な候補者にもアプローチしていくことが欠かせなくなっています」と話す。

ダイレクト・リクルーティングでは、これまで人材紹介会社に任せていた「候補者集め」と「候補者とのコンタクト」を採用担当者が担わなければならない。候補者を集めるには、自社サイトの採用ページの最適化、有効な求人メディアの選択、SNSの活用、リファラル(社員紹介)の強化、候補者データベースの構築などが必要になる。

採用が必要になったら、データベースから最適な候補者を抽出してメールや電話で連絡を取るが、候補者は転職希望者でないこともあるため慎重に接触して面談を説得しなければならない。

求人サイトを利用する場合は、登録者にスカウトメールを出す機能があるのでふさわしい人材を探してアプローチする。この場合は相手が転職希望者であるためコンタクトは容易だが、他の企業や人材紹介会社も同じデータベースを閲覧しているため他社より早く連絡を取ったり、候補者から返信があるような関心を持たれるスカウトメールを出して面談に導く。

例えば、「キャリアクロス」ではサイトオープン時からスカウト機能を備えていたが、従来は主に人材紹介会社による利用が想定されていた。今は、企業の採用担当者がいかにスカウト機能を上手く使いこなせるかが重要になっているという。

そして、採用の成功につながっている企業は「企業紹介特集ページで積極的にPRしたり、求人の魅力やキャリアステップを募集要項やジョブ・ディスクリプション(職務記述書)にしっかり記載するといった工夫を行っています」(平山氏)

早期から学生に接触し、インターン参加者を獲得

新卒採用でもバイリンガルの学生に対して積極的にアプローチする外資系企業の動きが見られる。インターンシップに力を入れ、早期から優秀な学生への接触を図る有力な日本企業が出てきたことで、採用の競争相手が増えているからだ。

人材サービス会社ディスコがバイリンガル人材の就職活動のために毎年開催している「キャリアフォーラム」は、開催地をボストン、ロサンゼルス、サンフランシスコ、東京、大阪、ロンドン、シドニー、上海へと拡大している。

同社グローバル営業推進部の山﨑真司副部長は「キャリアフォーラムにはフルタイムのポジションはもちろん、インターンシップポジションや企業研究を目的とした学生も多く参加しています。そのため、出展企業側も翌年度の入社だけではなく、インターンシップ参加者の獲得を狙いとするケースが増えています」と説明する。

日本での知名度不足は外資系企業の採用の大きな悩みとなっているため、同社はイベント型のキャリアフォーラムだけでなく、「オンラインキャリアフォーラム」を開設して、バイリンガル人材向け求人掲載やスカウトサービスに力を入れる。

スカウト機能でバイリンガル人材にアプローチ

●外資系・グローバル人材専門の  求人サイト「キャリアクロス」

日本人材ニュース
日本人登録者の71%がビジネス英語レベル以上

●バイリンガル向け求人サイト 「オンラインキャリアフォーラム」

日本人材ニュース
バイリンガルの学生・転職希望者約10 万人が登録

RPOで、採用のスキル・マンパワー不足を解決

「攻め」の採用へ転換して成果を上げていくためには、これまでのリクルーティング体制では不十分なことが多い。専任のリクルーターを配置する企業も出てきているが、採用の専門スキルを備えた人材を確保するのは簡単ではない。こうした企業に対して、採用力を高めるためのコンサルティングや採用業務のアウトソーシングを提供するのがRPOサービスだ。

例えば、大量採用の募集や応募者管理の業務を一括でアウトソースすれば採用部門の省力化が期待できる。また、採用活動全体の最適化の実現を目指したい場合は、採用ターゲティングの設定、競合他社や人材市場の情報収集、採用プロセスの整備、社内の採用への協力体制づくり、さらに採用後の定着支援までサポートしてもらえる。

外資系企業の相談状況について、人材紹介会社エンワールド・ジャパンでRPOサービス「enPower」の責任者を務める西沢サムエル氏は「採用コストの低減や採用期間の短縮を迫られている日本オフィスから、人材紹介に依存した採用手法やリクルーティングプロセスを見直したいという相談が増えています」と話す。

同社ではこうした相談に対して包括的なサービスで応えており、「グループ会社エン・ジャパンが運営する大規模な求職者データベースやHRテクノロジーのプロダクトを活用できる強みがあります。オンサイトリクルーターを顧客企業に派遣するだけでは成果を上げることが難しいため、ソーシングやデータ分析の専門家などを揃えた組織体制をオフサイトに構え、サポートの強化を図っています」と説明する。

RPOは一般的には採用代行とも言われるが、人材会社によってカバーする領域が異なるため、自社の採用の実情に合わせてサービス内容を見極めて活用することが必要だ。

専門性の高い人材コンサル タントと信頼関係を築くための活動が欠かせない

本国から日本の採用コストの高さを指摘され、ダイレクト・リクルーティングに取り組み始める外資系企業も増えている。採用コンサルタントとして活動するキャリアエピソード社長の備海宏則氏はその現状を次のように話す。

「グローバル統一の人事管理システムの導入が進む外資系企業で日本オフィスに対する採用コスト低減のプレッシャーは強まっていますが、ダイレクト・リクルーティングで成果を上げている企業はまだわずかでしょう」

ダイレクト・リクルーティングに本格的に取り組んでいる企業は人材会社出身者を採用担当者として新たに採用するなど体制を拡充していることが多い。採用体制が不十分だったり、ダイレクト・リクルーティングだけで採用ができない場合は、その他の人材サービスを併用する必要がある。コストを低減したいという動機だけで取り組むと採用担当者の負担ばかりが増える。

特に高度人材の採用は困難を極めており、人材紹介会社でも候補者を確保するのに苦労している。人材紹介は成功報酬だからといって人材コンサルタントの専門分野を理解せずに求人を出していては、いつまで経っても採用は上手くいかない。

候補者の絞り込みをする人材コンサルタントには、求人内容や背景、社風やキャリアパスなどを正確に伝える必要がある。付き合いの浅い人材紹介会社に求人案件をメールで一斉送信しても意図はまったく伝わらず、優先的に人材を探し出してもらえるはずがない。

「デジタル分野をはじめ、より高度なビジネスに対応できる人材の採用が必要となっています。専門性の高い人材コンサルタントをパートナーとするためには、人材紹介会社の情報を常に収集し、コンサルタントと事業部門責任者とのミーティングを設定するなど、信頼関係を築くための地道で継続的な活動が欠かせません」(備海氏)

今、日本の採用市場は人材争奪戦で従来の採用手法だけでは応募者が集まらない。複数の企業からオファーを受ける候補者も多く、内定辞退も続出している。必要な経験やスキルを持った人材を獲得するためには、さまざまな採用手法を適切に組み合わせて自社の採用力を高めることが急務となっている。

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