弁護士による労働法解説

会社が活用できない従業員を「能力不足」を理由に解雇することはできるのか?能力不足による普通解雇が認められるには

近衞 大

近衞 大 KKM法律事務所 弁護士
経営者側労働法を多く取り扱う。人事労務に関する諸問題や労働事件の各種手続での係争案件、組合問題対応、民事事件の多様な案件に対応。
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解雇

解雇にまつわるトラブルは、どの会社にもつきものです。また、その中でも従業員の能力不足を理由にした解雇は判断が難しい上にトラブルに発展しやすい内容です。

それではどのような場合に能力不足を理由にした普通解雇は認められるのでしょうか。 本件では「能力不足」従業員の普通解雇について、KKM法律事務所近衞大弁護士に概要やトラブルを避ける方法について解説してもらいます。

使用者には解雇の自由があるが、濫用的行使は無効。その基準は非常に不明確

解雇とは

解雇とは、使用者の一方的意思表示による労働契約の解約のことをいい、懲戒解雇、普通解雇の二種類があります(いわゆる整理解雇は普通解雇の一類型です)。

また、解雇に似て非なるものとして有期雇用労働者に対する雇止めがあり、これは定められた期間の満了による労働契約の終了の告知となります。雇用契約の継続している期間中に労働契約を終わらせる解雇とは異なるのです。

労働者に「退職の自由」が認められるのと同様、使用者には「解雇の自由」が保障されています(民法627条1項)。

もっとも、労働契約は信頼関係を前提とした継続的契約関係であり、その契約関係ができる限り維持されることを予定しています。しかも、労働者は労働契約により対価を得ており、解雇はその生活手段を一方的に奪う結果となります。

そこで、使用者の「解雇の自由」は法律上や労使自治の上で様々な制約を受けていますが(労基法3条、19条、20条、22条、雇用機会均等法8条、労組法7条1項、育児介護休業法10条、16条等)、そのような解雇規制によっても労働者の地位の不安定さは解消されません。  そこで、判例法理により構築されたのが解雇権濫用法理です。

解雇権濫用法理

解雇権濫用法理は多数の裁判例・判例により形成されたもので、現在は労働契約法16条に明文化されています。同条は、「客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇権の濫用として解雇は無効とする、とされており、判例の表現をそのまま用いているものです(最判昭50.4.25日本食塩製造事件)。

このように、使用者には解雇の自由があることを前提に、その濫用的行使は無効となるのですが、その基準は非常に不明確です。以下、特にその判断が難しい、いわゆる「能力不足」従業員の普通解雇を検討することとします。

解雇が有効とされるには、能力不足だけでなく会社がその労働者の人材をこれ以上活用できないという判断が必要

「能力不足」による普通解雇が認められる場合

まず、能力には潜在能力と顕在能力があり、技術や技能が未成熟な場合だけではなく、あっても発揮できない場合も含みます。そして、会社という組織を十分に働かせるためには、職場における協調性なども能力に含みますので、能力不足には適格性欠如も協調性不足も含まれることになります。そのような広い意味での能力が欠けている場合に解雇するのが「能力不足」を理由とする解雇です。

そして、大前提として解雇は「退職」に関する事由ですので、就業規則の絶対的記載事項となります(労基法89条3項)。

能力不足による普通解雇の場合、就業規則には「勤務成績または業務遂行効率が著しく不良で、改善の見込みがなく就業に適さないと認められたとき」などといった規定が設けられているのが通常です。

もっとも、この就業規則の要件も抽象的なので、その適用の判断は非常に難しい。判例も「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効になる」としており(最判昭52.1.31,高知放送事件。下線部筆者)、裁判例の趨勢も、単に能力が不足していることを理由とした解雇は理由として不十分であって、能力や適格性を向上する機会を与えても平均水準に達することが困難といえる場合等に限定しています(東地決平12.1.21ナショナル・ウェストミンスター銀行事件、東地判平12.4.26プラウドフットジャパン事件等)。

では、上記高知放送事件にいう「当該具体的な事情」というのはどういうものでしょうか。

客観的にわかりやすいのは、無断欠勤・遅刻が多いという数値的にあきらかな勤怠の不良です。営業成績が悪い、不良品の個数が多いなどの勤務不良もその不良性を数値化できますが、他の従業員との比較の上での不良の意味もありますので、会社によって判断は相対的となります。

