人手不足を背景にパート・アルバイトの正社員化を打ち出す企業が相次いでいる。その一つが転居を伴う異動がない「地域限定正社員」であるが、厚労省の有識者懇談会の報告書では正社員と限定正社員の転換制度や均衡処遇がテーマとして提起されている。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部)
ファーストリテイリング傘下のユニクロは、約3万人のパート・アルバイトのうち1万6000人を「R(リージョナル)社員」(地域正社員)に登用する予定だ。また、日本郵政グループも「地域限定正社員」(新一般職)制度を導入。地域限定正社員は、転居を伴う転勤や役職登用もない標準的な業務を行う社員(自宅から通勤可能なエリア内での転勤あり)とし、今年4月までに約1万1000人の月給制契約社員のうち4700人が地域限定正社員に転換しているが、今後も増やしていく予定だ。
正社員化によって非正規に比べて処遇が向上し、雇用が安定することは働く人にとって魅力であり、企業にとっても人材の確保と定着につながる。政府の成長戦略にも勤務地限定を含む多様な正社員の拡大が盛り込まれている。だが、こうした雇用形態が導入されることは結構だが、身分や処遇がこのまま固定化されるのでは意味がない。
折しも限定正社員の雇用管理上の留意点を検討している厚労省の「多様な正社員の普及・拡大のための有識者懇談会」の報告書が7月30日に出された。この中でも「転換制度と均衡処遇」は重要なテーマになっている。転換制度については、転換の仕組みを社内制度として明確にし、本人の希望で正社員から多様な正社員への転換だけではなく、多様な正社員から正社員へも再転換できることが望ましいとしている。
具体的には、企業ごとの事情に応じて、転換制度の応募資格、要件、一定期間中の回数、実施時期等についても制度化することが雇用管理上の留意点だ。また、勤務地が限定されていても、その範囲や習得できる能力などが正社員と大差がない場合は「キャリアトラックの変更」として正社員と多様な社員を区分するのではなく「労働条件の変更」として取り扱うことが適切な場合もある。
そのような場合は、適切な人事評価を前提に、職務の経験、能力開発、昇進・昇格のスピード・上限に差を設けない、あるいはできるだけ小さくすることが考えられる。
均衡処遇については、多様な正社員と正社員の間の均衡の処遇を図ることが望ましいとしながらも、多様な正社員の処遇についてはいかなる水準が均衡であるかは一律に判断することは難しいため、企業ごとに労使で十分に話し合って納得性のある水準とする考え方が示されている。
また、労働契約法20条は有期契約労働者と無期契約労働者との間の不合理な労働条件を禁止し、3条2項で労働契約は「就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきもの」と規定しているが、報告書では20条については新たに多様な正社員と通常の正社員の間にも同様の規定を設けることは将来的な課題としつつも、3条2項は正社員と多様な正社員の間の均衡も含まれるとする解釈を広く周知することとした。
ところで、勤務地限定や職務限定の社員の場合、勤務地の事業所や職務が廃止されたら、いわゆる整理解雇4要件の「解雇回避の努力義務」がなくなることを政府の有識者会議や経団連は期待し、できれば法定化することを求めていた。
報告書では「高度の専門性を伴う職務や他の職務と明確に区別される職務に限定されている場合は、配置転換に代わり、退職金の上乗せや再就職支援によって解雇回避努力を尽くしたとされる場合もある」としたものの、「勤務地や職務が限定されていても、事業所閉鎖や職務廃止の際に直ちに解雇が有効となるわけではなく、整理解雇法理(4要件・4要素)を否定する裁判例はない」とし、勤務地限定や高度の専門性を伴わない職務限定などにおいては、解雇回避努力として配置転換が求められる傾向にあるとしている。
つまり、現状では勤務地・職務限定の社員であっても解雇することは難しいとの見方を示している。今後、人手不足に限らず、労働契約法に基づく通算5年超の有期契約労働者が無期に転換する場合の受け皿として地域限定正社員が増えてくることが予想されるが、処遇の固定化を防ぐための仕組みが必要だろう。