社労士による労務管理解説

パワハラによる退職トラブルの事例【第1回】労務トラブルを未然に防ぐ!組織を成長させる人材戦略とは

山口 将司 社会保険労務士
社会保険労務士法人 山口人事労務オフィス 代表
1994年富士電機に入社し、一貫して人事労務部門の業務に従事。06年アクシスコンサルティングにてシニアコンサルタントとして人事紹介業で実績を挙げた後、11年社会保険労務士法人山口人事労務オフィス開業し、人事労務コンサルタントとして事業運営を行う。
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企業では様々な労務問題が発生しており、労務管理で頭を悩ませる経営者や人事担当者も多いのが現状です。それでは、パワハラ、セクハラ、未払い残業、解雇などの労務トラブルを未然に防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。人事や経営者の相談事例を交えて、社会保険労務士の山口将司氏に解説してもらいます。

社会保険労務士の仕事をしていると、顧客である経営者・人事担当者の皆様から、「労務管理は難しい」という言葉をよく耳にします。

・新人にどう教えればよいのか分からない
・中途社員が自分のやり方に固執して、アドバイスを聞かない、自分勝手に仕事を進める
・上司が部下を怒鳴り散らす光景を頻繁に見かける
・仕事のアドバイスをしていたら、ある日突然、会社に来なくなり、適応障害で2カ月の休職必要という診断書が届いた
・退職の申し出の翌日から有給消化に入り、引き継ぎをしないでそのまま辞めてしまう
・辞めた後に、未払い残業代の内容証明郵便が届いた 等

上記について、「うちの会社でもそのようなことが、、、」と思うところがあると思います。では、何故、そのようなことが起こるのでしょうか。本連載では、事例などを交えながら、原因及び時代背景・労務管理上のトピックなどを簡単に整理した上で、筆者が考える、労務管理が難しくなるそもそもの原因を推察し、その対応策の一例を提示します。 ここで、労務トラブルの事例を複数例示し、トラブルが起きた原因を推察します。

問題社員が同僚のパワハラで出社しなくなる。そんな時に突然労働基準監督署が…

ケース1 労務トラブル~生花販売・フラワーアレンジメント業の例~

1)トラブルの経緯

会社は、大きな花のモニュメントなどに使用する木工細工を作るのが得意なAさん(生花販売・フラワーアレンジメント業の経験なし)を採用しました。

採用にあたっては、面接は実施したものの、適性試験は行っていません。また、採用に関する人材要件も設定していませんでした。

当初は木工細工で活躍し、会社内の評判も上々でしたが、次のステップに上がってもらうために、花の仕入れや装飾も徐々にやっていこうと話しをし出した辺りから、Aさんの雲行きが怪しくなってきました。

具体的には、週6日労働が状態化している生花販売・フラワーアレンジメント業で週休2日を主張しました(法的に正しい)。

以後、自分で勝手に別の休日を週1日設定し、上司に断りなく休むことが多くなります。また、木工細工作りに固執し、花の仕入れ等の仕事は、上司が指示出ししても拒否する状況となりました。

ある日、上司が仕事の姿勢を諭すべく、話しをしていたところ、知らない間に複数の同僚が後ろで話しを聞いていて、Aさんに向かって、「自分勝手な主張をするお前とは一緒に働けない」「会社をいますぐ辞めろ」などの罵声をAさんに浴びせました。Aさんは、顔色を変え、その場を立ち去りました。

2)顛末

以降、Aさんは会社に出社することはありませんでした。そのような中、ある日、労働基準監督署の臨検が入ります。結果として、Aさんへの労災認定(パワハラ)と過去2年分の未払い残業代の精算をすることを以って、Aさんは会社都合扱いの退職となりました。

【労災認定(パワハラ)のポイント】
労災認定は労働基準監督署が行うものであり、認定のポイント詳細については、類推することしかできませんが、今回のケースでは、パワーハラスメントの6類型の中の「精神的な攻撃」が該当したと思われます。

精神的な攻撃の具体例(厚生労働省 パワハラ防止指針による)は、以下の通りです。
・人格を否定するような言動を行う(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)
・業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
・相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等をその相手だけでなく他の労働者も宛先に含めて送信する

今回のケースでは、人格否定と面前における大声の叱責のかけ合わせで判断していったと考えられます。

3)事例の問題点

ケース1における労務管理上の問題点について考察すると、第一に、採用上の問題が挙げられます。会社として、どのような人材が必要か、その人材はどういったスペックが必要かといった人材要件や、採用に関する人材要件を定義しないと、場当たり的な採用になってしまいます。

また、適性試験も行っていません。面接では分からない人物面を把握するのに適性試験は、一定レベルで有効です。これら2つを行っておけば、入り口の場面でトラブルを回避できたかもしれません。

次に、週6日労働と未払い残業が状態化している点です。この業界は、依然として週6日労働が状態化していると聞きます。そうであれば、1年単位の変形労働時間制で対応するなどしながら、さらに支払うべき残業代はきちんと支払う方向へと舵を切らなければ、いつまでも同じ問題が続くことになります。

最後に、パワーハラスメントについてです。パワーハラスメントの6類型(精神的な攻撃、身体的な攻撃、過大な要求、過小な要求、人間関係からの切り離し、個の侵害)やパワハラ防止法が施行されていることを知らない経営者・人事担当者が一定数いることは、社会保険労務士として日常業務をしている中でも感じます。今回の会社も、パワハラという概念が分かっていなかったし、当然、社員教育も行われていませんでした。これらの対応を少しでも行っていれば、今回のトラブルは防げたかもしれません。

ケース1のトラブル防止のポイント
・事前に採用における人材要件を定義する
・選考中に適性試験を実施する
・今一度就業時間の再考と、未払い残業が発生しないような勤怠管理方法を取り入れる
・パワハラ防止法を社内研修等で周知させる

次回は2つ目のケースとして食品ECサイト販売業を例に解説します。

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