富士通は、通信システム、情報処理システム、電子デバイスの製造・販売とその関連サービスを提供している。「育成と対話」を基本方針に、多様なインターンシッププログラムを展開し、成長できる資質を持った人材を厳選する採用活動を行っている。同社人事部人材採用センター長の田籠喜三氏に採用戦略を聞いた。
富士通
田籠 喜三 人事部 人材採用センター長
「海外」と「ITサービス分野」での成長がコア・コンピタンス
富士通は、ITを活用する顧客の戦略的パートナーとして、顧客の経営課題の解決に努めることをビジネスの柱としている。したがって、高い専門性と技術力が不可欠で、そのリソースを共有することで生まれるシナジー効果が同社の高い総合力の源となっている。
事業内容は、サーバーやパソコン、デバイスなどを製造するメーカーとしての側面と、ITシステムの構築から保守、サポート、アウトソーシングなど広い意味でのITサービス業という二つの側面に分けられる。
事業規模はほぼ半々だが、現在、成長が著しいのはIT サービス分野である。従業員は、グループ全体で17万人。うち国内が10万人、海外が7万人で、売り上げも人員も海外が伸びている。
「海外」と「IT サービス分野」での成長が富士通のコア・コンピタンスになっており、グローバルにサービスを提供できる人材ならば、どこの国の人であっても良いというのが基本原則。今は現地法人が独自に採用活動を行っているが、それを共通化しワールドワイドに展開していく方向に向かいつつあるという。
「スキル」「ポテンシャル」「マインド」を求める
富士通の成長分野と位置づけられているITサービス分野は、当然のことながら人材がリソースとなる。そこではどのような資質を持った人材が求められているのだろうか。
「ずばり、高いスキルとポテンシャル、そしてマインド(情熱)を持った人です。当社は、多くのベンダーと協力してシステムを提供しています。一方で、ITはグローバル・スタンダードという側面を持っていますので、国内だけでなく世界の市場に流通している多様なソフトウェアの技術に精通した人材が求められます。
ポテンシャルとは、社会人として行動を起こす力、考える力、チームビルディングの力、この3つの基礎力を持っていてほしい。そして、ひとたび顧客と契約を結べば、サービスは10年間といった一定期間にわたって継続することになるので、やり始めたら責任をもってやり通す、社会を支え、社会に貢献するのだというマインドを持ってほしいですね」(田籠氏)
採用には新卒、グローバル、キャリア、障がい者などがあるが、中心は新卒採用である。グループ全体で2000人、富士通単独で600人ほどを採用している。1990年代後半は単独で700人~800人を採用してきたが、ITバブル崩壊を機に400人弱にまで減り、その後徐々に増やしてきた。
「800人規模に戻さないのは、大学生の数や当社の企業力を考慮すると、600人が質にこだわる限界だと思っているからです。これ以上パイを広げると、上に行かず、下に向かうので質が落ちてしまう。無理な採用はやめようとの考えからです。職場からの要求は多いのですが、キャリア採用や外注など、多様な労働力確保でカバーしています」(田籠氏)
「育成と対話」が採用の基本方針
富士通では、採用の方針として「育成と対話」というキーワードを掲げている。単に優秀な人材ということであれば、東大など大学のレベルで採用していけばこと足りる。
しかし、優れた頭脳を持っていても、ハートが死んでいてはパフォーマンスは上がらない。成長の伸び代がある人材を採用し、育てていく・・・そういう風土や社風を人材育成の入口である採用活動で打ち出していこうと考えているのだ。
その採用活動でもっとも重要な位置を占めるのが、各種のインターンシッププログラムなのである。
「富士通が5兆3000億円を売り上げる企業だといっても、何をしている会社なのか学生には分かりづらい。富士通が、ITを通じて社会の縁の下の力持ちの役割を果たしている会社であることを1人でも多くの学生に知ってほしい。その意味で、学生時代にインターンシップを通じてリアルな現場を経験しておくことはとても有益です。いくつかのプログラムを用意して、採用に活用しています」(田籠氏)。
できるだけ多くの学生に会う
インターンシップには「プロフェッショナルインターンシップ」「サマーインターンシップ」「スプリングインターンシップ」の3つのタイプが用意されている。
実際の職場に入って、現行のプロジェクトを経験するのがプロフェッショナルインターンシップだ。高い専門性が要求されるので、研究・開発やリーガルスタッフなどの特殊な職場に限られる。7~1月まで、200人ほどを全国の主要事業所で3週間にわたって受け入れている。
大学の夏休みに合わせて行われるサマーインターンシップは、東京、大阪、福岡などの主要都市で5日間にわたって行われる。
参加者は5~6人のチームに分けられ、手のひら静脈認証技術を使った新しいビジネスの提案や、行政システムのサービス向上の提案など、リアルなIT系のテーマを与えられ、討議や発表を通じてチームワークやビジネスプロセス(PDCAなど)を身につけることができる。
例年800~1000人が参加しているが、2008年度は1600人程度にまで増やす予定だという。
選考シーズンが迫った2~3月に行われるのがスプリングインターンシップである。入社後に何をやっていいかわからない就職希望者に実際に「やってみる機会」を提供するもので、「職場受入型」と「ワークショップ型」の2種類のスタイルを用意し、数百人を対象に行っている。
こうした3種類のインターンシップの参加者は約2000人。それだけでは足りないので、100人ほどが参加する3~4時間の「富士通カレッジ」というセミナーを11~2月にかけて集中的に行っている。ここへの参加者は延べ1万人にも上るという。
「いくらポテンシャルが高くても、業界や会社のことを知らない人は採用できないし、正しい採用に結びつきません。面接を開始したときにちゃんとした会話ができるようにしておきたい。そのために、インターンシップや富士通カレッジを通じて、できるだけ多くの人に会うことをもっとも重要視しています」(田籠氏)
インターンシップは採用活動に大きな効果
インターンシップや富士通カレッジの参加者1万2000人のうち、面接に進むのは7000~8000人にも及ぶ。その中から、最終的に600人の採用者が選ばれることになる。600人の内訳は200人が文系で、営業職とSEが半々の割合となる。
理系400人のうち300人が研究・開発、100人がSE部門に配属されるという。このほかに、日本に来ている外国人留学生を対象としたグローバル採用も実施しており、毎年30~50人の新卒者を採用している。
田籠氏は今後の採用活動について、「インターンシップは、現場経験や先輩社員との対話を通じ、学生の職業感の醸成及び自社の採用活動に大きな効果があります。職場の協力など相当の労力を要しますが、全社をあげてこれからも力を注いでいきます。また、内定者を対象にしたインターンシップも検討中であり、育成と対話を更に徹底していきたい」と意欲を見せている。