また、勤務成績という場合、新卒採用のゼネラリストの場合と、即戦力の中途採用のスペシャリストの場合とでは会社の期待する能力や役割も異なりますので、不良か否かの判断基準も自ずから異なるでしょう。

しかし、重要なのは、解雇が有効とされるには、そのように判断された能力がない、能力が発揮できないというだけではなく、会社として必要な改善指導をしたが、それが改まらず、改善の見込みがあると判断するのが困難な場合まで求められるということです。これは、換言すれば、会社がその労働者の人材をこれ以上活用できない、という判断であることを意味するのです。

「能力不足」による普通解雇は人材を活用しきれなかった場合の会社の最終判断

適材適所を探る方法

このように、会社に利をもたらさない従業員は解雇できるというものではなく、利をもたらすべく従業員の改善指導が重要となります。

しかし、年功序列・終身雇用制を前提とした日本の労働法体系のもとでは、「経験を積めば能力も蓄積される」というフィクションで運用されていますので、多くの普通解雇を無効とする裁判例の基本的な考え方は、労働者には本来能力があるのでそれを活かせない会社の指導体制・管理体制に問題がある、というものなのです。

そして、改善指導に関する会社の指導体制、管理体制には、通常に行われる人事評価と、特別に当該労働者に対してのみ行われる改善指導(PIP等の業務改善プログラム)があります。

通常に行われる人事評価は非常に重要であり、従業員を適正に(プラスにもマイナスにも)評価することによりさらなる改善・発展を促してひいては会社を成長させることになります。そして、今能力が発揮できない従業員にも適材適所を探して発揮を促していくのが人事評価の本来の目的であることを忘れてはなりません。鉛筆をなめてなんとなく中間評価にしておけば良いという人事評価は労働者のみならず会社に成長ももたらしません。

そのような通常時からの人事評価による改善指導によっても労働者の能力が向上しない場合には、その労働者のためだけの業務改善プログラムを策定して、これを実行していくことが重要です。その在り方は多種多様ですが、一般的には短期的かつ客観的な目標を設定して、これが実現できるか否かの判断となります。その際には、どうすれば当該従業員の能力が活かせるかという人材活用の視点が重要となります。

そして会社の努力によっても従業員には会社の期待する能力が不足しており、改善する見込みがあると考えることが非常に困難と考えられる場合に、初めて就業規則上の普通解雇の要件が実質的にも充足した、といえるでしょう。

とはいっても、会社の判断はあくまでも主観的な判断ですので、これが客観的に裏付けられるか否かという点も、将来の紛争を予防するためには必要な視点です。

解雇紛争の予防策

法的な紛争となる場合には、民事紛争である以上客観的な徴表、つまり証拠が必要となります。

つまり、普通解雇の要件である「能力不足」や「改善の見込みがない」といった事由が可視化できるかという、客観的な証拠により裏付けられる必要があります。

まず「能力不足」の点については、勤怠の情況や成績の不良について会社が客観的に資料として把握していることが前提ですので、会社としてその管理体制が整っている必要があります。

また、「改善の見込みがない」という点については、上記の勤怠の情況や成績の不良を前提に、これを具体的に改善するための注意・指導の履歴が資料として会社が保持していることが重要です。例えば、平時からのメールや注意指導の書面、人事評価のフィードバック、業務指導書などがあり、口頭による改善指導だけでは全く足らないことになります。上記のPIPなどの業務改善プログラムも、適正に運用されている限りにおいて客観的な資料として非常に重要です。

もちろん、会社が普通解雇の要件が備わっていると判断しても、いきなり普通解雇せずに退職勧奨をすべきケースが多いといえます。労働契約は信頼関係に基づく継続的契約関係であり、解雇は信頼関係がなくなった、これ以上維持できないという宣言に等しいのですから、まずはあくまでも相互の未来志向に基づいて合意により関係を解消する方策を模索すべきでしょう。

まとめ

このように、普通解雇というのは、あくまでも会社の人材活用という局面の一場面なのです。

つまり、能力不足による普通解雇というのは、会社に利益をもたらさない者をクビにする、というものではなく、その特定の人材を活用しきれなかった場合の会社の最終判断であるということを理解する必要があります。

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