社労士による労務管理解説

労務トラブルを起こさない人材を採用する4つの対応ポイント【第3回】労務トラブルを未然に防ぐ!組織を成長させる人材戦略とは

山口 将司 社会保険労務士
社会保険労務士法人 山口人事労務オフィス 代表
1994年富士電機に入社し、一貫して人事労務部門の業務に従事。06年アクシスコンサルティングにてシニアコンサルタントとして人事紹介業で実績を挙げた後、11年社会保険労務士法人山口人事労務オフィス開業し、人事労務コンサルタントとして事業運営を行う。
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前回は労務トラブルについて、事例を挙げながらその問題点を列挙しました。

第3回は、労務トラブルが頻発する背景・トピックを整理しながら、労務管理が難しくなるそもそもの要因を探っていこうと思います。

労務トラブルが頻発する4つの背景とトピック

労務トラブル

労務トラブルが頻発する背景は、一概には言えないのですが、大別すると4点です。

1)インターネット・SNSなど情報インフラの進歩→社員が労務に関する情報を簡単に入手できる
2)会社と社員の関係性の変化→集団から個の時代へ
3)ハラスメントなどに関する法整備の促進→労基署などの対応強化
4)テレワークなど従来にはないワークスタイルの出現→会社は雇用管理方法を模索中

それぞれについて説明していきます。

インターネット・SNSなど情報インフラの進歩

以前は、労働法の知識や労務トラブルに関する対処法を社員があまり知らなかった(知るすべもなかった)のが、インターネット・SNSなど情報インフラの進歩により、これらの情報を簡単に入手できるようになりました。

それ故、社員が、会社の対応について、「おかしいな」と思ったら、Googleにキーワードを入れます。すると、多数の情報・対処法が出てきます。会社側と社員側で、労務に関する「情報の格差」が大幅に縮まったのが、労務トラブルが頻発する要因の一つと言えます。

会社と社員の関係性の変化

高度成長時代の土台となった終身雇用制も今や昔。社員が転職していくのは、当たり前の時代です。従来のように、会社と社員が一心同体の状況であれば、労務に関するトラブルの予兆があったとしても、社員側が、敢えて、表面化させないケースが多かったものです。

しかし、現代は個の時代です。社員一人一人が自分の権利を大事にし、会社の対応が法に則していない場合は、声を上げる(もしくは、退職してから声を上げる)ことを厭わなくなったことが、労務トラブル頻発の一因とも考えられます。

ハラスメントなどに関する法整備の促進

ハラスメント、その中でも特にパワーハラスメントについて言えば、パワハラ防止法が2022年4月から全面施行されている様に、世の流れとして「気をつけていこう」という雰囲気になりつつあります。その一方で、大企業・中小企業問わずパワハラの定義づけを分かっていない社員も多く、結果として、パワハラが起こってしまうのも実情です。

法整備が進めば、社員がインターネット環境下でそのことを知る機会も増えます。結果として、労基署・弁護士などへの相談が増えているという次第です。パワハラ→メンタル疾患による休職→労基署による労災認定→弁護士を通じた民事による請求、というパターンは、今の世相を反映した負の連鎖の代表例と言えます。

【参照】
厚生労働省が定義したパワーハラスメントに該当する6つの類型
・身体的な攻撃(暴行・傷害)
・精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
・人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
・過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
・過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること・仕事を与えないこと)
・個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
会社人事担当者で知らない方がいたら、内容を確認し、社内へ周知(場合によっては、研修を実施)してください。

テレワークなど従来にはないワークスタイルの出現

テレワークは、コロナ騒動の中で一気に普及しました。しかし、通勤時間・移動時間などの削減というメリットがある反面、以下のような課題も出てきました。

テレワークで感じた課題①【コミュニケーション・仕事とプライベートの区別】
●社内での気軽な相談・報告が難しく、また、画面を通じた連絡が中心となる働き方であり、労働者調査では、社内でのコミュニケーションが不足するということがデメリットや課題として挙げられている。
●また、勤務時間とそれ以外の時間との区別がつけづらいということもデメリットや課題として挙げられている。

テレワークで感じた課題②【労働時間】
●労働時間は減る人の方が多いが、増える人もおり、2極化している。
●今年の4月以降のテレワークの際に、通常の勤務よりも長時間労働になることが「あった」と回答した者が約半数。また、今年の4月以降のテレワークで残業代支払いの対象となる時間外・休日労働を行うことがあった者のうち、残業したにもかかわらず申告していないが「あった」と回答した者が6割超、残業したにもかかわらず勤務先に認められないことが「あった」と回答した者が半数超いる。

テレワークで感じた課題③【環境整備・社内制度】
●テレワークの利用拡大が進むために必要と思うものについて、労働者調査では、社内の打合せや意思決定の仕方や、顧客や取引先との打合せや交渉の仕方の改善、書類のやりとりを電子化、ペーパーレス化、社内外の押印文化の見直しが必要との回答があった。
●テレワークを実施した際の課題について、企業調査では、ネットワーク環境の整備やPC等機器の確保、労働者調査では、機微な情報を扱い難いなどのセキュリティ面の不安や通信費の自己負担が発生などの回答があった。
●また、企業調査では、労働者の自宅にインターネット環境が整備されていない、企業においてリモートで業務を行うためのシステム・ツールの導入が不十分などの理由から、在宅勤務ができない社員がいるケースがあるとの回答があった。

テレワークで感じた課題④【心理面】
●テレワーク時には、上司から公平・公正に評価してもらえるか、成長できる仕事を割り振ってもらえるかなど、社内の評価・キャリアへの不安を感じるとの回答があった。
●テレワーク環境下では、非対面のやりとりで相手の気持ちが分かりにくく不安、業務上の指示ややりとりに支障がある、会話が減って寂しさを感じる、といった課題を抱えているとの回答があった。

出典:厚生労働省資料 テレワークを巡る現状について

上記課題は、お客様からも聞こえており、また、テレワークを行っている当社の代表としても実感しています。この肌感覚を要約すると、

・テレワークの労働時間管理(把握方法、実際に1日の中で勤務時間が細切れになるケースがあり、これをどうトータルしていくか など)が難しい
・テレワーク時 コミュニケーションの場の確保(ツール・仕組み)が難しい
・社員の育成評価の仕方について、これを契機に変えた方が良いかもしれない
・テレワークを定義づけする就業規則 テレワーク規程の整備の仕方が分からない
・テレワークを本当は進めたいが、何から進めて良いか分からず、結果として、限定的な実施にとどまっている
などとなります。

このような中で、前回のケース2のようにテレワークを推進する中、一人暮らしの社員が一日中家で公私ともども時間を過ごした結果メンタル疾患となり、最終的には労使間のトラブルとなってしまうというのが実情です。

新しいワークスタイルですので、今後、色々な修正がかかっていくと思われます。

労務トラブルが頻発するそもそもの原因とは何か

労務トラブル

今まで、労務トラブルが頻発する背景・トピックに触れてきましたが、ここで、労務トラブルが起こるそもそもの原因について考えていきます。

・世の中が、コンプライアンス重視に舵を切っているにも関わらず、会社側が、それを分かっていない。
・社内規程、ルールの制定、ハラスメント教育実施などの環境整備が行われていない。
・会社側が、労働関連の法改正を分かっていない。
・上司・部下の関係性が良くない。
・若手社員の価値観の変化に会社側がついていけてない。
・社内の評価育成制度が整っていない。
・会社内に活気がない、事業の方向性が見えてこない、売上ダウンが続いている。等

どれも当たっていると思われますが、トラブルを防ぐ一番のポイント、入り口である「採用がうまくいっていない」→結果的に、問題のある社員を採用している、ではないでしょうか。

入り口段階で失敗すれば、いくら途中で修正しようとしても修正できる確率が低くなるのは自明の理です。結果として修正できないまま、出口段階で労務トラブルを起こして退職するという流れです。

労務トラブルを起こしそうな社員を採用しないためには

採用

労務トラブルを起こしそうな社員を採用しないためには、求人の前段階からの対応が必要です。

人材採用を成功させる4つの対応ポイント
1)人材ターゲット・人材要件を決める
2)決めた人材要件を求人票に記載する
3)面接では、人材要件に則した質問をし、具体的なエピソードを聞く
4)適性試験を行う

人材ターゲット・人材要件を決める

採用でありがちなのが、
・今いる人が辞めるので、取り敢えず補充をする。
・同じポジションで継続的に補充をかけている。
です。

会社の置かれている現状を踏まえ、事業の方向性を見定める中で、組織構成等も鑑みながら、この人材層が欲しいというロジックで人材ターゲットを決めていかないと、無駄足となってしまいます。

私は、企業人事、人材紹介、社労士をいう3職種を経験していますが、その経験から、事業の現状・方向性に立ち返らず、漫然と採用をしている会社が意外と多いと感じています。

人材ターゲットが定まったら、次は、人材要件を決めることが大事です。
・人材ターゲットに則した業務スキルを棚卸し、言語化していく
・人材ターゲットに則した行動特性を棚卸し、言語化していく
・会社、事業部門のカルチャーに則したキャラクター面を棚卸し、言語化していく

余談ですが、言語化した人材要件は、実は、人事評価制度の評価項目としても使えます。

決めた人材要件を求人票に記載する

人材要件を決めたら、次は、その要件を求人票に記載することが重要です。

人材要件を定め、その要件を書くことで、会社が求める人材が応募することになります。(要件を定めなければ、当然、会社に合わない人が、応募する確率が高くなる)

面接では、人材要件に則した質問をし、具体的なエピソードを聞く

例えば、人材要件のキャラクター面で「継続力(物事を成し遂げるまで決めたことをコツコツやり遂げる)」という要件を設定した場合です。

面接で、「私達にとって、継続力(物事を成し遂げるまで決めたことをコツコツやり遂げる)は、採用をする上で、大事なキーワードです。貴方には、継続力に自信がどれほどあるか。そのレベル感を表す具体的なエピソードも含めて、お話しください」と面接対象者に振ります。

面接対象者が、エピソードを交えて答えると、更に、「そのエピソードのこの部分をもっと具体的に説明してください」とドリルダウンして、真偽の程・レベル感・達成感を確認していくという次第です。

適性試験を行う

人材要件をきちんと決めて面接で人物評価を行ったとしても、人間がやることですので、ブレが生じるかもしれません。適性試験は、人物評価に関する補完的な意味合いで役に立ちます。

似たような質問に対して、違う答えを繰り返していると、二重人格の傾向ありとなる訳です。適性試験を行っていない会社は、一度、試してみてください。

最終回は、人材要件の設定の仕方について、具体例を交えながら紹介した上で、最後に、採用や人材要件を設定する前に「そもそもやるべきことは」というテーマを解説したいと思います。

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